真夏の夜の夢、アンダーグラウンドで静かに語り継がれるローマの亡霊伝説 Part1.

Cultura Cultura popolare Deep Roma Storia

撮影された異常な何者か

ともかく現代に至るまで、市庁舎の内部でひそひそと語られ続けるのは、元老院議員の亡霊ではなく、予測通り、中世の僧侶のエピソードです。

体験者たちの話によると、その亡霊は、おそらく彼が亡くなった日と思われる12月9日の前後に現れ、数々の怪奇現象を起こすのだそうです。市長から依頼を受けてカンピドリオに駆けつけた『ゴーストハンターズ』が、丁寧な聞き取り調査を開始すると、証言者たちは「塔の中を誰かが鎖を引きずって歩きながら、恐ろしい声で叫んでいたり」「電気技師がコンセントの修理をしていると、ものすごい勢いで重い二重扉が閉まったり」「上の階からいるはずのない誰かの足音や声が聞こえてきたりする」、と告白しました。そしてそれらの怪現象は、決まってに起こります。

特に顕著な出来事が起こったのは、1980年代終わりの12月9日のことでした。当時、市庁舎の内部を各階ごとに見回っていた夜警(vigili urbani-地方自治体警察官)の一団は、その夜の仕事の合間、市庁舎の一角で休息をとっていたそうです。そろそろ夜が明けるという時間、警備員たちは、眠っている同僚をひとり残して、サンタ・マリア・イン・アラチェーリ教会の近くにできたばかりの新しいバールに、朝一番のエスプレッソを飲もう、と揃って繰り出します。

市庁舎にひとり残された警備員は、1階付近から絶え間なく響く、異様な音に驚いて飛び起き、ひとりで廊下や部屋を見回っているうちに、自分が誰かに見張られている尾行されている、というはっきりとした感覚をで感じて、その場に硬直してしまいました。しばらくして、同僚たちが市庁舎に戻ると、その警備員はひどく怯えた様子で、シスト5世の鉄門にしがみついたまま離れることなく、結局勤務時間が終わるまで、頑として動こうとしなかったそうです。これは現在退職した、当時、市庁舎の夜警をしていた人物が語った話で、件の警備員は2度と夜勤の仕事に戻ることはありませんでした。

そこで2011年の、まさに12月9日、『ゴーストハンターズ』のメンバーは、赤外線、紫外線両方を感知できるよう改造したカメラ、低周波、超音波を収集できるレコーダーなど最新鋭の調査機材と共に市庁舎に調査に訪れ、一夜明かしています。その際は、地方自治体警察隊が、おごそかエスコートしたそうで、調査報告によると、建物すべてをモニタリングできるように、3階部分の広いスペースをベースに、数多くの怪奇現象の証言の舞台となった音楽室をはじめ、各階の廊下やニコロ5世塔、テラスに続く階段など、ホットスポットと思われる箇所にカメラ7台を設置。特に音楽室と大階段を集中的にモニタリングしました。

そしてその調査では、「本当にこんなことがあるのだろうか。しかもローマ市庁舎で!」という驚くべき結果が出ているのです。音楽室でマントを被った僧侶のような人物が浮かび上がるサーマルショット2枚の撮影に、『ゴーストハンターズ』は成功し、音楽室の上階では、サーモグラフィーが強い熱放射を感知。通常は20度ほどの温度であるはずの、誰も触っていないドアノブが、30度という高い温度を発していることが判明しました。それから1週間後、メンバーが再び市庁舎に戻り、数々の処刑が行われた死刑執行人の部屋をモニタリングしたところ、プロのカメラマンが撮影した写真の右側に、焼けたような黒い雲が浮かび上がっています(それらの写真は『ゴーストハンターズ』のホームページで確認できます。リンクしたページの下段をご覧ください)。

※『ゴーストハンターズ』の調査が明らかになったあと、5年前に放映されたトークショーでは、『5つ星運動』の市会議員たちも、野党の市会議員たちも、亡霊をベッペ・グリッロだとか、諸問題を抱えるカンピドリオそのものが亡霊だとか、まったく本気にとらえておらず、ロマンの欠片もない受け答えをして、ラッジ元市長が無邪気に「怖い」と発言したことが、いつの間にか政治案件に変化する、という怪奇現象が起きています。

『ゴーストハンターズ』創設者であり、リーダーのダニエーレ・チプリアーニは、Linkiesta.itのインタビューに次のように話しています。

「われわれの調査は、亡霊を追い払ったり、超常現象に介入するのではなく、科学的な調査で、異常の有無を証明するのみです。パラッツォ・セナトリオのサーマルショットの僧侶のような像を『サイキック残像』、つまり自動的に繰り返される過去の連続した再生のようなもの、と仮定し、明確に亡霊とは断定していません。『亡霊は存在するのか?』という問いには、科学的なアプローチとして、Anomalie=異常、超常現象と呼ぶのがふさわしいと考えています」

「われわれはその現象を裏付けするだけであり、そのあとは調査をした建造物、あるいは場所の所有者であるとか、場合によっては地方自治体であるとか、管理者の感性にまかせ、神父霊媒師を呼ぶ、あるいはその超常現象と共存することを学べばいいのです」とも付け加えていました。彼らはウンベルト・ディ・グラツィアなど国際的に有名なイタリアの霊能者とも共同研究をおこなっているそうです。

カンピドリオの『ゴーストハンター』調査が公になった頃は、ちょうど前市長ヴィルジニア・ラッジが当選したあと、スキャンダルが連続して勃発した頃だったので、il tempo紙などは、「ラッジは僧侶の亡霊を市政の相談役として雇えばいいのに」、などとの軽口も叩いていて、あまり真剣に事態を捉えている様子はありませんでした。

路上生活者をする人々が急激に増えた、今日も問題が山積みのローマでは、カンピドリオの僧侶の亡霊が、その後どうなったのかを語る人は、今のところは誰もいません。

考えようによっては、亡霊伝説が語られるほどの「のどかな時代」は、ローマからは過ぎ去ったのかもしれない、とも思った次第です。

※Part2.に続く

 

RSSの登録はこちらから