4月19日金曜日、#Fridayforfuture ローマに、グレタ・トゥーンベリがやってきた
3月15日の午後、地下鉄に乗っていると、顔にグリーンやブルーで地球の絵を描いたり、Love Earthのプラカードを持った高校生ぐらいの子供たちが集団で乗り込んできて、スマートフォンを覗き込んでは「いい写真が撮れた」とか「もっと写真を撮ればよかった」などと、ガヤガヤと騒いでいました。そういえば、その日は学生たちが地球温暖化に抗議しての学校ストライキ、大規模デモが開かれる日だったことを思い出し、「どうだった? 人がいっぱいだった?」と聞くと、「ローマのほとんどの学生が来ていたよ。大規模デモだった」という答えが返ってきた。
その日、スウェーデンの16歳の活動家、グレタ・トゥーンベリの#Fridayforfutureの呼びかけに、世界中125カ国の学生たちが賛同、「わたしたちの未来を決める環境問題を解決するために、政府は即刻パリ条約を履行すべき」と2083の広場を舞台に、140万人の学生が参加し、抗議デモを決行しました。イタリアだけで182の広場で学生たちのデモやイベントが繰り広げられています。
その学生たちのストライキ、#Fridayforfutureを、たとえばグリーン・ニューディールを政策の柱に掲げる『民主党』などは強く支持していますが、『同盟』のメンバーは「学生は学校に行くべき」と冷ややかな反応を見せ、なかには朝、子供が出かけるときに「今日のデモには参加しないの?」と聞いたところ「もちろん。広場に行けば気温が下がるからね。ねえ、こんなことが納得できる?ノー・サンキューだよ。僕は学校に行くよ」と微笑んで答えた、というエピソードを誇らしげにツイートした議員もいました。
地球の温暖化による気候変動の詳細は、ネット上に数限りなく情報が開示されているので、もちろんここでは触れませんが、プラスティックのリサイクルの問題などを含め、近年のイタリアでも洪水や大嵐などの異常気象で自然災害が相次いで起こり、その都度、自然環境の悪化、地球の温暖化について語られるようになっています。また国連は、現在77億の世界人口が、2050年には90億、2100年には112億に届くと試算しており、食料、エネルギー、医療に関するプログラムが危機に陥る可能性も強く危惧されている。
このラディカルな気候変動のせいで、ユネスコの世界遺産のいくつかが、2100年までに消滅するかもしれない、とも言われ、たとえばヒマラヤや北極の氷解など、明らかに目に見える変化が起こっているというのに、いまだに「地球温暖化説は陰謀だ」という声が根強くあるのは不思議なことです。
3方を海に囲まれたイタリアに関して言えば、ヴェネツィア、ナポリ、ヴィツェンツァ、フェッラーラなど13の都市が危険水域にあるとされ、地中海沿岸の16カ国にある249の世界遺産を含め、「ネーチャー・コミュニケーション」により監視されているそうです。特にヴェネチアはリスク最上位に数えられていて、3メートル水位が上がっても浸水が食い止められるという『モーゼ』プロジェクトを発動する日もそう遠くない将来に訪れるのでは?とも言われています。さらにイタリア全国の37の地域に、大洪水、氾濫リスクがあるとされ、42の地域では、すでに侵食がはじまっている。
では、欧州連合はこんなイタリアの、環境問題対策をどう見ているのか、といえば 2018年の米国の各大学と欧州監視委員会の調査で76.96ポイントと採点され、これは欧州各国中、16番目と下位のポジションとなっています。優良な環境対策国として上位を占めるのは、マルタ、アイルランド、オーストリア、ルクセンブルグ、スカンジナビアの国々で、16番目のイタリアに後続するのはスペイン、ギリシャとなっています。いうまでもなく、イタリアもパリ協定批准国のひとつです。
また、フランチェスコ教皇が「地球環境問題におけるグローバル・エシックス」の構築を急いでいるにも関わらず、イタリアの議会において提出された環境関連の法案は、全法案2800のうち、110(4%)に過ぎず、内訳としては、『5つ星運動』が30、『民主党』が19、『フォルツァ・イタリア』が16、『自由と平等』が12、『イタリアの同胞』が7、『同盟』が5と、環境に関する政治の関心が極めて低いという結果になっている。特に極右政党は、環境問題にほとんど関心を払っていません。
このような状況にあるイタリアの4月19日、復活祭を前にしたキリスト受難(パッショーネ)の金曜日、学生たちが毎週、「気候変動」に政府はいますぐ答えを出すべき、と抗議ストライキをしているポポロ広場に、あのグレタ・トゥーンベリがやってくることになったわけです。
その日、あの広々としたポポロ広場が、グレタに賛同する子供たち、そして大人たちですし詰めになり、いったん前に進むと、2度とうしろには戻れない、と言う状態になりました。当局によると、2万5千人が参加という発表でしたが、その場に居合わせたわたしには、もっと多くの参加者がいたように思えます。なにしろ子供たちに囲まれてまったく身動きがとれず、4時間近く同じ場所に立ったままどこへも行けないという、なかなか過酷な状況だったのです。
ところで、グレタ・トゥーンベリというノーベル平和賞候補でもある、まっすぐに厳しく、何ひとつ飾りも演出もなく、クリスタルのように透き通ったエネルギーを持つ女の子のその信念には、わたしもすっかり心を鷲掴みにされていて、「まったく彼女の言う通り」と常々強い共感を覚えています。本人の存在を身近に感じた金曜日には、彼女のちいさな体にみなぎる求心力と、ひたひたと直接心に刻み込まれる言葉に、こんなエネルギーのことを本物の「カリスマ」と呼ぶのだろう、この少女には、何かが宿っているのではないか、とも感じました。
もちろん広場に集まった子供たちの誰もが、心からグレタを信頼し、彼女がステージに上がるのをいまか、いまかと心待ちにしている様子でした。そしてグレタの姿が見えた途端、「グレタと一緒に地球を変えるんだ」と大合唱が起こり、広場中にグレタコールが木霊した。その子供たちの強烈なシュプレヒコールとあまりにパワフルなバイブレーションに、トランスを起こしそうになったくらいです。
そもそも群衆のパワーというものには、距離を置いて冷静に対応しなければ危険ではありますが、グレタのようにロジカルに、子供たちのより良い未来のために、大人たちにポジティブな闘いを挑むケースには、多少巻き込まれるのもいたしかたありません。凄い子供が出現した、というのが素直な感想です。
グレタをポポロ広場に招聘したイタリアの学生たちが構成する#Fridayforfuture Italiaの面々も、このまま行くと生物が住めなくなるかもしれない、時代時代を生きた大人たちが作った世界が、そのままだらだらと慣性で未来へ突き進むことを決して許さず、「地球の温暖化を止めるためには、世界のシステムを変えなきゃいけない」「その通りだ。システムを変えなきゃいけないんだ」と口々に主張して、満場の拍手を浴びていた。ローマだけではなく、ミラノ、ボローニャ、ナポリ、パレルモなどイタリア各地の、9歳の女の子から大学生まで、たくさんの子供たちが訪れ、それぞれの意見を強く主張しました。
そのストライキをリアルにフル体験、子供たちの力強い呼吸と溌剌とした生命力を間近に感じて、こんな子供たちが未来を作るのであれば、ひょっとしたらそう遠くない将来、わたしたち大人が知らないオルタナティブな世界が広がるかもしれない、とも感じ、なんだか安堵しながら帰路についた次第です。グレタはフランチェスコ教皇とも面談し、イタリアの上院議会でも、政争に明け暮れる議員を手厳しく批判するスピーチをしています。
朝10時から4時間、ポポロ広場に設えられたステージでのライブをはじめとするすべてのイベントの電源は、128人のバイシクル・プレーヤーが交代で漕ぐ自転車により供給されました。またグレタがペットボトルではなく、やっぱり水筒で水を飲んでいたことも印象に残った。こんなに真剣に未来を見据える子供たちを、欲深く、エゴでいっぱいの大人たちが邪魔することなく、また彼らを利用することなく、その信念を支えることを強く希望します。ちなみにこのストライキに、政治色がまったくなかったことには、ほっと胸を撫でおろすことになりました。
がんばれ、子供たち。