地中海のカタストロフ、静かに聞こえてきたジョルジャ・メローニ政権の不協和音

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市民の神経を逆撫でしたメローニとサルヴィーニのデュエット動画

事故から3週間が経っても、毎日新たな犠牲者が確認されるステッカート・ディ・クートロでは、カトリックの団体がVia crucis(キリストの十字架の道行き)の儀式を行い、砂浜には大破した木造船の破片で造られた十字架がいくつも建てられて、多くの人々が祈りを捧げに集まりました。また、3月12日にはローマからも大勢の人々がクロトーネまで赴き、クートロの砂浜に1万人が集まる大規模デモが繰り広げられています。

そうこうするうちに、犠牲者の弔問にも訪れなかった首相は、「まるで政府が人々を故意に見殺しにしたような報道がなされているが、そんなことがあるはずはない。まったく信じられないことだ」と激怒しながら突然現れて、左派メディアを徹底的に批判しましたが、メディアが最も問題視したのは、首相をはじめとする閣僚の誰からも、犠牲者やご遺族に哀悼の意が伝えられなかったことなのです。

その世論への対策というか、プロパガンダというか、メローニ政権は、事故から2週間後の3月9日に、わざわざクロトーネで閣僚会議を開き、「クートロ法案」と呼ばれる、イタリアを訪れる移民・難民船に関する法案を、改めて決議しています。

その日、クロトーネにものものしく集まった首相、閣僚たちから、今回の事故の原因、あるいは責任の所在に関する何らかの見解、あるいは犠牲者、ご遺族への哀悼の意が表明されることを期待しましたが、閣僚会議が決議した「クートロ法案」の空疎な内容、そしてメローニ首相のメディアへの対応を含めて、心底がっかりしたことを、告白しておきたいと思います。まず、メローニ首相は、事故の経緯をまったく把握しておらず、ジャーナリストたちからは怒号が飛び交い、記者会見騒然としました。

なお、クロトーネで閣僚会議が提示した「外国人労働者の合法的入国と不正移民の防止および撲滅に関する緊急規定」と題されたこの「クートロ法案」の主な内容は、スカフィスティが同行する移民・難民の人々の船に、ひとり、または複数の重症者が出た場合は10~20年、ひとり死亡の場合は15~24年、複数の死亡の場合は20~30年の厳罰がスカフィスティに下される、というものですが、前述したように、スカフィスティはある時点まで到達すると船から逃げてしまう、あるいははじめから同行しないケースもあるため、逮捕するのは至難の技です。また、密入国をしようとした船の舵を取る10人のうち、少なくとも8人は、人身密輸業者から船の舵を取るよう命じられた人々だった、という報告もあります。

さらに、首相はイタリアに訪れるスカフィスティだけではなく、「世界中のあらゆる場所(たとえばリビア、エジプト、チュニジア、トルコなどだと推測しますが)で、徹底的にスカフィスティを探し出し、捕まえる」とまで発言していますが、人身密輸業組織の元締めを捕まえることなく、スカフィスティだけを捕まえることは「マフィアの大ボスの運転手だけを逮捕するのと同じこと」という批判を浴び、さらには「人身密輸のシステムをまったく理解していない暴言」とまで言われることになりました。

また、ピアンテドージ内相が上院・下院議会のブリーフィングで語った、正規の入国経路としての人道回廊を新たに設ける、という案は今回は提示されず、イタリアで無期労働契約(tempo indeterminato)を持つ、あるいは自営業、家族を呼び寄せる外国人のための滞在許可の更新期間が2年から3年に延長される、という緩和策が発表されたに過ぎません。いずれにしてもイタリアにおいては、5年間合法的に国内に滞在した外国人には長期滞在ヴィザが交付されるシステムになっています。

そして「やはり」、と思ったのは、2019 年に「サルヴィーニ法」で剥奪された、脆弱な境遇にある難民の人々の人道的滞在許可が、『5つ星運動』『民主党』連立政権で再び蘇り、特別保護(現在約1万人)として給付されていたヴィザを、今後完全に中止する、と確認されたことでしょうか。

この閣僚会議の際、『イタリアの同胞』の防衛大臣グイド・クロセットが、難民の人々が乗る船の救助のために海軍の出動を提案したそうですが、サルヴィーニからただちに却下されています。今回、決議された法案を見る限り、イタリア初の女性首相による現政権は、残念ながら『同盟』サルヴィーニ副首相、及びインフラ・交通相の強い影響下にあることが、こうして明白にもなりました。

閣僚会議の記者会見が終わったあと、ジャーナリストから「ご遺体が安置された体育館を訪れないのか」と尋ねられたメローニ首相は、「今終わったところなのに。すべてが終わったら、いつでも行く」と、とても首相とは思えない苛立った口調で、足早にその場を立ち去っています。

あとから判明したことですが、その翌日、首相はベルルスコーニ元首相とともに北イタリアのコモで開かれたサルヴィーニの誕生日パーティに出かけており、首相がサルヴィーニとデュエットで、声を張り上げてカラオケを歌っている動画が流出。しかもその歌は、あろうことか、伝統的左派が敬愛するファブリツィオ・デ・アンドレの「マリネッラ」という、川で溺れた女の子の歌だったのです。

もちろんその動画は物議を醸し、「こんな事故のあとに酷すぎる、冷血!」「無神経。彼らはモンスターなのか」との声がSNS上にも、左派系メディアにも溢れました。また、こんな動画の流出に、一瞬は内部告発か、とも思いましたが、動画を公表したのは、実は誕生日パーティに出席していた右派系新聞の副編集長だったそうで、その理由はというと、左派メディアが「クートロの海難事故をきっかけに、『イタリアの同胞』と『同盟』の間に、明らかに亀裂が入り、葛藤が生まれている」と報道したことに対して「連立与党はこんなに仲がいい」と、強調するためだったと言います。しかしその、あまりにわざとらしい幼稚な演出、グロテスクな選曲で、どこかぎこちなく歌うふたりの歌声に、どっと気持ちが落ち込む逆効果となってしまいました。

あるいはー猜疑に満ちた見解にはなりますがー現政府はこの動画を通じて、移民・難民の人々に対する己の非情、「これがわれわれのイデオロギーだ」と、アピールしたかったのかもしれません。

結局、問題は何ひとつ解決しないまま、この閣僚会議のあとも、難民の人々を乗せた船が続々とイタリアに押し寄せています。3月11日の土曜日には1000人もの人々を乗せた船3隻からSOSが発せられ、GdF、沿岸警備隊、そして海軍まで出動する事態となり、さらにこの1週間というもの、次から次に難民の人々を乗せた船がイタリアに到着し、3日間で3000人の人々が上陸することもあったそうです。しかも治安当局やシークレット・サービスによると、「今後68万5000人の非正規移民・難民の人々がリビアから出港する可能性がある」と分析されています。

3月12日には、リビアの沿岸で、数時間前からSOSが発信されながら、リビアの沿岸警備隊、マルタの沿岸警備隊、そしてイタリアの沿岸警備隊も出動することがなく、粗末なゴムボートに乗せられた47人のうち、17人のみが商業船に救護され、30人が行方不明となるという海難事故が繰り返されました。

イタリアの沿岸警備隊は、さっそく「われわれの責任ではない」と発表しましたが、イタリアの海域での難民救護をイタリアに禁止されているNGOは、「こんな悲劇が起こったのは、船が数時間前からSOSを送信していたのに、救助を遅らせたイタリアのせいだ」とイタリア政府を強く糾弾しています。


さらには3月13日、防衛大臣クロセットが突如として「リビアからの難民ブームは、チレナイカ地域に侵入したロシアの民間軍事会社ワグネルが仕組んだハイブリッド作戦で、傭兵たちをイタリアに潜入させようとしている」と発表しましたが、同日、ワグネルの所有者と見られるエフゲニー・プリゴジンから「われわれは他の問題で忙しいのだ。クロセットはバカじゃないのか」と返され、欧州連合もまた、防衛大臣のワグネルイタリア潜入説を打ち消しています。

なお、この情報は発表の10日ほど前に、シークレット・サービスから伝えられたとされますが、専門家の分析によると、リビアに駐留するワグネルはごく一部であり、船が出航するトリポリの港には何の影響力もないことが確認されています。したがって、何年も前から「次から次にイタリアに訪れる難民の人々の背後には、『ジョージ・ソロス』がいる。陰謀だ」と主張していた『イタリアの同胞』が、どうやらいつの間にか、その背後には「プーチン大統領がいる」という主張に変わった、ぐらいにしか受け止められていません。また、プリゴジンがクロセット大臣に1500万ドルの懸賞金をかけた、とのニュースも流れましたが、これもまた、ロシア側の戦争プロパンガンダの一環、と捉えられています。

3月16日、メローニ首相はようやく今回の事故で生き延びた人々やご遺族と面会し、今後も行方不明の人々の捜索を継続し、ご遺族への援助を惜しまない、と約束しています。しかしその際、「こんな船で地中海を渡るリスクを考えなかったのか?」との無神経な発言もあったそうです。

 

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