地中海のカタストロフ、静かに聞こえてきたジョルジャ・メローニ政権の不協和音

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混乱した政府の対応から垣間見えたサルヴィーニの影響力

事故が起こった日曜の午後、クロトーネに急行し、その後、大破した木造船の破片や、海に流された子供たちの靴や衣服、ぬいぐるみが散らばったステッカート・ディ・クートロの砂浜を訪れた、内相マテオ・ピアンテドージ(『同盟』)の発言は、それを聞く者に、怒りを通り越して、恥ずかしい、という感情を抱かせるほどの「責任逃れ」に終始したことを強調しておきたいと思います。

現場の視察ののち、記者会見に臨んだ内相は、「船が出港したから事故が起きたんだ」「事故のすべての責任はスカフィスティにある」「絶望が、自分の子供たちを違法な船に乗せることを正当化できるとは思わない」、といつもの神経質な、聞き取れないほどの早口で、「当局にも、政府にも責任はない」とまくしたてるだけで、その日の朝、海に飲まれて亡くなった人々への哀悼や、死に物狂いで岸に辿り着きながら、子供たち、配偶者や恋人、友人を失って嘆き悲しむ人々への慰めの言葉ひと言もありませんでした。

もちろん内相の言う通り、航海に明らかに危険があるにも関わらず、次から次に粗末な木造船やゴムボートを出港させるトラフィカンテ(スカフィスティではなく)に責任があるのは、決まりきったことであり、なんとか責任逃れをするために、改めて強調すべきことではありません。

メローニ首相はと言えば、SNSで「2013年の海難事故における(当時の首相)マテオ・レンツィの責任をも追求すべき」と、まったく違う条件で起こった以前の重大海難事故を持ち出して、世論に無理やり反論した以外、その後はシーン、と静まり返っていました。

いずれにしても、内相の、そのあまりの非情さと無責任な態度に、『5つ星運動』『民主党』をはじめとする各野党、メディア、そして市民も一斉に反発。「ピアンテドージ辞任!」の声がみるみる広がり、犠牲者の棺が整然と並べられたクロトーネ市の体育館には、遺族に寄り添う多くの市民が集まり、「公正な裁きを!」と訴えました。それでもセルジォ・マッタレッラ大統領、そして『民主党』の女性新リーダーとして選出されたばかりのエリー・シュラインがその体育館を弔問した以外、メローニ首相も、サルヴィーニも長きに渡って沈黙を保ち、その政府不在に、クロトーネ市長が「政府はいったいどこにいるんだ、何をしているんだ」と怒りを表したほどでした。

メローニ政権が樹立した日、ドラッグで酩酊した若者が運転する車にはねられ、亡くなった青年のお葬式に駆けつけ、涙を流してその死を悼んだメローニ首相は、ステッカート・ディ・クートロの海岸線で亡くなった88人の人々のためには、一滴の涙をも流すどころか、その死を悼むふりさえせず、沈黙に終始したのです。その心理を分析するならば、あまりに深刻な、取り返しがつかない重大海難事故に直面し、まったく手加減しない左派メディア総出の責任追及に恐れをなしたのでしょうが、首相であるならばただちに現地に赴くべきでした。

一方、世論に大きな非難が渦巻く中、矢面に立たされ、辞任を迫られたピアンテドージ内相は、しかし微塵もひるむことなく、「当局に落ち度はまったくない」、との強硬姿勢のみならず、難民の人々の受け入れ、亡命のリクエストをさらに制限するなど「サルヴィーニ法」の復活を主張しはじめます。その間、確かに一瞬は、内相の辞任もありえるかもしれない、とも思える緊張した空気が流れましたが、全与党、及び右派メディアが「悪いのは君じゃない」、と全力で内相を擁護し、結局何事も起こらないまま今に至ることになりました。

そのピアンテドージ内相は、上院、下院議会のブリーフィングで、「今後は、われわれが難民を迎えに行く」と、いわゆる「人道回廊」案を提示していますが、たとえばどの国と交渉し、どのような手段で実現するか、その具体的なシステムが提案されたわけではありません。

しかし、よくよく考えてみれば、『同盟』の内相を、世論に恐れをなした『イタリアの同胞』のメローニ首相が解任するようなことがあれば、『同盟』党首のサルヴィーニがそれを黙って受け入れるはずはなく、『同盟』が連立解消!とでも主張しはじめたなら、『右派連合』はその場で空中分解、政権崩壊となるわけですから、たとえピアンテドージがどんなに強硬に自己弁護を繰り返し、ひたすら責任回避という醜態を晒しても、首相としては内相を解任するわけにはいかなかった、とは思います。

また、ピアンテドージ内相の今回の頑なさは、難民という、何の後ろ盾もない、最も弱い立場にある人々を虐め抜く非人間的な政策で、かつて人気を独占し、イタリア国内の分断を一気に構築した成功体験を持つマテオ・サルヴィーニが、政府内での影響力を確固としたものとするための作戦の一環だった可能性もあります。

では、難民政策に関してのメローニ首相の方針はどうなのか、というと、選挙キャンペーン時から「大量の難民はジョージ・ソロスの陰謀」「シチリアは難民キャンプではない」などと繰り返し、難民の人々受け入れ拒否を強く主張していましたから、たとえサルヴィーニの動向を不安視し、政治的反感を抱いていたとしても、「違法な移民・難民は仇」との方針は、そもそも合致しています。

ANSA/FRANCESCO ARENA

ただし、今回の海難事故の2日後には、世論に非難が渦巻くのを恐れてか、メローニ首相の義兄にあたり、首相に最も近いと言われる農業・食糧主権省のフランチェスコ・ロロブリジダが、唐突に「合法的な移民・難民50万人」の受け入れ計画を発表しています。

その計画では、合法的な移民を支援するための多国間および二国間協定を通じて組織化することも可能、とされますが、イタリアの外国人における合法、違法の選別は、複雑きわまりない「ボッシ・フィーニ法」と呼ばれる外国人規制法に縛られているため、現在の状況では、いったいどのような方法で、合法的に50万人もの移民・難民の人々を受け入れるのかは、まったくの謎です。

実質的には、イタリアへの移民の流入を制限する目的で成立した、この「ボッシ・フィーニ法」には、外国人のイタリア入国の条件から、トラフィカンテ(人身密輸業者)に関する罰則など多くの項目があり、基本、入国前にイタリア国内で経済維持が可能な労働契約(その多くは、イタリア人がもはや従事しなくなった、介護、家事手伝い、農業における季節労働など)を結んでいる外国人のみが入国を許されるとされています。しかし遠方にいる未知の人物労働契約を結ぶことは困難を伴うため、外国人労働契約斡旋エージェンシーが介在しても、ごく少数の外国人にしか機能していません。

実際外国人がイタリアへ移民する場合は、まず観光ヴィザなどで入国し、しばらくの間不法に滞在しながら労働契約を結ぶことに成功し、滞在許可証を得る(Sanatoriaー恩赦)という経緯が大部分です。また失業し、滞在許可証及び身分証明書を持たない外国人は国外追放と定められてはいても、現実にはかなり多くの違法滞在(2021年1月1日の時点で3.373.876人)が確認されています。

少子化が著しいイタリアでは、農業分野だけで150万人の人手が必要だと言われており、法律の立案者であるジャンフランコ・フィーニを含め『イタリアの同胞』は、この「ボッシ・フィーニ法」の改正に賛成していますが、『同盟』が一丸となって反対している、と報道されているところです。

▶︎市民を逆撫でしたメローニとサルヴィーニのデュエット動画

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