スピンオフ:イタリアのグランド・ロッジ派のフリーメイソン本部を訪ねて

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A:.L:.A:.Mという聖域

さて今回、短い期間ではありましたが、ローマに戻って面倒な雑用をこなしたり、マフィアの資料などを探すうち、イタリアで2番目に大きいロッジであるA:.L:.A:.Mを訪問できる、いわば市民向け観光ツアーを見つけて、早速出かけることにしました。そのツアーは、20人ほどの応募した人々と共にロッジを巡る、2時間の非日常体験でしたが、GOIを訪問した時と同様、あるいはそれ以上にざっくばらんで、「本当に秘密組織なのか」という印象を受けると同時に、宗教団体を思わせるスピリチュアルなムードも漂っていて、おおいに好奇心がそそられた次第です。館内の写真も自由に撮らせてくださいました。

まず、そのロッジではGOIでは受け入れない女性外国人をも受け入れている(もちろん入会を希望する際、動機などを詳しく精査される面接が行われたうえで)そうで、実際、ロッジの内部を案内してくださったのも、穏やかな女性の「マッソーネ」の方でした。

最初に案内されたのは、「マッソーネ」たちがロッジに入る際に瞑想する、正面上部に「自由平等友愛」と書かれた小さい神殿で、三角形の中で光る目、ピラミッド、コンパス、石工が使うハンマーや石の破片など見慣れたシンボル、さらに聖書、ハヌカ(ユダヤ教の椰子の形の蝋燭)、六芒星、太陽、月などが装飾され、よく言えばあらゆる宗教に寛容な、皮肉を言えば節操がない、しかし秘儀が行われるに相応しい荘厳な雰囲気ではありました。

このようにキリスト教、ユダヤ教、古代宗教などのシンボルが同時に存在するのは、このロッジ特有なのかもしれませんが、他のロッジの神殿を見たことがないので、詳細を判断できないのは残念です。また、このように多様な宗教的シンボルが共生する神殿を抱きながら、「マッソネリーア」を単純に「宗教」と定義することはできず、自分自身の深層と対峙する修行によって、33段階あるグレードを一段階づつ登っていく、自己の真の成長の過程を体験する、いわば「秘教」だということでした。その有り様は、どこか仏教的な印象もあり、ひょっとすると密教に似ているのかもしれない、などとも考えます。案内してくださった方は「修行の過程は厳しく、わたしはまだまだ未熟です」とおっしゃっていましたが、その物腰から、かなり高いグレードに到達されているのではないか、とお見受けしました。

また、「いったいこのシンボルは誰の目なのだろう」と、個人的な謎であった、目のシンボルについて尋ねたところ、即座に「第3の目だよ」という答えが返ってきました。つまりこの目は、「神」であるとか「おおいなる宇宙の意志」と呼ばれるような他者の目ではなく、自分自身のまだ開かれていない「目」だということでした。なるほど。一神教における「神」を想像していたため、今回の訪問における、これが最大の発見となりました。

さらに神殿の床は、昔観たデヴィッド・リンチの映画を思わせる、白と黒の市松模様になっており、われわれの世界が、善・悪いずれからも成立している事実、その相対性を表現しているのだそうです。いずれにしても、一種の観光とはいえ、普段は見られない特殊な神殿をリアルに目の当たりにすると、あちらこちらで語られる、あの「マッソネリーア」のシンボルは実在したのだ、と興奮します。たびたび語られ、陰謀論に結びつけられるドル紙幣のシンボルもまた、「マッソネリーア」のシンボルに間違いないそうです。そういえば、サンタ・マリア・マッジョーレ教会礼拝堂の右脇にある小さい部屋のステンドグラスにも「目のシンボル」が施されているのを見つけたことがありますが、そのことを質問しそびれたことをちょっと後悔しています。

「1717年、洗礼者聖ヨハネの祝日に、ロンドンで既存のロッジが合併。ロンドン・グランド・ロッジ、すなわち近代マッソネリーアが誕生し、イタリア、フランス、ドイツで、イギリスのマッソネリーア(フリーメーソン)が急速に広まりました。マッソネリーアは『自由』な組織であり、『世俗的』でありながら、『秘教的』な性格を持ち、マッソネリーアの原則にしたがって、個人完成させるために研究を続けています。『自由と平等の原則』を尊重し、『寛容さ』をもって、対立、分裂を克服するために他者の意見を尊重することを特徴としています。このロッジはあらゆる差別を否定する『平等の原則』を尊重して1956年以来、女性を受け入れています」

これが訪問した際に、配られたパンフレットの抜粋です。

そのパンフレットには、歴代のマッソーネとして「トト(アントニオ・デ・クルティスーイタリアの国民的コメディ俳優)、ゲイリー・クーパー、クラーク・ゲーブル、ジョン・ウェイン、アレクサンダー・フレミング、エンリコ・フェルミ、アルバート・アインシュタイン、ゲーテ、ガブリエーレ・ダヌンツィオ、ヴォルテール、スタンダール、トルストイ、マーク・トウェインetc.」という錚々たる顔ぶれが並び、政治家としては、リンカーン、ワシントン、ルーズベルト、チャーチルetc.が並んでいます。

いずれも誰もが知る、偉大な(あるいは、良きにつけ悪きにつけ世界的にインパクトのある)功績を残した芸術家科学者政治家たちであり、ではなぜ、「マッソネリーア」のイメージが、いまだに国際陰謀論に結びつけられて語られるのか、また、その名を聞くだけで、何か薄暗く、禁断のイメージが浮かび上がるのかを疑問に思います。それともやっぱり何らかの、隠された重大な秘密があるのだろうか、と、案内されたカンファレンスホールの祭壇上部に飾られたラファエッロの「アテネの学堂」のコピー壁画を観ながら考えたりもしました。

昨今、「マッソネリーア」に入会する人々が減少している、という話をよく聞きますが、入会したあとも、自分が望むような利益(たとえば強力な権力を持つ「兄弟」の計らいで、良いポジションにつく、など)が得られない場合は、2、3年で退会する人も多くいて、「そんな目的で入会してもらっては困る。今まで自分は仕事で優遇されたことなんて一度もない」と、きわめて真剣な面持ちでマッソーネの方は語っていました。

そういうわけで、今のところはまったくその気持ちはありませんが、いつか「マッソネリーア」について調べてみたい、と思う可能性がないこともない、と考えて、この場に短いレポートを残してみることにした次第です。

 

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