命がけで訪れる難民の人々の目前で、すべての港を閉じたイタリアの6月

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善良主義の終焉と非道主義の台頭

地中海を渡る難民の人々の、主な受け入れ国であった『民主党』政権時代のイタリア、そしてギリシャは欧州各国と難民の受け入れについて協議を繰り返し、結果、欧州はトルコと合意、トルコが国境を管理して、難民の人々の欧州への道を閉ざし、イタリアは前述したイタリアーリビア合意を結んで、それを少しづつ強固にしはじめたところでした。しかしイタリアに訪れる難民の人々の主な出発地点リビアは、2011年、ジャスミン革命の影響ではじまった内戦に介入したNATO軍の攻撃でカダフィ大佐が死亡、トリポリが陥落したのち壮絶な混乱に陥っています。

複数の政府が乱立するなかイスラム国が乱入、テロリストが跋扈し、統制を失った軍部が乱暴狼藉を繰り返すなか、リビア・マフィアが暗躍し、強盗だけではなく、レイプ、誘拐、殺人、監禁、拷問が日常という、まるで地獄のような状況です。したがってイタリアが、合意通りに難民の人々の出発をコントロールすることは容易なことではありません。 そして、これほど多くのアフリカ難民の人々が、とめどなく欧州を訪れるようになった最も大きい原因と考えられるのは、カダフィ大佐が死亡してトリポリに穴が開いたからに他ならない。

しかも反乱軍を支援したNATO軍の中核を担ったフランス、英国 (もはや欧州の一員でもありませんし)は地中海を渡る難民の人々にしっかりと国境を閉鎖、自分たちの国では、もう手に負えない、とすべてをイタリア、ギリシャなどの沿岸諸国に押しつけようとしました。フランスに至っては、ベルルスコーニにカダフィ大佐を紹介されたサルコジ元大統領が、自らの選挙キャンペーン費用の大半を大佐に支払わせたにも関わらず、その直後にリビアをだまし討ち、攻撃する、というなんともグロテスクな経緯でした。

いずれにしても、かつて欧州各国に植民地とされたアフリカ大陸の国々の多くは、植民地から解放されてなお、そもそもの宗主国の搾取から逃れることが、現在になってもままなりません。欧米勢力と癒着した汚職、収賄だらけの専制に苦しみ、内紛に巻き込まれ、原理主義過激派のテロに脅かされ、原油、ダイアモンド、鉄鋼、ウラン、金、チョコレート、コーヒーなどの農作物、海産物など、驚くほど豊かな資源が大陸を覆っているにも関わらず、それらの資源を欧米中に独占されています。アフリカの多くの国の人々が貧困から逃れられず、満足な医療も教育も受けられないという、想像を絶する南北の不均衡を生んでいるのです。

こういう状況にありながら、たとえばフランスにまつわるエピソードでいえば、イタリアーフランス国境付近で、先にフランスに移民した妹を頼りに国境を渡ろうとした女性が、国境でフランス兵にブロックされ、それ以上は前進できなかった、という事例がありました。そのアフリカ人女性は妊娠7ヶ月の上、緊張に満ちた長旅で持病が悪化、絶望に打ちのめされトリノの病院で亡くなっています。そしてこれはほんの一例で、難民の人々の国境を巡るトラブルは枚挙にいとまがありません。

サルヴィーニ内務大臣は、「戦争、内紛による難民は受け入れるが、貧困から逃れるために訪れる経済難民は追い返す。イタリアの貧困層を救うことがまず先決。イタリア人が第一だ」とトランプ大統領と同じ論理を振りかざしていますが、ならばアフリカ大陸、さらに中近東の資源の恩恵を受けることをまず諦めて、自国の資源だけで賄えばいいのです。そうすればイタリア至上主義どころか、経済そのものが立ちゆかなくなるはずです。

国境でのオペレーションに反対する2017年のデモで。

いずれにしても今回、難民の訪問が近年減少したにもかかわらず、フランス・ドイツはサルヴィーニの派手なパフォーマンスに反応し、少なくとも当初は大きな歩み寄りを見せたことで、コリエレ・デッラ・セーラ紙は『(今までのイタリアの)善良主義は終焉した。しかしサルヴィーニの非道主義はより良い方法なのか?」という記事を掲載しました。

善良主義に飽き飽きしたイタリアの市民は、サルヴィーニの行動がエゴイズムが蔓延した欧州各国を目覚めさせるエネルギーとなった、と認識した。しかしサルヴィーニの非道主義では、世界を敵、味方に二分し、全てを抱合するキャパシティを失ってしまう。さらにそれは民主主義の終焉でもある。こんなことはそもそも内務大臣のやるべきことではないのだ。安全保障という非常にデリケートな公共財産である機構を守るために、通常内務大臣は、政党の主義主張からは自らを切り離すものだ。善良主義は、人々を受け入れながら( それは不正行為を働く人々を手助けすることにもなるのだが)、難民の人々の不正な輸送と断固として闘ってきた。しかし非道主義は、人間を認めない。あるいは難民の人々を不正な輸送の犠牲者ではなく、犯罪者であるかのように扱おうとする。そういうわけで、彼らを地中海の『豪華客船の客』で、一旦上陸したら天国のような生活を楽しもうとしている、と表現するわけだ・・・・

実際のところ、今までの『民主党』政権の善良なイタリアの方針ではなく、サルヴィーニの暴力的な拒絶のショックで欧州各国が、一瞬のうちに動いたのは不思議なことです。しかしながら、そのときふと思ったのは、新政府樹立の直前、ユーロ懐疑主義のハイキャリアのエコノミスト、パオロ・サヴォーナを財務大臣に両党が推挙した際「イタリアは『脱ユーロ』を企てているのでは?!」との憶測を呼んで市場が大荒れ、国債スプレッドが高騰したことでした。

このときのわたしは他の人々と同じように、市場がサヴォーナ財務大臣を却下政治混乱に嫌気し、組閣を催促したことで、イタリアは、ほぼテクニカルに政府を樹立する必要があった、と考えたのですが、実のところ事情はまったく逆で、イタリアは『脱ユーロ』もありうるぞ、という爆弾(市民にはさらさらその気がないとしても)で、市場恫喝したのかもしれません。もし万が一、欧州でGDP3位の経済国であるイタリアが『脱ユーロ』ということになれば、間違いなく欧州連合は解体です。

「ディ・マイオはともかく、『同盟』のサルヴィーニは何するかわからない、言うことを聞かないと、そのうち『脱ユーロ』の国民投票をする、と言い出すかもしれない」サルヴィーニはそんなイメージで、欧州におけるイタリアの存在感、威信を取り戻そうとしているようにも見えますが、それはコリエレ紙が書くように、内務大臣の仕事ではありません。さらに、こんな暴力的なアプローチでは、うまくいくはずの話し合いも頓挫しかねない。

それでも今回驚いたのは、サルヴィーニが『アクアリウス』の入港を拒否したことに、イタリア国民の57%が賛成した、という調査結果が出たことでした。しかし、こういう状況下で決して忘れてはいけないのが、『同盟』は今でもベルルスコーニ(異様に静かな)の『右派連合』に属したままだという事実です。ベルルスコーニは『鉛の時代』、『秘密結社ロッジャP2』のリストに名前を連ね、マフィアとの癒着も疑われる謎の多い人物だということも覚えておかなければいけません。また、かつての『北部同盟』にもマフィア絡みの寄付金疑惑が囁かれています。

なにより今回、『同盟』の存在を大きく凌ぐはずだった『5つ星運動』にとって痛手だったのは、ローマのサッカースタジアムの建設を巡る収賄絡みのスキャンダルでした。『5つ星』が指名したAcea(水、電力、ガスを扱う主要エネルギー会社)の総帥が大手建設業者からの収賄疑惑で突然逮捕され、ラッジ市長を直撃。国政に関わるメンバーにも嫌疑がかけられていますが、ここはひとつ全力で踏ん張って、『5つ星』に以前の勢いを取り戻して欲しい、とわたし個人は考えています。『民主党』なき今、『5つ星』が倒れるようなことにでもなればイタリアは、ベルルスコーニをシンボルとする金満家たちがフラットタックスで優遇される、暴力と差別とイタリア・ファーストの『サルヴィーニ・フェスティバル』となってしまいます。

▶︎危険なサルヴィーニ効果と、ロムの人々への圧力

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