命がけで訪れる難民の人々の目前で、すべての港を閉じたイタリアの6月

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99日間の長編組閣劇を経て、ようやく『5つ星運動』と『同盟』の契約連帯によるジュゼッペ・コンテ政権が誕生。とりあえず胸をなでおろしたのも束の間のことでした。『同盟』のマテオサルヴィーニ内務大臣が就任早々、「合法でない移民、難民はすべて自国へ帰ってもらうことにする」と爆弾宣言、「選挙戦でのプロパガンダならともかく、内務大臣がそのような、非現実的な発言をすべきではない」と批判されていた矢先の6月10日、大臣は現実に難民の人々を乗せたNGOの船『アクアリアス』上陸にまさかの拒絶を行使。今後、イタリア全国の港であらゆるNGOの船が拒否されることになり、大きな衝撃が走りました。

まず、この項の最後に、国際レベルでポピュラーになりつつある『極右+ポピュリズム文化』の有り様について、イタリアで見つけたちょっと気になる記事を要約したことを先にお知らせして、本項をはじめたいと思います 。

サルヴィーニ大臣が得意とする、人々に考える猶予を与えることなく、次から次に弾丸のように繰り返す人種差別的な衝撃発言及び非常識な行動は、はっきり言って、国内で人気をさらうため (あるいは大きな反発を生むため)の戦略的挑発撹乱行為ではないか、と考えるのが自然のように思います。数年前はともかく、今年のイタリアの「難民の人々」の受け入れ状況は、エマージェンシーではありませんでした。

さらに国連の統計によれば、移民の受け入れ数は、サルヴィーニが攻撃するドイツ、フランスの方が、イタリアを遥かに上回っています。 いずれにしても、トランプ大統領とよく似た、『世界人権宣言』に謳われる『基本的人権』の根幹を揺るがす差別発言と、敵とみなす人物、民族、組織への攻撃を繰り返すサルヴィーニが率いる『同盟』の支持率は、3月4日の選挙が終わって現在まで、ちょっと驚く勢い伸びています。

しかしながら本来、莫大な財政赤字を抱えるイタリアで今なされるべき議論は、フラットタックスベーシックインカム、さらには消費税増税の中止、年金前倒しという政策を実行するために、財源をどこに見出せばいいのか、確実にプロジェクトすることなのではないのか。そうは思っても、やっぱりわれわれ大衆は、目前で繰り広げられる、アドレナリン漬けのショーアップされた派手な動きに感情をかき乱されます。

6月20日の世論調査では、若干支持率が下がり気味になりつつある『5つ星運動』を、『同盟』が0.2~1%ほどの僅差(各調査機関でばらつきがあるため)であっても、ついに追い越しました。今回の難民の人々の上陸拒否からはじまったサルヴィーニの強権姿勢に一気に国内外のメディアの注目が集まり、「フラストに満ちたイタリア国民との一体感」を醸す、親分気取りの気前よさと、『敵』とみなす者にはショッキングなほど意地悪で、極端な一挙一動に誰もが過剰に反応、巷は愛と憎悪と衝撃サルヴィーニ・ニュースだらけとなった。どちらかといえば行儀よく、真面目に論理的に行動しようと試みる『5つ星運動』の存在感を1週間で食ってしまった、という印象です。

政権が樹立して日も浅く、今後の各政党の動向如何で力関係がドラスティックに変わる可能性もあり、個人的にはそれを強く望んでいますが、サルヴィーニは内務大臣の職務以上の存在感と正当性 (?)を巧みに、大仰に主張し、政治の中心へと躍り出ることには成功した。身近なところでは、Facebookのタイムラインで「ええ? まさか、この人が」と思う知り合いまで、サルヴィーニの投稿に「いいね!」をしていたり、#chiudiamoiporti(すべての扉を閉ざせ)ハッシュタグで投稿をシェアしていたり、と意外な人の意外な日和見に、目眩を感じるほどでもありました。これこそが大衆迎合主義の魔法というものなのでしょう。

もちろん、今まで難民の人々の救援をサポートしてきた左派の知識人、メディア、NGOを中心に激しい反発、厳しい批判も巻き起こり、しかし突然の空気の変化に、眼前でいったい何が起ころうとしているのか、誰もがいまひとつリアリティが掴めないといった空気もあります。このような状況下において、唯一「救い」だったのは、6月22日からはじまったイタリアの高校の全国共通卒業試験で、ムッソリーニの『人種法』に関するテーマが扱われ、人間の平等、マス(大衆)のコンセプト、そして専制主義とグローバリズムに焦点が当てられた出題だったことでしょうか。

『同盟』の急激な躍進。コリエレ・デッラ・セーラ紙より。6月24日に行われた地方選挙の決選投票では、伝統的な民主党地盤、ピサ、シエナなどで『同盟』が大勝する結果となっています。

欧州の政治家で最も多いFbフォロワーを持つサルヴィーニ

思えばコンテ政権が樹立したその前後のことでした。カラブリアで暮らすアフリカ移民の青年が、自らが住むためのバラックを完成させるため、廃墟となった工場のトタンを剥がしていたところ、アフリカ人だという以外には何の理由もなく、突如として銃殺される、というショッキングな事件が起こり、嫌な予感とともに暗澹たる気持ちになりました。しかもその青年は合法的な滞在許可証を持ち、南部のアフリカ人の日雇いの人々で構成する労働組合にも加入していたのだそうです。彼が1日中働いて得るサラリーは時給2~3ユーロという、まるで1世紀前の話のような過酷な日々を送っていました。

世界の人々の観光気分を高揚させる、「呑気で陽気でヒューマン」な人々が住む、自然と芸術と歴史に彩られた『Bel Paese – 美しい国』イタリアのこんな側面もまた、紛れもない現実です。そしてその「呑気で陽気でヒューマン」、さらには牧歌的、とイメージづけられるイタリアの人々の多く、正確に言えば3.4人に1人が、移民排斥とホモフォビア、イタリア・ファーストを推進する『同盟』のマテオ・サルヴィーニを支持するようになったわけです。 しかしつい最近まで、イタリア北部の独立分離主義を主張し、『フォルツァ・イタリア』にぶらさがる弱小政党にしかすぎなかった『北部同盟』が、なぜ短期間のうちに、国際政治に影響するほどまでの影響力を持つようになったのか。

サルヴィーニのFacebookのフォロワーは現在268万人、ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領を上回り、欧州の政治家では最もフォロワーが多いのだそうです (ラ・レプッブリカ紙)。 その投稿は、と言えば、ざっと見たところ、たいてい自撮りストリーミングでダイレクトにフォロワーに現状を説くか、大勢の支持者の前で英雄的に遊説をしているシーンをストリーミングするリアリティ・ショーか、今回のようなNGOへの入港禁止のキャンペーンを衝撃的にはじめるか、左派知識人、ジャーナリスト、言論人を名指しで嘲る、あるいは罵る内容か、移民やロムの人々を巡る攻撃的な発言です。しかもFacebookもTwitter、Instagramも休みなく、徹底的に更新され、あらゆる敵と丁々発止の「争い」も充実。人々の期待を裏切らない、感情剥き出しで垢抜けない、マッチョなレトリックは見事というしかありません。

確かに近年、街角にアフリカ、あるいは北アフリカ、中東から訪れた移民、難民の人々の数が目に見えて多くはなりましたが、イタリアではイスラム国関係の大規模テロが起こったこともなく、市民有志で構成された数多くのNGOの難民の人々へのたゆみないサポートには目を見張るものがありました。難民という人種が違う、言葉も通じない、見知らぬ人々への多少の恐怖、警戒は人間なら当たり前のことで、NGOの船の上陸を拒絶しなければならないほどの強烈な切迫感は、少なくともローマにはありませんでした。

マテオ・サルヴィーニのレトリックは、もちろんフランスのマリーヌ・ルペン、ハンガリーのオルバン(6月23日にストップ・ジョージ・ソロス法案を可決させた)、そしてポピュリズムの大御所である米国のトランプ大統領のアプローチに、表面的にはとてもよく似ています。というより、うりふたつです。彼らにとっては、移民、難民、外国人、そしてLGBTもフェミニストも、さらには欧州連合も、ひとからげに社会の脅威。『憎悪』と『恐怖』という強い絆で一体となり、断固として闘っていかなければならない『』なのです。強固な連帯を築くためには、共通の『敵』が必要です。

リビアからの難民629人を乗せた船、『アクアリアス』拒絶の背景

今回イタリアが、正確にはマテオ・サルヴィーニ内務大臣が、受け入れを拒絶した『アクアリウス』という船は、そもそもはドイツ政府に属していた、という経緯がありますが、現在は難民の人々の救援のために国際NGOとして活動するSOS mèditerranèe(地中海)が貸借。貧弱なボートに無理やり押し込められ、遭難覚悟で地中海を欧州へ渡ろうとする決死の人々をリビア近海で救助、シチリアのランペドゥーサ島周辺へと運んでいました。現在までに1万人を超える人々を運んでいるのだそうです。

「難民をゴムボートに乗せて欧州に運ぶ『人身密輸ビジネスで大儲けしているリビアマフィアは許しがたい。(リビア近海で遭難した)難民を助けるNGO(ジョージ・ソロスをはじめとする様々なグローバル企業がファイナンスをしていると言われ、国際シークレットサービスも絡んでいるかも、などと陰謀説まで囁かれています)がマフィアビジネスの片棒を担いでいるから、難民の航海が終わらないのだ。イタリアは難民キャンプではない。欧州各国がイタリアを見捨てるなら、イタリアも扉を閉じる」というのが、イタリア・ファーストを掲げるサルヴィーニの、今回の上陸拒否の大義名分でした。

2014年あたりから、突然に数が膨れ上がった難民の人々の問題は、そもそも欧州にとっては非常にデリケートな問題で、各国ともに頭を悩ませてきた。事実、リビアで難民の人々を乗せるボートをオペレーションするのは、『人身密輸』ビジネスで大金を得る凶悪マフィアたちで、地中海を渡って欧州へと逃げようとする人々から大金を巻き上げながら、ほとんどガソリンが入っていないボートに人々を押し込み、次から次へと船出させていました。2017年には5000人以上の人々が地中海で遭難して亡くなっています。

また、欧州には『ダブリン条約』があり、移民、難民の人々は最初に到着した国で合法化(難民、亡命者として登録)を申請、到着国が人々の責任を追う義務を課されます。その合意では、他国へ渡ろうとした移民の人々を、国境で阻止し、到着国へ突き返すこともでき、したがってイタリアの移民センターは、この数年の間に他のどの国にも行けない移民、難民の人々で満員となり、『不法滞在者』として、テントや路上で暮らさなければならない人々でいっぱいになったのは事実です。財政難のイタリアには難民を引き受ける充分なキャパシティがないうえ、法律的に彼らを合法化できず、難民の人々はイタリアを訪れながら滞在許可証なく路頭に迷うことになりました。

しかしながら2017年、時の『民主党』政権が、船の出航を減少させるためにリビア政府、欧州各国と合意を結び、移民の人々の救出に当たるNGOの活動の大半を禁じたことで、イタリアに訪れる難民の人々の数は減少。2017年は前年比で78%~82%(主要各紙まちまち)も減少するという劇的な変化でもありました。

イタリア内務省のサイトから引用。難民の人々の数の変化。

もちろん、『民主党』政権のこのオペレーションは、たとえ地中海に飲み込まれたとしても、逃げ出すしか他に生きる道はない、と究極の選択で航海に挑む人々の状況をまったく顧みない、非人道的な対策!とイタリア国内で大きなバッシングを受け、ヴァチカンもまた「難民として欧州を訪れるひとりひとりの貧しき人々に、キリストを見出す」と難民の人々の保護を強く訴えていたのです。

また、他の欧州各国が、地中海を渡って訪れる難民の人々の合法化とケアの大部分を、キャパシティ不足のイタリアに押しつけ、イタリアが訴え続ける『ダブリン合意』の見直しを無視してきたのも事実です。それでも前述したように、イタリアには難民の人々の生活をサポートする市民団体が数多く存在し、わたし個人は彼らの活動を知るにつけ、その無私の精神に裏づけられたヴァイタリティと行動力に感動することになりました。

そういう状況にあるイタリアで、サルヴィーニは不意を突くタイミングで『アクアリウス』の入港拒否をショッキングに宣言。彼が直ちにSMSで#chudiamoiporti(すべての扉を閉ざせ)のハッシュタグを拡散させると瞬く間に賛同者が膨張、その有り様がイタリア国内だけでなく、欧州各国にも衝撃を走らせました。『アクアリウス』には629人の難民の人々、その中には保護者が同乗していない123人の未成年者、11人の子供、7人の妊婦さんが上船していました。

結果、イタリアが入港を拒絶したことで、政権交代したばかりのスペインが受け入れを表明し、一方フランスは、のちに撤回しましたが「受け入れがたい、嘔吐したくなるようなことだ」とTwitterで即座に反応しています。ドイツは、と言えば「今までイタリアにばかり負担をかけすぎた」と『ダブリン条約』の見直しに多少の歩み寄りを見せました。したがって、そもそも『ダブリン条約』の見直しを求めていたイタリアにとっては、このサルヴィーニの暴力的な決断が政治的にはある程度成功した、という形にはなっています。

コンテ首相はその後、パリとベルリンを訪問、難民の人々に関して、今後(東欧諸国を含む)欧州各国が分担して支援を行い、地中海のコントロールを強化するという約束を結び、現時点では話し合いが継続されることになっています。しかし一旦はうまくいくように思えた交渉も、ドイツ国内、フランス国内でイタリア新政府の強硬姿勢に不満が爆発しはじめ、成り行きによっては欧州分裂火種になるかもしれない、とも見なされはじめました。早速マクロン大統領は「ポピュリズムはハンセン病(明らかな不適切発言)みたいに大きくなるものだ。イタリアの難民問題はエマージェンシーではない」とイタリア政府を侮辱、スペインのサンチェス首相も「イタリアは無責任」と主張し、多少の不協和音が生まれている。月末に予定される欧州首脳会談の成り行きを見守りたいと思います (6月29日早朝、移民問題に関しても各国の合意が得られたという速報が流れました)。

いずれにしても、この一連の出来事からは、サルヴィーニ内務大臣の非道徳性非常識という大問題が国際的にも露呈しました。というのも『アクアリウス』が行き先を定められず海に漂う途中、大臣はその航海を『豪華客船の旅』と例えたり、『移民たちの天国生活はこれでおしまい』などという暴言を吐き、命がけで地中海を渡る決断をした人々の生命を冒涜するような態度を見せたからです。一笑に伏すような話ではありますが、たとえ万が一、ジョージ・ソロスが何らかの悪意を持ってNGOにファイナンスしていたり、『人身密輸』に謎の国際シークレット・サービスが関わっていようとも、難民の人々にはなんら関係がありません。一縷の希望を託して、生命をかけて海を渡る人々の運命を弄ぶようなことは許しがたいことです。

さらにSNSでは「僕は昨日までアクアリウスに上船していた乗組員だが、単純に『真実』を話すと言ったためにクビにされたんだ。真実をいうならば、難民の人々が過酷な航海をしているというのはまったく嘘で、実はみんな幸せだった。船にはビデオゲーム室があって、夜にはスロットマシーンやルーレットでみんなが楽しそうに遊んで過ごすんだ。一体どこからお金が出ているのかわからないが、誰もがいい服を着て、栄養も充分に行き届いているようだった」などという馬鹿げたフェイク告白ビデオが出回って500万回も再生され、16万件シェアされています。そういえばサルヴィーニも昔から、「アフリカから来た難民は5つ星ホテルで何不自由のない生活をしている」などというフェイクニュースを、SNSで平然と流していました。ちなみにSNSでフェイクを流した青年は、「こんな簡単に人々は騙される、ということを証明したかったのだ」などと語っています。

このような内務大臣を、ラ・レプッブリカ紙、コリエレ・デッラ・セーラ紙をはじめとする主要各紙も、強く問題視。きわめて批判的な記事を書いています。ラ・レプッブリカ紙傘下のL’espresso – レスプレッソ紙 (60年代からあらゆる政治スキャンダルを暴き続ける伝統的左派週刊誌)に至っては、マフィア「ンドゥランゲタ」が牛耳るイタリア南部で、アフリカ出身の日雇いの労働者たちのために、労働組合を立ち上げ闘うアボハカール・ソウマホロとサルヴィーニの2者を並べた表紙に「人間たち(ソウマホロ)、人でなし(サルヴィーニ)」とタイトルをつけ、レイシズムと徹底抗戦の姿勢を宣言しました。

ともあれ、『アクアリウス』は無事にスペインに到着し、ヴァレンシアのボランティアの人々が難民の人々を歓待、手厚いサポートを行うなか、イタリアに向け、難民の人々を乗せた沿岸警備隊の船やNGOの船が続々と訪れています。それらの船は上陸できないままにマルタ島の近海を漂い、マルタ島も「決して受け入れない」と頑と拒絶する、という酷い状況です。約800人以上の人々が、沿岸警備隊によりリビアに再送されたという情報もありますが、夏がはじまり、これから難民の人々が本格的に海を渡る季節、イタリアを含める今後の欧州各国の即刻の対応は急務となりました。

一方、写真家オリビエロ・トスカーニベネトンは、サルヴィーニが「マフィアの片棒を担いでいる」と非難する、地中海で遭難しそうなっている(あるいは遭難した)難民の人々を救援するNGOを支持する旨を、広告スポットとして宣言したところです。

難民の人々を救護する『アクアリウス』の写真をスポットにし、NGOの活動を支持するベネトンのスポット。即刻『同盟』からベネトン・ボイコットの声が上がりました。

▶︎善良主義の終焉と非道主義の台頭

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