極めて右を歩むことを民主主義で決めたイタリアの、限りなく不透明な未来 Part2.

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今後のイタリア経済の行方

パンデミックによる欧州各国の経済打撃を支援する、Next generasion EUと名付けられた、総額7500億ユーロ欧州委員会のファンドのうち、イタリアにはPnrr(Piano Nazionale di Ripresa e Resilienzaー国家復興再生計画)として、1915億ユーロ(うち700億ユーロが援助金、1200億ユーロが借り入れ金)が支給される予定になっており、4月に249億ユーロ、9月に210億ユーロ、さらに11月に210億ユーロが割り当てられることになっています。

このPnrrの目的は、デジタル化、再生エネルギーのためのイノヴェーション、インフラ設備の整備など、6つのミッションに分けられていて、それらのプログラムの欧州委員会への提案は、すでにマリオ・ドラギ政権下で進められ、12月に割り当てられる予定の190億ユーロに関しても準備が整っているようです。ただしイタリアに割り当てられた1915億円のうち、今年中に使われるのは、わずか210億ユーロで、その理由として、Pnrrの革新的なプロセスに適合するための時間、公共事業費の高騰などが影響していると言われます。メローニは、この状況に「Pnrrは進捗していない」とドラギ政権を批判しましたが、欧州委員会の監査役から「充分に進捗している」と釘を刺されました。しかし実際は、やっぱり少し遅れているようです。

ところで『右派連合』は、このPnrrのプログラムで238億ユーロが投入される予定となっている再生エネルギー関連イノベーションには、選挙前から特に難色を示していました。というのも、そもそも『右派連合』は、過去2回の『国民投票』を経て否決されたはずの、原子力発電の開発を推進しており、『同盟』はといえば、選挙キャンペーン広告にでかでかと、「原子力」の文字を入れていたほどです。『同盟』は、ウクライナ危機以来の目まぐるしいエネルギーの高騰で、経済的に大きな打撃を受けるイタリアの企業、家庭に「原子力」を説得するチャンスと見たわけですが、『イタリアの同胞』は「最新世代の原子力研究投資」というだけで、発電所建設の可能性には言及していません。

しかしながら欧州委員会は、すでに認可が下りたPnrrプログラムの変更を「客観的状況により欧州加盟国が計画の全部、または一部を実施できない場合」を除き、認めていません。まず、政府が変わったことは「客観的状況」とみなされず、現に、パンデミックの最中に政府が変わった欧州加盟国がPnrrの変更を要求した前例は存在しないのです。Pnrrはあくまでも国への支援であって、政府への支援ではありません

 

党首の写真とともに「独立したエネルギー、確かな原子力。成長と環境を結びつける、清らかなイタリアで信じる」という『同盟』のスローガンをあちらこちらで見かけました。ここでは党首の写真は省かせていただいて、スローガンのみ引用しています。

 

なお前述したように、『イタリアの同胞』は、選挙前から欧州委員会、NATOへの賛意を明確にしていますが、その姿勢を明らかにしなければ、ハンガリーポーランドのように、Pnrrを保留する、と勧告される可能性があるからに他ならないでしょう。

ハンガリーとポーランドは、司法の独立性を巡っての内政改革人口中絶に関連する事項、LGBTQの人々の権利の侵害非効率な行政などがEU法を逸脱し、たびたび勧告を受けながらまったく改善が見られないため、欧州各国共通のファンドが浪費される懸念から、2021年に欧州ファンドの支援保留とされ、その措置について加盟国で協議が続いています。

両国は、欧州委員会のその措置を不服とし、欧州委員会司法裁判所に上訴していますが、2022年の2月16日、「Next GenerasionEUの原則として、EUの資金の支出はEU法の尊重を条件とし、加盟国がこの原則に違反した場合、復興計画資金の停止や取り下げを可能にするものである」と、退けられることになりました。

その後、イタリア総選挙の直前に欧州議会で行われた、ハンガリーへの制裁が公正であるか否か決議する投票では、『イタリアの同胞』、『同盟』は公正ではない、と投票し、「欧州議会に寄り添うようなことを言ってたくせに、やっぱり反欧州主義じゃないか!」とイタリア国内で物議を醸した時期もあります。しかしながら、『右派連合』が政権を握った現在、欧州連合からのファンドが保留されるようなことにでもなれば、すでに暗雲が垂れ込めるイタリアの未来は、真っ暗闇なわけですから、ヴィクトール・オルバンと親密な関係にあったジョルジャ・メローニも、今までのようにオルバンと政治信条を分かち合い、盛んに交流する、というわけにはいかないはずです。

それでも『イタリアの同胞』の下院議員リーダーであるロロブリジダは、「人権に関する欧州主導法律見直す必要がある」、などとの強気の発言をしており、というのも『イタリアの同胞』は、自国の法律EU法優位に立つための法システム構築することを、かねてより主張しているからです。彼らは前述したメローニのVoxへのビデオメッセージのように、欧州に国家主権主義の国が増え、互いに連帯すれば、欧州連合の体制を変えられる、と考えているのでしょう。

ところで、新政府の組閣が進行中の9月28日に、ドラギ政権の閣僚会議は、経済財政文書(Nadef)の更新を承認しました。戦争の影響による国際経済情勢の悪化で、フィッチやスタンダード&プアーズなどの格付け会社が、イタリアは来年にリセッションに入ると予測しているにも関わらず(国際通貨基金ーIMFも同様にリセッション予測を出しました)、今回のNadefは、2023年の国内総生産予想成長率+0.6%(4月の発表では+2.4%でしたが)とし、「GDPは依然としてプラスの兆候があり、現在のような厳しい状況でも、この見通しを上回る可能性がある」と、やや楽観的な展望が公表されています。

Nadefは、「地政学的な緊張によるエネルギー価格の高止まりを考慮するならば、今後数ヶ月は予断を許さない展開になるだろう」としながら、「公共事業を復活させ、民間投資を促すための資金は、直近の歴史を考えるなら、かつてないほど潤沢で、持続可能な高成長を実現し、長期に渡った経済停滞を終わらせることができるだろう」と、欧州から供給されるPnrrがイタリアにとって必要不可欠な財源であることを強調。今年使われる210億を除くと、今後3年半の間に1700億ユーロの支出が可能なわけですから、そのPnrrの財源を効率的に活用すれば、充分な成長が期待できるということです。

現状では、イタリアの9月の消費者物価上昇指数は+11%(!)に上り、1983年以来のインフレで、市民は押し潰されており、Part1に記したように、10月からはまず電気代が約59%、そしてとりあえずの暫定的概算として、ガス代が74%も値上がりする状況は深刻です。しかも、次期経済金融大臣は、年金をインフレに連動させる、あるいは公務員の契約更新、ドラギ政権が定めた減税、海外での軍事活動など節約不可能資金を、まず100億から150億ユーロ(最終的には350億から400億となる可能性も)調達しなければならず、それは今後入ってくる税収では補えないというレポートをも読みました。

国際通貨基金(IMF)により発表された世界経済Outlookでは、イタリア政府の+0.6%のGDP成長予測とは異なり、-0.2%のリセッション予測が出ています。今の時点では、どちらの予想が正しいのかは判断不能です。コリエレ・デッラ・セーラ紙より。

 

したがって、そもそも巨大な財政赤字を抱えるうえに、戦争の影響をダイレクトに受けるイタリアの経済政策は、『右派連合』にとって、きわめて多難となりそうであり、選挙の公約である、●企業、一般家庭の減税、10万ユーロまでの収入の人々への15%~23%、あるいは段階的なフラットタックス導入、●雇用主が支払う給与総額と従業員が受け取る純報酬の差額であるタックスウェッジの縮小、●1年間13回最低1000ユーロの年金(『フォルツァ・イタリア』)、●税金滞納者の罰金免除、●食料品、エネルギーなどの消費税減税など、気前のいい政策が、今の経済状況で実現するか否か、まさに神のみぞ知る、という状況です。

まず、Confindustria(イタリア経団連)が、『右派連合』の経済政策は、「今の状況ではまったくもって不可能」、ときわめて厳しい態度を表明しています。

正直、わたしが生きている間に、核兵器が世界を震撼させ、光熱費で市民の生活が困窮するような社会が訪れるとは、まったく考えてはいませんでしたし、そのうえイタリアに、「極めて右」の政権が樹立することも想像していませんでした。今の状況と比べるなら、わたしがイタリアに住みはじめた頃は牧歌的とも言え、誰もがのんびり、ポストモダンな毎日を謳歌していたように思います。

こんな毎日が憂鬱ではない、というのはまったくの嘘ですが、なるべく楽天的に、明日に希望を持って生活していこう、と思う次第です。なにより、「こんなに簡単に世界は変わるものなのだ」といい経験というか、万物流転、諸行無常を実感する機会にもなっています。

なお、組閣が決まり、特筆すべき何らかの大きな変化、あるいは出来事が起これば、別項をたてて追記する予定です。

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