極めて右を歩むことを民主主義で決めたイタリアの、限りなく不透明な未来 Part2.

Anni di piombo Deep Roma Società Storia

憲法改正と中絶法

今後樹立するであろうメローニ政権の公約で、最も不安が残るのは、『イタリアの同胞』が長らく主張してきた「憲法改正」についてでしょうか。

選挙結果が出た直後、『イタリアの同胞』の下院議員リーダー、フランチェスコ・ロロブリジダは、「共和国憲法は美しいが、すでに70年も経っている」、と早速「憲法改正」に取り組むべきだ、との発言をしています。この「憲法改正」については、2001~2006年まで上院議長であったマルチェッロ・ペーラとともに『イタリアの同胞』が、長きに渡って研究してきたものだそうですが、メンターであるペーラは、「ベッティーノ・クラクシー、ベルルスコーニが望んだ」「1996年からわたしが熱望してきたことだ」と、ネットメディアに語っていました(quotidiano.net)。

その「憲法改正」がどのようなものかを具体的にいえば、『イタリアの同胞』とマルチェッロ・ペーラは、共和国憲法に明記されている、イタリアの政治における最高権力である大統領の概念を大きく変えようとしているです。

そもそもイタリア共和国大統領(現在はセルジォ・マッタレッラ大統領)の存在は、イタリアの政治制度におけるイタリア国家頂点であり、立法、行政、司法に位置する「中立」の権力として位置します。また、イタリア共和国憲法保証人として、憲法従って監督調整の役割を持つ存在です。●上院、下院両議会で承認された法律によって設置された外交・防衛最高評議会を主催し、軍隊の指揮権を持ち、上院下院両議会の承認を得ての、宣戦布告の権限を持ち、●選挙結果を考慮して首相任命、●首相からの提案により、閣僚任免、法律の公布などの権限を有します。

任期は7年で、上院、下院議会及び、各州議会の選挙委員による投票によって選出され、過去には、大統領が選出されるまで20回以上の投票が行われたこともありました。その選出の有り様はヴァチカンのコンクラーベに似ていると言えるかもしれません。

 

それぞれの共和国大統領選挙で選出までに何回投票が行われたかを示すグラフです。イタリアが最も荒れた『鉛の時代』、1971年〜78年の共和国大統領だったジョヴァンニ・レオーネは、20回以上の投票で、52%の支持という非常に際どい数字で選出されています。そのレオーネは任期が終わる1978年、『アルド・モーロ事件』の責任をとって辞任しました。その後に選出された『イタリア社会党』のサンドロ・ペルティーニは、今でも非常に人気がある庶民的な大統領ですが、その支持率は83.6%だったそうです。Openpolis.itより。

 

常にカオスで収拾がつかない、現在イタリア政治機構のうち、この大統領制のみが唯一有効に機能しているシステムと考えられ、たとえば2011年の債務危機で政府が崩壊した際、市場に徹底的に攻撃され、あわやデフォルト、というエマージェンシーに、大統領権限(ジョルジョ・ナポリターノ大統領)により即刻テクニカル官僚政府が樹立され、九死に一生を得たことがありました。また、2018年の総選挙以降、2度にわたる政権崩壊においても、大統領権限により、ジゥゼッペ・コンテ第2政権、マリオ・ドラギテクニカル官僚政権が樹立されています。

政治的な問題が起こらない日は1 日もない、現在のイタリアの政治にとって、理性的に、中立の判断を下すことができる大統領の存在は、個人的には心の拠りどころ、と言っても過言ではなく、特に現在のマッタレッラ大統領は、絶大なる信頼を寄せるに値する人物だと考えています。

その、イタリアにとって、なくてはならない現在の共和国大統領機構を、『イタリアの同胞』は、「閣僚を解任する権限を持つ閣僚会議(政府の一般的な政策、またそれを実施するための行政行動の一般的な方向性を決定する)の議長である、イタリア共和国の大統領は、5年ごと市民の投票によって選出される、と変更する」と言うのです。その提案の理由として、ロロブリジダは「イタリアには、われわれは市民が選出する、安定、効率、権力をもたらす存在が必要である(なぜ?)。今回は急いで着手しなければならない」とも語っています。(ラ・レプッブリカ紙)

つまり『イタリアの同胞』は、スーパーパワーを持つ大統領を市民の直接選挙で選出するよう「憲法改正」したい、と主張しているわけですが、ポピュリズム蔓延で世界中の民主主義が機能不全に陥っているうえ、ウクライナ危機が核戦争にまで発展しそうな時代、軍隊の指揮権を持つ大統領が、ポピュリズムの延長で選出されるような状況になるリスクは、絶対に避けるべきだと思います。だいいち約63%という今回の総選挙のような投票率で、市民による直接選挙によって選出された人物に、大統領権限が与えられる可能性があることには、大きな危険を感じます。

いずれにしてもイタリアでは、上院、下院議会の3分の2が賛成すれば、国民投票を行わずに「憲法改正」ができるシステムになっていて、たとえば『5つ星運動』の提案による議員数の削減(下院630→400、上院315→200)も議会では3分の2の支持が得られず、国民投票で決定された(追記:この憲法改正においても国民投票は実施されなかったと書いておりましたが、実施されておりました。訂正してお詫びいたします)という経緯がありました。では、『右派連合』が、議会投票のみで「憲法改正」を通過させることができるか、というと、現在の与党議員数では3分の2には達しません

さらに、上院、下院2議会制を廃止して、1議会制を提案している『イタリア・ヴィーヴァ+アッツィオーネ』が、『右派連合』の憲法改正についての「話し合いにはいつでも応じる」と門戸を開きましたが、たとえ彼らが賛成しても、やはり議員数の3分の2には達さないため、自動的に国民投票にかけられることになるはずです。

その場合の国民投票は、上院、下院いずれかの5分の1の議員、あるいは50万人の有権者の署名、または州の相談役5人いずれかの国民投票法の発令から、3ヶ月のうちに実施されなければなりません。この国民投票にはQuorum(有権者の半分の投票がなければ無効)が適用されると思っていましたが、「憲法改正」には適用されず、YesかNoか、どちらか優位な数字で決定されるそうです。とはいっても、市民の生活がこれほど切羽詰まっている時に、政治が「憲法改正」に集中する余裕は、今のイタリアにはまったくありません。

 

大統領府、クイリナーレ宮殿の入口にて。

 

また、もうひとつ、大きく懸念されているのが、『イタリアの同胞』の「中絶法」に関する曖昧な意思表示でしょうか。総選挙の結果を受けた直後、なぜかフランスのマクロン大統領が、「欧州連合とともに『中絶法』を含め、イタリア人権問題監視する」との発言をして、誰もが「どうしてマクロン大統領が?」と首を捻った、という経緯があります。そもそもフランスが欧州委員会の議長国タームは6月で終了しているはずなのに、マクロン大統領がイタリアの人権問題に口を出す、というのは、まったく異例のことでした。

さらに組閣も行われていないにも関わらず、フランス欧州担当大臣が「イタリア市民の権利と自由を守るためには、われわれの監視が必要」と発言し、さすがにこれには「なんでイタリアがフランスに監視されなくてはならないのだ」と、ドラギ首相、マッタレッラ大統領からも抗議の声が起こり、フランスの余計なお世話に「イタリア自国を監視する能力を持っている」と反論しています。

ともあれ現在、米国の州レベルで廃止されて大きな問題となっている、女性の権利としての「中絶法」は、イタリアでは1978年フェミニストたちの決死運動によってla legge 194として獲得された、エポックメイキングな法律です。メローニ自身、また『イタリアの同胞』のメンバーも、その「中絶法」を変えたり、廃止したりする気はまったくない、と繰り返し発言し、たとえば経済的理由や子供を持つことができない状況にある女性を、社会的に保護する法律を強化したいと述べるにとどまっています。

確かに、まず最初に家族」の重要性謳う『イタリアの同胞』のプログラムは、イタリアの出生率への懸念から、家族への支援が語られており、la legge 194完全適用したうえで、経済事情が子育てを許さないシングルマザーでも、安心して子供を産むことができるように「基金」を設立する(保育園の無償化など)、と述べられています。

ただし、イタリアのいくつかの地方においては、倫理的信条から(カトリックの国ですから)中絶手術を拒絶する医師が多く存在し、それを望む女性が、簡単に医師にアクセスできないという問題があることが明るみになりました。最近では、特に『イタリアの同胞』メンバーが首長を務めるマルケ州で、婦人科医の70%が倫理的理由で中絶を拒否しており、64.6%という全国平均を上回っていることがクローズアップされています。

『イタリアの同胞』の実験室と呼ばれるマルケ州では、「中絶法」で90日以内の中絶が許可されているにも関わらず、民間医療機関では7週間に短縮、さらに1週間熟考期間を設けるのみならず、そもそも女性が中絶にアクセスできない、という問題が起きています。さらにはピル人工妊娠中絶薬手に入らない、という報告が相次ぎました。『イタリアの同胞』は「そんな事実がないこと」を強固に主張していますが、選挙キャンペーン中のメローニは、倫理的な理由による医師たちの中絶拒否の自由擁護してもいるのです。

つまり、州政治レベルでピルや人工妊娠中絶薬の供給管理し、民間の医療機関だけでなく、公共の医療機関や保健所に、倫理的理由から中絶を拒絶する医師積極的雇用すれば、女性は中絶にアクセスすることが困難となり、他の地方にまで出かけなければならない、という米国で起こっているような状況に直面することになります。78年の「中絶法」の成立に尽力したエンマ・ボニーノはその状況を危惧し、「われわれが獲得した権利は、政治体制により保証されなければならない。医師の良心の自由が、女性の自由と健康を脅かすのであれば、それは単純に(女性の)権利の侵害に過ぎない」と断言しています。

2019年、父親、母親からなる伝統的な家族のみ推進し、中絶反対アンチ同性婚アンチLGBTQを訴える『世界家族会議』が開催された経緯のあるイタリアには、多くの反中絶グループ社会団体があり、『イタリアの同胞』によって統括されている地方は、その反中絶派が病院、医療施設で活動するために、優遇、支援、資金援助が行われているらしく(参考:il Post)、とりあえず公然と「中絶法」を認めながらも、実際に中絶を希望する女性は、より困難で複雑なプロセスを通過しなければならなくなるシステムが構築されつつあるかもしれません。

ちなみに「反中絶」を謳う、ロシア正教を含める、米国キリスト教福音派、及び欧州各国のカトリック原理主義など、欧米の伝統的家族主義(父親、母親、子供)グループが多数参加した、2019年、ヴェローナで開催された『世界家族会議』には、『同盟』のマテオ・サルヴィーニ、そしてジョルジャ・メローニ、また今回、下院議長に選出されたロレンツォ・フォンターナも登壇しています。

なお、イタリアにおける『世界家族会議』の主催者幹部はロシアオリガルヒで、開催のための資金をも提供していました。現在イタリアの『世界家族会議』ホームページから、その名が記されたページは削除されていますが、詳細はWikipediaに記されています。この『世界家族会議』については、戦争がはじまって以来、誰も語らなくなってはいますが、この宗教原理主義者集団と国際右派政治網の関係は、多くの謎を残したままです。

 

これはパンデミック以前、ローマで開かれたフェミニストたちの抗議デモの写真です。イタリアのフェミニストは結束が固く、女性やLGBTQの人々の人権が危うい状況になると、あっという間に大規模なデモがオーガナイズされ、断固とした抗議が繰り広げられます。したがって、そうそう簡単に「中絶法」に手はつけられないはずです。

 

そういうわけで、『イタリアの同胞』(『同盟』)は、国政レベルで、公然とは「中絶法」の廃止を明言しないまま、地方レベルの草の根運動で、長い時間をかけ、市民が獲得してきた自由をじわじわ後退させる可能性がある、とは考えられるのです。市民から自由、権利を奪うことは、当然のことではありますが「支配」の一形態であり、あらゆる事情を抱え、中絶を希望する女性から、その自由を剥奪することは、有無もいわせず女性の身体、人生を「支配」する、とんでもない暴力です。したがって今後の州レベルにおける『イタリアの同胞』(『同盟』も)の動きを見極めなければならない、とは考えています。

いずれにしても、『イタリアの同胞』の統治における、マルケ州における中絶、及び出生率に関するデータは、まだ保健省から発表されておらず、まずはそのデータを見て、現実に何が起こっているかを判断する必要があるでしょう。

▶︎今後のイタリア経済の行方

RSSの登録はこちらから