ロシアより愛を込めて:イタリアン『ロシアゲート』の勃発で、いよいよホットな2019年夏

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マテオ・サルヴィーニ副大臣及び内務大臣が率いる『同盟』へのロシアから政治献金を示唆する盗聴音声が、米BuzzFeed Newsで公開された瞬間は、正直、特に驚きもしませんでした。というのも何ヶ月も前からレスプレッソ誌が、『同盟』に流れるルーブルの可能性を、微に入り細に入り執拗に追っていたからです。基本、レスプレッソ紙を毎週チェックしているわたしとしては、むしろイタリアの人々がその記事にはシーンとしながら、嬉々として『同盟』に投票することのほうがミステリアスだった。「米国からも、欧州からも制裁を受けている、あのロシアから個別政党への献金の可能性があっても、イタリアでは『不正』ではないのかもしれない。ひょっとしたら当たり前のこと?」とまで思ったほどです。

このBuzzFeedの密談音声ファイルの公開を皮切りに、ここ2週間というもの、イタリア政府を形成する『5つ星運動』と『同盟』の連帯は今までにない緊張を孕んで、メディアを介してのいがみあいが繰り広げられています。「明日か、1ヶ月後か、半年後か。すぐに崩壊しなくとも、2政党の分裂は時間の問題」というのが大勢の意見ですが、どうかした瞬間に互いが歩み寄ったり、と思うとやっぱり突き放したり、スキゾフレニックな愛憎劇が幾度となく繰り広げられているため、今回本当に、が山から降りてくるかどうかは定かではありません。

ことのはじまりは、7月10日のことでした。2018年10月18日モスクワのホテル・メトロポールで録音された、『同盟』の強力シンパであるジャンルーカ・サヴォイーニを含むイタリア人3人、ロシア人3人による「同盟欧州議会選挙キャペーン資金捻出のための、ロシアーイタリア間におけるメガボリュームのガソリン・石油ディールの密談」の盗聴音声が、米国のBuzzFeed Newsサイトに前触れなく公開された。

その途端、「え?」、と誰もが不意に我に返ったような微妙な空気が巷に流れ、やがて鈍く、淀んだどよめきが湧きおこりました。現在は、そのどよめきが膨張するだけ膨張し、そもそも無秩序なイタリアの政界を、無限大カオスにまで導いた感があります。

ニュースがイタリア中を駆け巡ったその日は、サルヴィーニをはじめとする『同盟』諸氏全員が「サヴォイーニ? 誰?」「わたしは関係ない」「全然知らない」「何の話?」と、居心地が悪そうに縮こまり、そわそわしながらしらばっくれていましたが、やがて「ロシアと『同盟』が集うところ、サヴォイーニあり」という具合に、どの年代のどのシーンでも、サヴォイーニがロシア高官やプーチン大統領、そしてサルヴィーニ内務大臣と写っている写真がぞろぞろ公開されることになりました。

もちろん7月10日以降、主要各紙、ニュース・報道番組は、この『イタリアン・ロシアゲート』の話題で持ちきりで、特に左派メディアとして現政府を手厳しく批判し続けるラ・レプッブリカ紙は、火を吹く龍を思わせる猛々しい取材攻勢、証拠・証言収集でこのうえなく充実しています。したがって、ネットでは物足らず、毎朝エディコラに新聞を買いに行くのが楽しみになった次第です。ちなみにラ・レプッブリカ紙は、レスプレッソ誌同様、GEDIグループの発行です。

余談ではありますが、あれこれ記事を追いながら、ハッとしたのは以前のスクープ記事を加筆して再送したレスプレッソ誌編集長、マルコ・ダミラーノの署名原稿の最後の一文でした。

「今、あなたたちが読んでいる記事は、プロフェッショナルな情熱を持って、取材源が信用に足るものであるかを辛抱強く精査したうえで、追求し続けた仕事です。わたしたちにとっては、それがジャーナリズムなのです。レスプレッソのジャーナリズムは、決して中立ではありません。読者に奉仕することのみを考えて編集しています。考えを出し合い、議論して、現実を語るわたしたちの雑誌を、今後も読み続け、批判してください」

ここでわたしが注目したのは「決して中立ではない」という部分です。「報道の中立性」という言葉を聞くたびに、だいたい何を基準に「中立」と断じることができるのか、情報に深入りせず、表面をさらっと追う「長い物には巻かれろ」的あいまい姿勢が「中立」ではないだろう、と常々疑問に思っていたため、はっきり宣言されてスッキリした、という感じでしょうか。

レスプレッソ紙は常に堂々と左側に立ち、難民の人々の状況を徹底的に調べ上げてサルヴィーニを攻撃するなど、「ひょっとしたら、ますます端に振れている?」と感じる論調も見受けられるくらいです。

そもそもラ・レプッブリカ紙の創立者であるエウジェニオ・スカルファリ(現在もご健在でご意見番です)がレスプレッソの編集長時代、その後訪れる『鉛の時代』に先駆けて、イタリア軍部諜報局SIFARがPiano Solo(ピアノ・ソーロ)と呼ばれるクーデターを画策していることをスクープしたのは1967年のこと。その後長い裁判ともなったスカルファリの弾丸スクープ・スピリットが、50余年を経てもなお、レスプレッソ誌に脈々と受け継がれています。

日本では右派、左派という区別、特に「左」というと、「違う違う」と顔色変えて否定される、忌み嫌われようですが、イタリアは相変わらず右は右、左は左として政治が語られます。本来ニュートラルなはずの『5つ星運動』の議員たちもM5s右派、M5s左派と表現され、彼らもそれを否定しようとはしません

ちなみにイタリアの新聞は、といえば、バランスが取れている、と言われるコリエレ・デッラ・セーラ紙にしても、どう贔屓目に見ても左側の視点からの報道ですし、一方、イル・ジョルナーレ紙やラ・ヴェリタ紙、リベロ紙は明らかに右側の視点での報道です。そしてTVでは、その双方のジャーナリストたち、さらには政治家たちが登場し意見を闘わせる討論番組がほぼ毎日放映され、それも右だから、左だから、とただ喧嘩するだけではなく(時々はありますけど)、互いの意見に納得すれば尊重し合い、賛同もする。

確かにベルルスコーニ時代の名残りを思わせる、退屈でナンセンスな番組もたくさんありますが、右、左に関わらず、それぞれの多様な意見を歯に衣を着せず発言しあう討論番組の有り様は、多くの人々がTVから離れ、ネットの情報に頼るようになった現在でも、読者や視聴者、つまり有権者たちへのヒントとして、かなり有益なのではないか、と思っています。

なおレスプレッソ誌が、『同盟』に流れるオイルマネーの可能性を最初にスクープした今年の2月(同時に事件をスクープした2人のジャーナリストは、Il Libro Nero della Legaー「『同盟』黒本」を出版)、ミラノ検察局が即刻注目。国際収賄事件として秘密裏に捜査を開始していたそうです。当時は、何の騒ぎにもならず、巷がシーンとしているのを不思議に思っていましたが、背後で密かに検察が動きはじめていた事実を知って、とりあえずはホッとしました。

 

毎週日曜ラ・レプッブリカ紙とともに発行されるレスプレッソ誌の表紙は、毎回けっこう楽しみです。写真上左:レスプレッソ誌が一連のロシアゲートをまず最初にスクープした2月28号。写真下右:密談の後、お金が実際に動いた証拠となる書類を掲載した7月21日号。

 

イタリアには「Facciamo bella figura(格好つけて、好印象を与えましょう)」という、とりあえず外面はよくして面子を保つ、というある種の美意識がありますが(特に年配のマッチョな権力者たちに)、家族にさんざん注意されながらも、家の隠し金庫にそっと隠し持っていた爆弾なのに、予期せぬ時期に、突然他の国のメディアから「イタリアには爆弾がある」と暴露され、海外から指摘されるなんて格好悪い!と慌てふためき騒ぎはじめた、という感じでしょうか。

そして、「なぜ今ごろ公表?」という疑問に関しては、7月16日に新しい欧州連合委員長ウルスラ・フォンデアライエンの信任投票が予定されていたことは、偶然ではないかもしれません。

『同盟』は信任投票を前に、フォンデアライエン委員長側に「うちの議員を要職につけるなら信任してもいい」と面会を打診しており、その要請に、すでに一連の報道を確認済みの委員長側は「確約できないので会えない」と答えたとされています。そのような経緯があり、投票当日『同盟』は委員長を信任せず、委員会の要職には誰ひとり任命されることはありませんでした。

一方、かつては脱ユーロを謳っていた『5つ星運動』の議員たちですが、今回はフォンデアライエン委員長を信任し、親・欧州主義へと転じています。したがって、反対票を投じた『同盟』と、欧州議会を挟んで袂を別つという結果となり、その対立もまた、イタリアの現国政を担う2政党の今後の連帯を揺るがす要因のひとつとなっています。ともあれ『5つ星運動』が親・欧州主義に転じたのは、同政党が重視する環境問題に取り組む『緑の党』の欧州内での躍進に加え、ここ一番の判断、という政治の勘どころを掴んできたからだとも感じました。

いずれにしても、PD(民主党)はもちろん、『5つ星運動』、そしてコンテ首相から、「欧州議会選挙で、第1党になったばかりなのに、サルヴィーニ内務大臣は全面的にその責任を負って、一連のロシアゲートについての詳細を国民に話すべき」と詰め寄られ、サルヴィーニは政府内で孤立した状態になっています。

さらにPDも『5つ星』も「ありえない」と否定しているにも関わらず、サルヴィーニは「PDと『5つ星運動』は、(投票した)国民を裏切って、連帯を組みはじめている」と騒ぎ、『5つ星運動』が強行に反対するフラットタックス北部イタリアの自治権についてなど、これ以上両党の間で不一致が続くのであれば、こっちにも考えがある」と連帯政権の解消を匂わせる発言を頻発しています。

加えて、『同盟』とことごとく対立する、『5つ星運動』が擁立したダニーロ・トニネッリインフラ交通省大臣、エリザベッタ・トレンタ防衛省大臣の解任を求め、果ては「首相を替えるべき」、とジュウゼッペ・コンテ首相にまでを向けはじめた。

しかしながら首相が副首相より大きな権限を持つのは当然ですから、コンテ首相がサルヴィーニ副首相を「責任を持ってすべてを明らかにすべき」と指弾するのは当たり前で、その首相を「変えて欲しい」とあちこちで発言するのは、お門違いとしか言いようがありません。

ロシアゲートが明らかになったのちも支持率が下がるどころか上り調子の『同盟』は、「俺には国民がついている」、と国民の支持を免罪符に、言いたい放題、やりたい放題。それも、1日も早く政権を握ろうと「計画的に危機を引き起こしている」というよりは、ただ政府を撹乱させようとしているだけにも見受けられます。

▶︎BuzzFeedで公開された密談音声の内容とは

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