イタリアの春、Covid-19と共存する未知の世界へ : Build Back Better

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Covid-19と大気汚染、PM10、PM2.5

Covid-19の急激な感染拡大から都市生活を防御するためのロックダウンにより、ほとんどの生産活動が停止したことで、大気汚染や河川や海の水質汚染が著しく改善。スモッグだらけだった街に青空が広がり、透き通る海や川に魚が群れ遊ぶ写真を、SNSのあちらこちらで見かけます。

最近では、透き通ったヴェネチアの運河でクラゲが優雅に泳いでいる動画が出回り、水上バス(ヴァポレット)のせいで、ちょっと油臭い濁った運河しか見たことがなかったわたしは、無性にヴェネチアに行ってみたくなりました。

 

 

各国の工業生産活動が停止してしばらくすると、大気汚染があっという間に好転したことは、不幸中の幸いとも言える出来事でしたが、こんなに短い期間でみるみるうちに空気や水がきれいになるのなら、ときどきロックダウンも、そう悪いことではないかも、とも思います。

ちょっと前のことですが、「環境問題を解決するためには、1年ごとに人類総サバティカルを実行すればいい」と友人が主張し続けていて、周囲の友人たちに「そんなの無理だよ。奇想天外すぎる」と笑われていましたが、多くの先進国がウイルスによってサバティカル状態を強制される現在、その友人の言うことには一理も二理もあった、と納得した次第です。

年々再々、かつて経験したことがないような、まるで地獄の釜でゆだるように暑く、苦しい真夏を過ごしていました。去年のことですが、ローマの街角に、いつの間にか巨大に育ったバナナの樹に、いくつものたわわな実がなっているのをはじめて見つけて、「地球温暖化で、ここも熱帯化しているんだな」と、空を仰いで感嘆したほどです。

あれほど世界の科学者たちが、温室効果の原因となるCO2の削減を訴え、グレタ・トゥーンベリを筆頭に、世界中の子供たちが「われわれの未来をどうしてくれるんだ!」と世界各地の広場に何十万人も集まって抗議していたにも関わらず、GDPこそがその国の価値を測る唯一の基準であるかのように、あとさきかまわず死に物狂いで競争しあう世界の国々は、いっこうに動こうとはしなかった。

4月8日のことです。フランシスコ教皇は英国のカトリックの週刊誌『The Tablet』のインタビューに、こんな風に答えてらっしゃいました。

「神は常に許す、人間は時々だ。しかし地球は決して許さない、というスペインの諺があります。今の危機が地球の復讐かどうかは判断できませんが、自然からの返事だとは言えるでしょう」

教皇が現在のパンデミックについて言及されるのははじめてのことでした。

2015年の「革命的なグリーン回勅」と言われる「ラウダート・シー」以来、環境問題を提起されるとともに、社会で最も弱い立場にいる人々への力強い支援を続けていらっしゃる教皇は「この緊急事態を乗り越えることができるでしょう。しかしわれわれ皆が、環境にもっと近づくことができれば、の話です」と念を押され、「ヒューマンな経済への回帰の兆しが見られます」とも語ってらっしゃいます。

 

 

4月15日のガーディアン紙によると、地球温暖化のせいで、去年の7月だけで197ギガトン(と言われてもまったく見当がつきませんが)という大きな単位で、グリーンランドのアイスバーグが溶けているのだそうです。

また、このまま世界中の氷が溶け続けると、残るのはヒマラヤの一部の氷だけかもしれない、とも言われています。Covid-19のことで頭がいっぱいで、このところ、環境問題のことをしばし忘れていましたが、今年の夏が一段と酷暑となり、それでも外出にはマスク、手袋ということにでもなれば、地獄の釜どころではありません。

ともあれ、大気汚染に話を戻しますが、イタリアでは、このロックダウンの間に、生産活動が停止されたことと、自動車が走り回らず、飛行機が飛び回らなくなったことで、CO2が大幅に減少したそうで、その代わりに、大気に漂うPM10が大気汚染の主な原因となっているそうです (Gazzetta Motori)。

そしてイタリアの研究者たちは、イタリア国内のウイルスの感染拡大は、PM10原因があるのではないか、との仮説をたてて研究を進めているのです。このリサーチを、ISS(国家高等衛生機関)も非常に有力な仮説として、今後のさらなるリサーチを推進しています。

以下、3月20日のラ・レプッブリカ紙、3月21日のイル・ファット・クォーティディアーノ紙を参考にしました。

このリサーチはSIMA (Società italiana di medicina ambientaleーイタリア環境医療協会)、ボローニャ大学バリ大学(プーリア州)共同で国家市民保護局のデータ、その他大気汚染に関する科学データをもとに実施されたもので、空中に浮かぶ微粒子(PM10)がウイルスの拡散を補助しているのではないか、と仮定され進められています。

案の定そのリサーチでは、イタリアで感染が拡大した地域は、産業が集中しPM10数値が高い地域ほぼ一致しているということが明らかになっています。

つまり、大気中の微粒子(PM10)に付着したウイルスが、気象条件に左右され風に乗って広がった、と考えられるということです。

2月10日~29日の期間、イタリア国内の、大気汚染に関する規定(1日平均50microg/m3の濃縮)を超えた地域と、Covid-19の感染拡大地域を比較すると、ほぼ完全にオーバーラップしています。そしてその期間は、まさに第1感染者が確認された2月20日とも重なります。

ちょうどその頃、各地域で感染が確認され、その後、爆発的な感染となるわけですが、PM10の数値が極めて高かった2週間が潜伏期間と重なるとも推測されている。つまり、ヒトーヒト感染だけでなく、大気汚染もまた、感染拡大に関係しているというのです。だとすれば、これは恐ろしい話です。

 

3月21日 イル・ファット・クオティディアーノ紙より。左:Covid感染マップ 右:イタリアの産業集中マップ

 

実際、北部イタリア一帯に広がるパダナ平野(ロンバルディア州、エミリア・ロマーニャ州・ピエモンテ州・ヴェネト州、フリウリ・ヴェネチア・ジュリア州)では、その2週間後に不自然とも言える感染の爆発が起こっており「PM10がウイルスの移動を加速させたことは、その動きが、初期に感染クラスターが発見された地域と重なり合っていることから明白だ」と研究者たちは語ります。

「ウイルスが付着した微粒子(PM10)の濃度が高ければ高いほど、感染しやすい大気を形成する。今後はできる限り、地域のPM10減少させなければならない」と警鐘をも鳴らしている。

事実、2月21日から3月13日までにベルガモ県で採取したPM10の34のサンプルで、少なくとも22日間のうちの8日分のサンプルに、il gene E、il gene N、il gene RdRPが確認されています。

わたしには専門知識がないため、それがどのようなものかまったく理解できませんが、RdRPはSars-Cov2のRNA(遺伝情報を運ぶメッセンジャー)で、この事実から大気中の微粒子にSars-CoV-2が含まれると考えることが妥当なのだそうです(コリエレ・デッラ・セーラ紙)。つまりPM濃度が高い大気の微粒子にウイルスが付着し、長時間漂うことで、クラスターを発生させやすい環境を形成したということです。

なお、イタリアがこのリサーチを発表した後、「大気汚染がひどい地域で致死率が高まる」と題された、米国、ハーバード大学(T.H.Chan School of Public Health)の研究が、ニューヨーク・タイムス紙に報道されています。

その記事でもまた、PM2.5の濃度がCovid-19による致死率と関係が深いのでは? という仮説が立てられていますが、ハーバードのリサーチでは、微粒子(PM2.5)で大気汚染がひどい地域と、他の疾病も含めCovid-19で亡くなる方が多い地域が、ほぼオーバーラップしているといいます。

また、2011年から2013年の2年間、北京、上海、そして米国のサンディエゴ大学により実施されたリサーチでは、PM2.5PM10の106件のサンプルのうち、4%がウイルス (この時点では、Sars-CoV-2ではありませんが)だったという報告があるそうです。

現在、イタリアと米国で進められている、PMとSars-CoV-2の関係性に関するこのふたつのリサーチは、まだ仮説の段階ですが、今後さらなる研究が進められ、明らかにされることを期待します。

産業革命以降、やりっ放しで環境を破壊し続けてきた結果としての大気汚染が、未知のウイルスの感染拡大に一役買っているのなら大急ぎで解決しなければ、教皇のおっしゃる通り、地球のエコシステムはもう人類を許してくれないかもしれません。

工業型畜産業とPM10

では、なぜ北部イタリアに広がるパダナ平野では、PM10の濃度が他の地域に比べて高いのか。

PM10とウイルス感染拡大の仮説を知った時は、北部イタリアに集約される、重要な企業の工場から排出されるガスに含まれる微粒子のせいだろうと思っていましたが、4月13日、国営放送Rai3で放送された『Report』でその原因が明らかになりました。

エミリア・ロマーニャ州、ロンバルディア州など北部5州にまたがるパダナ平野では、家畜を無菌の畜舎に密閉し、抗生物質を投与しながら成長させる、いわゆる工業型畜産業が盛んで、もはや昔ながらのエコシステムに沿った牧畜はほとんど行われていないのだそうです。

つまり、約6ヶ月周期で家畜を市場へ出荷する、合理的な生産性を追求した畜産システムが主流となっているわけですが、その豚や牛などの家畜たちの飼育から廃棄された膨大な汚水から、PM10を形成するアンモニアが蒸発。地域の大気に漂うアンモニアが、規定値の206%も高くなっています。

たとえばその地域に住む人が100万人だとすると、その人口に対して、その2倍の200万頭100万頭が工業型畜産業で飼育されているのだそうです。ロンバルディア州、エミリア・ロマーニャ州などの地域の大気中のアンモニアの85%は、その家畜によるものであり、それがPM10として大気を汚染していることになります。

もちろんPM10が感染の急拡大と明らかな関連性があるとは、まだ言い切れず、今後の研究の成果を待たなければいけないのですが、工業型畜産業に、その原因としての可能性があるということは、われわれが捕食する動物たちの生命を、まるで無機物ででもあるかのように粗末に扱ってきた人類の貪欲と無神経を非常にシンボリックに示す現象です。

ところで、工業型畜産業と聞いて、ハッと思い出したのがアマゾン森林破壊との関連でした。

2019年の夏、「地球の肺」であるアマゾンの森林火災で、広範囲の密林が焼け野原になってしまいましたが、そもそもアマゾンの焼畑は、ブラジルの主要産業である牛の工業畜産のための飼料となる大豆を栽培するために行われていたものです。また、工業型畜産業は中国でも、巨大規模で推進されています。

今や人類が地球上に76億も存在し、われわれの動物性タンパク質の補給を満たすために考案された工業型畜産業のために、原生林、草原、サバンナが犠牲となり、炭素、水の循環が異常をきたし、地球のエコシステムが狂ってしまった(グリーンピース)。工業型畜産業によるCO2、メタンガスの排出量は、自動車や飛行機総排出量より多く、14%にも上るといわれます。

2004年にはWHO、国際獣疫事務所、FAO (国際連合食料農業機関)が、動物性タンパク質の需要が増え、工業型畜産業が世界中に拡大したことで、動物たちに未知の病気が発生し、動物から人間へ感染する病気が生まれる可能性を警告しています。

また、CIWF (Conpassion in World Forming)は、抗生物質を大量に投与する工業型畜産業は、小規模の土着型の伝統的放牧を駆逐するのみならず、動物性食品から感染する病気を増加させている、というレポートをも発表しているそうです(マニフェスト紙/アンゲル・ルイス・ララ)。

今回のコロナウイルス由来のSars-CoV-2に関する、マニフェスト紙に掲載されたスペイン人作家のパンデミックの考察は、自然破壊、SARSや南米で発生したインフルエンザ、さらに工業型畜産業との関連を網羅した興味深いものでした。引用されていた、2500年前にはインフルエンザは存在しなかったとするMichael Gregerの『Flu:A virus of our own hatching”は面白そうです。

いずれにしても 、地球上に増え続ける人間の生命を維持するために、エコシステムを無視した合理的経済性で構築した工業型畜産業、工業的農業で、人類は大きすぎるリスクを負ったように思います。近い将来の地球規模の食糧危機が叫ばれる、ウイルス禍にある今こそ、システムを見直す時が来たのかもしれません。

 

アマゾン。settimananews.itより。

▶︎ロンバルディア州と高齢者医療介護施設

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