極めて右を歩むことを民主主義で決めたイタリアの、限りなく不透明な未来 Part1.

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ジョルジャ・メローニの人気の秘密

ジョルジャ・メローニの、何がそれほど魅力的なのか、正直、わたしには見当がつかないとはいえ、庶民的で気さく、常に一生懸命で(少なくともそう見えます)、いかにもイタリアの人々に愛される、はっきりとした物言いの強い女性、というイメージは分かち合うことができます。政治から離れた場所で知り合うようなことがあれば、けっこう好感を持つのかもしれません。

そういえば、直近のローマ市長選の際、『イタリアの同胞』候補者の応援に駆けつけたメローニの演説を、間近で聞いたことがあります。思ったほど人が集まっていない公園で、小粒の身体から湧き出る、信じられないほどの声量、ひたすらシンプルな言葉でエネルギッシュに、攻撃的に人々に語りかける姿に、「これだけインパクトのある、戦闘的な女性はなかなかいない」と少し頭がクラッともしました。

メローニは、20代からかなりの胆力で、イタリアの百鬼夜行な国政を渡り歩いてきた経歴のある、コミュニケーション能力が高い、狡さも含めて賢い女性で、アイロニーというか、ユーモアのセンスもけっこうありそうです。

ところで『イタリアの同胞ーFDL』に投票した有権者に、その理由を尋ねた調査では、●ジョルジャ・メローニがリーダーだから68%、●ここ数年、野党で一貫している60% ●安全保障のテーマに最大の注意を払っている53%、●経済政策と減税51%という結果になっています(DEMOPOLIS)から、今回の総選挙の勝利は、政党の政策、というより、やはりメローニ人気に負うところが大きいということです。

※これはLa7の番組で放送されたファビオ・カレンツァのパロディなんですけど、地中海における難民の人々を救助するオランダのNGO船sea watchを糾弾するメローニ女史の、その言葉のリズム感から見事な楽曲が創作されました。もちろん、皮肉です。

若かりし頃、ネオファシストグループのメンバーとして(後述)、活発な政治活動に身を投じてきたジョルジャ・メローニ自身も、今では「ファシズムはすでに歴史となった」と、脱ファシスト宣言をしていますから、それが正直な告白であって欲しい、と願いますし、実際、イタリアの歴史に血塗られた痕跡を残したファシズムは、もはや今の時代にそぐわず、「最も右寄りの政党」と呼ぶのが『イタリアの同胞』にはふさわしいのかもしれません。それでも今までの発言や政党の傾向から、今後、国家権力が集会や表現の自由を脅かすことがないよう、市民がしっかり監視する必要がある、とは感じています。

いずれにしても、現在のイタリア、また欧州連合で最重要視されるのは、ファシストVSアンチファシストという思想的な対立ではなく、国家主権主義VS.欧州主義なのだ、と言えましょう。

さて、今までメローニは、というと、●同性婚、同性のカップルの養子縁組に反対、●市民の安全を守る警察業務を妨害するとして、拷問罪廃止(2001年、G8が開かれたジェノヴァで、デモ参加者に国家警察が暴力を振るったことが明るみに出たことから2017年に可決)、●イタリアで成長し、学校へ通う外国人の子供たちに無条件で市民権を付与する(Ius scholae)法案に反対、●SNSにおけるすべての検閲反対してきました。

また、●移民、難民の人々の文化が流入することで、イタリア人のアイデンティティが損なわれると考えており、過去には●モスクの制限、イスラム教を信仰する女性のヴェール着用反対、●現在法案に上がっている大麻解禁反対、●尊厳死反対、●地中海における難民の人々を乗せた船の海上封鎖提案するなど(Wikipedia イタリア語版参照)、市民の自由、人権問題政策に関して、欧州連合が謳う民主主義の制約にそぐわない部分が多々あります。しかし前述したように、ウクライナ危機が起こってからは、ロシアを徹底的に糾弾し、NATOに賛意を示し、国家主権主義であると同時に、欧州主義(?)らしき表明をしていることは前述した通りです。

そういえば、選挙前も選挙後も「ジョルジョ・メローニが欧州連合を脅かすことはない」と、イタリアの国家主権主義がもたらすであろう経済混乱に身構えるフランスドイツ欧州連合密に連絡を取っている、と報道されるドラギ首相と、メローニ党首との間に、ドラギ政権の経済政策を踏襲すると同時に経済官僚も引き継ぐ、といった、なんらかの合意があるのではないか、とも推測されています。しかしそれは、ドラギ首相を信望する人々の希望的観測かもしれないので、やはり実際に組閣の顔ぶれを見てからでないと判断できません。

ともあれ、ドラギ政権が樹立してから1年半ほどの間に急激にメローニ人気が沸騰したのは、イタリア初の女性首相の可能性と同時に、既存の政治に突破口を見出せない市民が、結党以来野党であり続けた『イタリアの同胞』に、一縷の希望を託したからに他ならず、もはや人々の空腹と枯渇と苛立ちは、イデオロギーなどどうでもよくなっているのかもしれません。余談ではありますが、今回イタリアに女性の首相がおそらく誕生する、としても、女性の上院、下院議員数は、前政権35%に比べて31%と減少しているのは寂しい限りです。

さて、ジョルジャ・メローニの人気沸騰について、さらに考察したいのは、SNSを使った草の根マーケティングの巧みさででしょうか。途切れなく投稿される、いい意味でも悪い意味でも(過去には大量のフェイクニュースがシェアされましたし)、インパクトのあるアプローチが、ジョルジャ・メローニを政治から遠い層にも印象づけることに成功した、と考えられます。また、支持率がぐんぐん上昇しつつあった2021年に出版された自伝「Io sono Giorgia(わたしはジョルジャ)」は、発売から10日のうちに10万部というベストセラーとなって、メローニ人気に拍車をかけることにもなりました。

しかしながら、このSNSマーケティングに関して、メローニには、ちょっと気になる過去があるのです。

2019年のことです。国営放送Rai3のプログラム「Report」は、メローニのSNSフォロワー分析(リンクした動画はイタリア語ですが、後半、スティーブ・バノンがメローニとともに登場する、興味深い映像です)を放送し、彼女のフォロワーの237000(当時)アカウントがTrash Italianoという、わりとどうでもいいゴシップサイト、さらには人気歌手フランチェスカ・ミキエリンのフォロワーのアカウントの大部分と、なぜか重なっていたことを追求しています。

つまり、短期間に激増したメローニのフォロワーは、botを利用(購入)しているのではないか、との疑惑でしたが、メローニはその分析に、「わたしはフォロワーを買うお金なんか持っていない。フェイクニュース!」と真っ向から挑戦することになりました。しかし「Report」は、その反撃に怖気づくどころか、さらなる分析を進め、『同盟』のサルヴィーニとメローニのアカウントから、絶え間なく流される、それこそ真のフェイクニュース(たとえば難民の人々が大挙して欧州に漂流するよう、ジョージ・ソロスが陰謀を張り巡らしている、など)が、いくつかのサイトから大量にシェア、拡散されている、という事実を突き止めています。

その際、メローニはプレスを開いて、「われわれのバックに、国際国家主権主義グループが存在し、親ロシアの傾向があり、米国のスティーブ・バノンとも密に繋がっている、と『Report』は考えているようだが、わたしはバノンに3回しか会ったことはない」と反論。SNS上では、「『Report』はフェイクジャーナリズム!」との動画を拡散しています。

「Report」は、そのメローニへのレスポンスとして、かのスティーブ・バノンが実際に『イタリアの同胞』のカンファレンス登壇し、「われわれが、(2019年の)欧州選挙で支持率を伸びるよう、あなたがたを助ける。ビッグデータを分析し、(どうすれば支持を伸ばせるか)演出を準備するすべて無料でだ」と発言している様子や、メローニがバノンとともにヴェネチアでガーディアン紙のインタビューを受ける動画を放送。さらにその後も粘り強く「Report」は、メローニと米国保守派との関係を掘り下げていた時期がありましたが、その後、未知の感染症が猖獗を極めたため、政治の話題はいったん放送から消えることになりました。

あれから3年経った現在、メローニがいまだに米国のバノン一派と交流があるか否かは、まったく定かではありません。ただ、少なくともメローニには、このような疑惑が過去にあったことのみを記しておきたいと思います。

※ミラノのDJ、MEM&Jのこの動画には笑いました。後半、メローニ女史がLGBTQの人々を糾弾しているシーンで構成されており、MEM&JはLGBTQの人々への連帯を示すために、この動画を創作したそうです。「わたしはジョルジャ、わたしはひとりの女性、ひとりの母親、ひとりのクリスチャンだ」とはじまる演説は、彼女の最も有名な演説です。ところで選挙後の、ネット上におけるメローニ人気の理由の分析で興味深かったのは、Wired誌の記事でしょうか。彼女のSNS上での表現は、「恥を知れ」「許せない」「狂ってる」「今すぐ解散」「今すぐ選挙」など、怒り狂った野党の、シンプルで強い訴えが、色彩豊かなグラフィックでデザインされ、あらゆるSNSプラットフォーム上に、途切れなく投稿されたことをWired誌は指摘しています。さらに、メローニの明らかなローマのイントネーション、常識にとらわれない自由な振る舞いに、「ラジオやソーシャルメディアにも適応する、テレビ的なリズム感を持っている」と、メディア社会学研究所のロベルタ・ブラッチャーレは分析しました。

事実、彼女のLGBTQの人々の養子縁組による家族の否定、あるいはアフリカ大陸から訪れる難民の人々の船を糾弾する発言や、プロパガンダ演説を、ミュージシャンDJパロディ化して、その動画が1260万回以上も再生される、という現象が起こっています。そもそもミュージシャンたちは、メローニがリズミカルに、しかしかなり極端に差別的な演説をする様子を揶揄しているのですが、メローニ自身がそれを面白がって逆手にとり、キャンペーンに利用したため、それが好感に結びついたという結果になったわけです。

Wired誌はまた、メローニの政治は「感情の政治」であり、SNSにときおり投稿される、娘やパートナーとの写真など、家族的でソフトなイメージに、外では過激な戦士だが、家庭では母親の顔を見せるメローニに、政治から遠い層の強い共感をも集めた、と分析していました。

わたし自身は、ジョルジャ・メローニのアカウントをフォローしておらず、ベスト・セラーとなった「Io sono Giorgia」も読んでいないため、彼女の人気の理由がさっぱり分かりませんでしたが、そういえば、「まさか、この人が」と思える、近場の、どちらかというと「保守」を支持する知人が「彼女は素晴らしい!」と発言して、驚愕したこともありました。

▶︎Part 2へ続く

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