2026年10月8日、現イタリア首相ジョルジャ・メローニ率いる『イタリアの同胞』の悲願であった新国政選挙法、通称「メローネルム」(与党呼称「スタビリクム」)が下院を通過しました。すでにセルジォ・マッタレッラ共和国大統領の署名を経ており、今後、学者、著名人による異議申し立てが提出され、憲法裁判所の審理で変更がなければ、来年に控える国政選挙から施行されることになります。イタリアの選挙法の改制は、この20年間でなんと5回めという、他の国々には見られない特異な現象でもあり、特に今回は、市民の理解が追いつかない複雑な内容変更です。イタリアにおいては共和国大統領が最高権力であり、首相指名、上院・下院の解散権、法律の承認、最高裁判所長官の指名など、重要な役割を担っていますが、この「メローネルム」が実際に施行されたならば、近い将来、大統領権限が縮小され、イタリアを専制政治、あるいは新しいファシズムへと導く可能性がある、との強い懸念が学者を含める言論人たちから湧き上がっています。
現メローニ最長政権の虚飾
現メローニ政権が歴代最長政権となったことは日本でも報道され、メローニ首相の政治力と外交力、国内失業率の低下、女性の就業率の増加などの経済政策を褒めそやす記事をいくつか読みました。しかしこの政権はまだ、5年の任期満了にすら達していないのです。
そもそもイタリア共和国における政権運営は、任期途中に必ず不信任決議や不祥事が巻き起こる政治危機の連続であり、共和国はじまって以来、任期を完遂した政権が存在しないのが歴史的背景ともなっています。また、歴代の政府には異なる特徴があり、それぞれの時代に合わせ、任期満了にこだわらない安定化モデルを創出してきた経緯もあります。
たとえば戦後の『キリスト教民主党』のように、政権が途中で崩壊したとしても、選挙を経ることなく、時の大統領が与党から首相を選出し、その首相が内閣改造に着手。結果、『イタリア社会党』などの少数政党との連立に成功した『キリスト教民主党』が、約50年もの間、政権に君臨するケースもありました(もちろんその間、国政選挙も行われましたが)。
したがって、メローニ首相率いる『右派連合』単独政権維持最長記録が、ベルルスコーニ政権のそれを抜いたとしても、とくだん賞賛されるべきことではありません。それにベルルスコーニがイタリアの首相の座にいた期間は4政権、通算で9年超となりますから、現政権が最長!とは単純に言い切ることはできないのです。
だいたい今年3月、鳴物入りで与党が提案した司法改革を問う「国民投票」で、与党側が完敗を喫した事実は、実質的には市民が突きつけた政府への不信任でもあり、いつ解散してもおかしくない状況でした。しかし野党の怒号が響く中、自らが運営する事業において詐欺的行為が問題となっていた閣僚や、マフィアとの癒着が暴かれた『イタリアの同胞』議員を辞任させるトカゲの尻尾切りで、のらりくらりと延命を図った、とも言えます。
しかも、次の選挙の前に何としてでも起死回生を図らなければならない現政権は、この夏を境に、イタリア中のメディアを狂乱状態に陥れる、いくつかの報復を強行したのです。特に、明らかに現政権の障壁となっていた国営放送Raiの看板とも言える、調査報道番組「レポート」の司会者である超人気ジャーナリストを、番組からの理不尽な解任にまで追い込んだことは、市民からの大きな反発を招いています。
30年もの間、政治、経済界に巣食う不正を容赦なく、忖度なく暴き続ける、この報道番組に怯え、疎ましく思っていた与野党議員たち、著名経済人、犯罪組織が多数存在しました。毎週月曜の放送の後には毎回、喧しい議論が巻き起こり、番組を口汚く罵る政財界人たちが保身を図ろうと起こす損害賠償訴訟は、通算で200を超える数にまで発展しています。
しかし、それらの訴訟に番組が敗訴することはほとんどなく、というのもこの司会者が、あらゆる障害から番組編成チームを守る盾となり、権力側がかけ続ける重圧を跳ね退け、番組の「独立性」を守り続けてきたからです。
しかしながら今回は、じわじわと政権に乗っ取られた形となった国営放送Raiからも裏切られ、番組の顔であった司会者は退かざるをえない結果となりました。この解任劇は明らかに、政財界による「報道の自由」への攻撃であり、国家による策謀だ、との声が多く聞かれます。現在Raiは「テレメローニ」と呼ばれるほど、政権に忖度する国営放送となりはてています。
まず、この一件で最も驚いた現象は、『右派連合』の一角をなす『同盟』所属の上院議員が所有する右派主要メディア、ネットメディアが中心となって膨大な数のフェイクニュース(なんと、3500を超える記事数)を流し、それがSNSで動画化され無限に拡散されることによって、司会者であるジャーナリストと番組のイメージを徹底的に毀損することに成功したことでしょうか。
この現象により、状況の詳細を知らないわたしたち大衆は、いとも簡単にネガティブキャンペーンの波に溺れ、洗脳されるのだ、と再認識することにもなりました。いずれにしても、まだ当局の捜査が進行中であるこの件については、先で別項をたてて追っていくかもしれません。

30年もの歴史を持つ番組の司会を、2017年から担い続けたイタリアの重要ジャーナリストのひとりであるシグフリード・ラヌッチは、この夏、理不尽で、謎の多い事件に巻き込まれたのち、右派メディア、SNSの総攻撃を受け、番組を降板せざるをえなくなりました。これからは、新しい司会者が番組を継続しますが、個人的には、これからも続けて観たい、とは思いません。なお、ラヌッチ氏は古巣でもあるRainews24へと移動するそうです。番組ロゴはWikipediaから引用。
さらにはパレルモ裁判所の元検察局局長、現在上院議員であるロベルト・スカルピナートを、上院・下院議員で構成される「アンチマフィア委員会」から追放しようとする、あからさまな妨害活動も連続して起こっています。スカルピナートは、時の重要政治家たち、シチリアマフィア「コーザ・ノストラ」、極右テロリストグループと逸脱したフリーメーソンが結束し、1992年から93年に起こした重大連続テロ事件の詳細を、誰よりも知っている人物のひとりです。
というのも、『鉛の時代』から93年までの重大テロ事件に関わった極右テロリストグループは、「アンチマフィア委員会」の委員長をはじめとする『イタリアの同胞』の一部の議員たちのルーツに近しく、イタリアの近代史に残された、司法的真実と現実的真実の相違、つまりスカルピナート上院議員らが光を当てようとする歴史の暗部に、現「アンチマフィア委員会」は封印したいのだと思います。「アンチマフィア委員会」の委員長の女性議員は過去、『ボローニャ駅爆破事件』の犯人である極右テロリストとともに写った写真をSNSに堂々と投稿していた、という経緯もあります。
このように来年、おそらく5月に行われるであろう次の「国政選挙」のため、戦況に影響を与えそうな障害をひとつひとつ除きながら、現政権は「国民投票」で受けたダメージを着々と消し去ろうとしていているようです。
今年後半から来年にかけての欧州では、デンマーク、スペイン、ドイツ、フランス、イタリアという欧州主要国以外にも、ブルガリア、チェコ、フィンランド、ギリシャなど、さまざまな国で国政選挙が予定されています。
日々報道される各国の極右勢力の台頭で、選挙後の欧州そのものが混乱することが予測されますが、そもそも極右と呼ばれる勢力は、軍産複合体、国際IT・AI企業、超富裕層、金融市場の下僕であり、庶民の生活など考えていない、という基本的な事実を、彼らに希望を託し、投票する善男善女は理解してないのではないか、とも思います。
終わらない戦争で、われわれの暮らしの質は下がり続け、地球温暖化もさらに厳しくなる。軍事予算を膨らませ、戦地に武器を送っているイタリアの場合、ガソリンやディーゼルの価格が1リットル2ユーロ(約354~440円)を軽く超しています。と同時に、基本、無料で提供される公共医療システムは機能しなくなりつつあり、診察や検査、治療が6ヶ月待ちというケースも珍しくありません。それが嫌なら保険が効かない高価格の民間医療機関で検査、治療しろ、ということです。
2026年9月のインフレ上昇率が前年比4.2%を弾き出したイタリアでは、世界を襲う地政学的緊張の影響で、2026年10月から光熱費が37.3%上がると試算されています。ロシアのウクライナ侵攻以来、光熱費が爆上がりしたうえにさらに値上げとは、脆弱な家庭のみならず、ミドルクラスの家庭にとっても死活問題です。冬、控えめに暖房(ガス)を使って、2ヶ月で650ユーロ(円換算だと約115,000円)の請求書が、何事もなかったようにさらりと届く国で、さらに37.3%も高騰するなら、いよいよ厳しい冬が訪れることになります。
フランスでは、学生たちの教育環境への不満、そして市民たちの物価高への抗議活動から一部の若者たちが暴徒化し、略奪が起こり、あちらこちらの街角が炎上。市庁舎まで燃やされる事態となっています。そしてその状況がミラノをはじめとするイタリア各地にまで飛び火して、10月18日には、ミラノの中心街に集まった若者たち(そのほとんどが16歳以下の子供たち)が、立ち並ぶ店のショーウインドーを次々に破壊して、店内の商品を大量に略奪する、という現象が起こりました、
なおミラノで暴徒化し、広場に火を放ち、略奪に走った未成年の若者たちには、明確な政治思想があるわけではなく、何らかのグループに属しているわけでもなく、リーダーも存在しません。イタリア人、移民2世(東欧、北アフリカ、アジア)の子供たちが、SNSで連絡を取り合い集合し、黒づくめに黒マスクという出立ちで、まるでピクニックに行くかのように略奪に参加しています。中にはダンテのコスプレで演説をしたり、スパイダーマンと化して雄叫びをあげたり、ポリスがズラリと並ぶ広場で、歌ったり、踊ったりの動画を投稿している女の子もいました。
一般的に彼らは、暴力的なメタバースに慣れたベビーギャング世代とされ、「ビデオゲームのように略奪を楽しんだのだ」と、警察幹部が評していましたが、いつの世も子供たちは一種、社会の鏡でもあり、暴力的なメタバースの影響のみならず、ごく近くに感じられる戦火の気配、大人たちの間に漂う重苦しい怒り、渇望と絶望、教育への無関心が、子供たちの無意識に反映しているのではないか、と解釈したい、と個人的には考えています。
ちなみにイタリアには、5%の超富裕層が国全体の資産の約半分を保有する米国型の格差社会が広がっています。










