極めて右を歩むことを民主主義で決めたイタリアの、限りなく不透明な未来 Part1.

Anni di piombo Deep Roma Società Storia

海外で語られなかった選挙全般

イタリアの政界には、次々に新しい政党が生まれては消え、あるいはいつの間にか分裂して名前が変わるなど、常に多種多様政党がひしめいて、少し前の政党の存在を忘れてしまいそうになったり、誰がどの政党に属しているのか、混乱してしまうことがあります。

右派に関しては、2018年の総選挙からベルルスコーニ元首相が率いる『フォルツァ・イタリア』、『同盟』、『イタリアの同胞』が『右派連合』として連帯しているわけですが、今回の総選挙戦における左派の有り様は、『民主党』、『5つ星運動』、『ヴェルディ(緑の党)+シニストラ(左派)』『イタリア・ヴィーヴァ+アッツィオーネ』『+ヨーロッパ』などなどが入り乱れ、連帯したり、分裂したり、互いが互いを批判しあい、反目しあって、まったくまとまりがありませんでした。

左派のそのような状況を「多様性」、と呼べば聞こえはいいのですが、それぞれがそれぞれの自己主張を曲げず、左派政党同士が攻撃し合う四分五裂という状況で、かつての『オリーブの木』のように、「左派を支持する有権者のためにも、選挙の時ぐらいは団結すべきだ」という声が、メディアからも周囲の友人たちからも多く聞かれた次第です。

棄権

まず、今回の総選挙において特筆すべきことは、あまりにも棄権が多すぎたことでした。それも63.8%という、今までのイタリアの総選挙では見たことがないほど低い投票率で、2018年の総選挙に比べると9%も下がっています。だいたい2018年総選挙の、72.2%という数字ですら史上最悪(!)の投票率で、1970年代までは90%以上(!)、1980年代から2008年までは80%(!)、と脅威の投票率を誇ったイタリアが、みるみるうちに転がり落ち、ついに60%台前半の投票率にまで下落してしまったわけです。

確かに今回の選挙戦は、突然のドラギ政権崩壊劇が起こった7月下旬以降、ほぼ2ヶ月しか期間がなく、極端な暑さに襲われた真夏の真っただ中、前述したように、特に左派に関しては、政策そっちのけで内輪揉め、左派政党同士の攻撃、足の引っ張り合いに明け暮れるキャンペーンが繰り広げられました。それに2018年の選挙から、策略というか、謀略というか、裏切り者続出で、イタリアの政府3回も暴力的に崩壊し、誰もがうんざりしていたところにその騒ぎだったのです。日頃、政治話を好むわたしですら、なるべく政治の話題には近づきたくない、と思ったほどでした。

それでも選挙前ともなると、ほとんどのメディアやインフルエンサーが、「投票に行くよう」かなり口を酸っぱくして有権者に訴え、朝のうちは列ができた投票所も、夕方にはガラガラ、という区域もあったようです。さらに投票日当日、ナポリ近郊は大雨が降って道路が冠水した場所もあり、投票率は平均よりかなり低くなっています。開票翌日のイル・ファット・クォティディアーノ紙には「今回の選挙における過半数は棄権した人々」との記事タイトルが躍りましたが、まったくその通りだと深く頷くことになったわけです。

のちに棄権した人々への世論調査(Demopolis)が行われたところ、●各政党への失望と不信60%(やっぱり) ●もはや政治は現実の家族生活に影響しない53% ●この選挙は、選挙前から結果が出ていた44% ●ずっと前から選挙に行かなくなった18%という結果が出ています。

実はそれほど多くない『イタリアの同胞』支持

なお、今回の総選挙で第1党となった『イタリアの同胞』の支持率は下院25.99%上院26.01%、連立を組む『フォルツァ・イタリア』は下院8.11%上院8.27%、『同盟』に至っては上院8.77%下院8.85%となり、2019年の欧州議会選挙では34.30%の支持率を誇った政党とは思えない大敗北となっています。

また、確かに、2018年の総選挙では4.30%だった『イタリアの同胞』が、2019年の欧州議会選挙の6.50%から、一足飛びに約26%に急上昇したことには驚愕しますが、2018年の総選挙で第1党となった『5つ星運動』は32.70%(投票率72.2%)、かつて『フォルツァ・イタリア』が第1党になった2008年の選挙では37.40%(投票率80.5%)の支持率でしたから、それに比べると、あまり振るわない数字ではあります。

つまり、今回第1党になった『イタリアの同胞』は、もちろん単独では政権を取れず、『同盟』、『フォルツァ・イタリア』との『右派連合』として、ようやく約44%に達するにすぎず、惜しむらくは、きわめて仲が悪かった、左派の『民主党ーPD』及び『緑の党+シニストラ』の左派連合、『5つ星運動』、右派、左派を超えた第3極を標榜する『イタリア・ヴィーヴァ+アッツィオーネ』の総支持率が約49%となり、『右派連合』を凌ぐ数字となることでしょうか。

上院、下院の議席数は、Centrodestra(右派連合)が44%で過半数になるのですが、2019年の「憲法改正」で議員数が大幅に減少したうえ、現在使用される選挙法によって、『右派連合』はベルルスコーニがはじめて首相となった1994年より議席数を占める割合多くなっています。第1党となった政党が過剰に優遇される、現在の選挙法に関しては、理解に苦しむ部分が多々あります。Avvenire紙より引用。

ちなみに政権を崩壊させることにかけては天才的策略家であるマテオ・レンツィ、及びPDとの連帯解消で耳目を集めたカルロ・カレンダが率いる『イタリア・ヴィーヴァ+アッツィオーネ』は、2桁の数字を取ることで右派の数字を拡散させ、安定過半数を得られないカオスを創出し、再びマリオ・ドラギ首相によるテクニカル官僚政府を樹立する、との策略を企てましたが(ドラギ首相が「ありえない」と言っていたにも関わらず)、結局のところは約7.7%にとどまり、思惑通りには行きませんでした。ともあれ、イタリアは民主主義の国ですから、結果がどうなろうとも、テクニカルな官僚政府よりは、民意反映された政府の方がいいに決まっています。

畢竟、各政党支持率ジェットコースターぶりを見るにつけ、イタリアの人々の移り気というか、実験的態度というか、ひとつの政党に執着しない、不安定な投票態度に、ある種の感銘を受ける次第です。

『5つ星運動』の健闘

なお、ルイジ・ディ・マイオ外務大臣を中心とした、主要メンバーの離反劇からドラギ政権崩壊に至った7月、支持率が10%を切って、このまま消滅してしまうのではないか、と危惧された『5つ星運動』は、ジゥゼッペ・コンテ元首相が政党のフラッグ・シップ政策である、失業者・低所得者のためのベーシック・インカム「Reddito di cittadinanzaーRdC」、最低賃金の設定などを掲げ、特に困窮者が多い南イタリアで、粘り強く、真摯なキャンペーンを繰り広げて、みるみるうちに約16%を奪還する快挙でした。外国メディアで『5つ星運動』大敗、と言う記事を見かけましたが、むしろイタリア国内では、『5つ星』大健闘、と捉えられています。

この失業者のためのベーシック・インカムに関して、『右派連合』は減額、あるいは「仕事を斡旋する機関から紹介された仕事を1回断ったなら、支給停止」などの条件をつけるなど、抜本的に見直すことを選挙戦の公約に入れ、盛んに『5つ星運動』を攻撃してきました。しかし5月22日のISTAT(国立統計研究所)の発表では、RdCのおかげで、100万人の人々貧困から逃れたことが明らかになっていますし、困窮にかこつけて、麻薬の密売、売春などの違法ビジネスに、札束をちらつかせて引き込もうとするマフィアから、人々の窮地を救っている事実も報道されています。特に現在のような緊急時、わたし個人はRdCの減額は社会を今以上に混乱させると考えますし、欧州委員会からも、イタリアはRdCを強固にするべき、とのメッセージが届いているそうです。

一方、『5つ星運動』と袂を分かったディ・マイオ元外相の新党は、といえば、議員獲得のために必要な3%に達することなく大敗北となり、たったひとりも議員を輩出することはできませんでした。やはり有権者は、ディ・マイオの裏切りとも言える分裂劇に不信感を抱いたようです。

ともあれ、イタリアは判官贔屓、というか、基本、野党に回った党に票が集まる傾向があるため、『イタリアの同胞』が、ドラギ政権の野党に回ったことで支持率を伸ばしたように、『5つ星運動』は今後、支持を伸ばすことになるはずです。現在、コンテ元首相は「超党派による、戦争反対を訴える平和集会」を11月に呼びかけており、日時と場所が決まれば、わたしも参加しようと思っています。

『民主党』の象徴的敗退

なお『民主党』は、かつての『イタリア共産党』の流れを汲むメンバーが多くいるにも関わらず、ラディカル・シックと揶揄される、中間層の支持が多く、社会的弱者をまったく顧みていない、と大きな批判を浴びています。今回も、労働階級と呼ばれる人々の支持が『イタリアの同胞』、『5つ星運動』に流れる結果になったうえ、かつて『イタリア共産党』の牙城でもあったミラノのセスト・サン・ジョヴァンニ地区で、『イタリアの同胞』に大差で敗退する番狂わせが起こってしまいました。今回の選挙戦の敗退で『民主党』は書記長が交代すると同時に、政党としてのアイデンティティの再構築、あるいは解党など、大きな選択を迫られることになっています。

さて、今回の総選挙で『イタリアの同胞支持が、どの党から流れて来たかという世論調査では、『イタリアの同胞』を100と考えて、そもそもの支持者が18%、『同盟』から移行した支持者が33%、『5つ星運動』から30%、『フォルツァ・イタリア』からが12%、その他12%という結果が出ていました。

さらに30日間の選挙キャンペーン中、どのリーダーに納得したか、という問いには、ジョルジャ・メローニが33%、ジゥゼッペ・コンテが18%、『アッツィオーネ』党首のカルロ・カレンダが9%、ベルルスコーニが5%、『民主党』のエンリコ・レッタが4%となりましたが、「誰にも納得しなかった」が40%と、最も大きい数字となっています(DEMOPOLIS)。

▶︎ジョルジャ・メローニの人気の秘密

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