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ローマ・テルミニ駅の24番ホーム地下から発信: TerminiTV

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「そうそう、ところで日本人は、というと随分簡単に、ちょっとした犯罪に巻き込まれるから、毎回驚いているよ。レストランで法外な額の請求をされたり、スリに遭ったり、荷物を盗まれたり。日本人経営のお店で働いている子と友達なんだけれど、毎日のようにお金を支払う時に『あ、財布がない』と慌てる日本人に会うらしい。日本の人々は、多分世界で一番安全な場所で暮らしているから、ちょっとした危険が普通にある、ローマのスタンダードに慣れていないんだね。もちろん、日本という国は表面的には安全でも、その奥深いレベルでマフィア的な動き、つまり巨額のお金が動く大規模な犯罪が存在しているにちがいないことは想像に難くないけれどねみんな100ユーロレベルの、ちいさな犯罪には慣れていない

*日本政府からの奨学金で京都でドクターを修了した青年のインタビュー。

サイトには京都東京を旅したイタリア人のインタビューもいくつかアップされています。「今後、日本を旅する人たちの参考になるんじゃないかと思ってね。旅人から旅人への情報とでもいうのかな。駅は旅の情報を伝え合う場所でもあるから」とコンテが言ったところで頭上に、ガタンガタンと汽車が滑り込む鈍い音が響いてきました。その場にいた全員が軽く振動する天井を見上げると、「この汽車は、フィウミチーノ空港から来た汽車だよ。リュックを抱えたトゥーリストたちが沢山到着するはずさ。今やテルミニのことを、僕は何でも把握しているのさ」コンテは人差し指で天井を差しながら片目を瞑りました。

「僕はもちろんアンチレイシズムを主張しているが、それは今の時代には、まったく当たり前のことだと思うよ。つまり人種とか国籍とか関係なく、個人と個人の付き合いを形成していくのが現代のスタンダードだよ。たとえば偶然、北アフリカから来た人物と知り合い、一緒にビデオを作ろうと意気投合したとするだろう? その彼が真剣に、そして的確に仕事をしてくれたならそれはそれで最高だ。しかし逆に、彼が遊び半分にいい加減な仕事をする人間なら、その時はきっぱりと関係を解消するということさ。つまり相手がイタリア人であろうが外国人であろうが、基準は一緒だということ。だって今のジャーナリズムは、偽善が多すぎるよ。たとえば移民や難民の話をする場合、ネガティブに人々の危機感を煽るか、あるいは見下して、哀れを誘う報道に仕立てるかのいずれかだろう? 僕にしてみたら、そんな報道の仕方はバカバカしくて、話にならないんだ。演出されたジャーナリズムには全く興味がないよ。僕は、ありのままをありのままに偽善なき物語を提供していきたいんだ」

「それに移民に関するストーリーで、何より興味があるのは、イタリアに移民してきた外国人が、葛藤に打ち勝って自分の手で状況を切り開く姿だよ。たくさんいるからね。強く生き抜く人々が。それを多くの人々に伝えたい。移民だっていつまでも移民のままでいるわけではないんだ。その道のりは厳しくとも、やがて辿り着いた地で、自分の力で安定した生活を手に入れていかなくてはならない。まあ、言ってみれば僕だって、今まで 4大陸、世界じゅうを旅して、ここローマに辿り着いたわけで、将来を約束されたわけではないのは移民の人々と似たような境遇とも言えるかもしれないよ。もちろん、命のリスクを抱えて、命からがら逃げてくる難民の人々とは、その重さは比べものにならない、と強く自覚しているけどね」

*コソボから移民したベテランのストリートダンサー、アンジェロのインタビュー。

「クリエイティブな意味での目標は、ジャーナリズムとアートの融合ということかな。『詩的』な表現という意味でも、ありきたりなインタビューは撮りたくないね。テルミニTV と言ったって、既成のテレビのあり方を模倣することを目指しているわけではないのだから、インタビューを撮りながら、そこに何らかを表現したいと思っている。目指すのは、マルチメディアで表現する、ジャーナリストとアートの真ん中あたりというところ、つまり人物と、その物語に合わせたシチュエーションを吟味して映像にしていきたいんだ。テレビの報道のように、表面的で平坦な映像でなく、細かいパーツ、カットまで繊細に表現したいんだ。そのためには状況と撮影するその場の空気をきちんと把握しておく必要があるよ」

「そうそう、今年ReactionRomaというプロジェクトがMACRO (Museo D’Arte Contemporanea Roma) Testaccioで開催されるんだけれど、そのプロジェクトのテルミニ駅の映像の担当を主催者から要請されて、コラボレーションをしているところなんだよ。このプロジェクトには誰でも参加できる! ローマの街の断片、ポートレイトを撮った写真やビデオをプロフェッショナル、アマチュアに関わらず集めて、それを編集してひとつのビデオにする、というプロジェクトなんだけれどね。このプロジェクトを企画した人物は、テレビ、映画の世界でも働いてきた優秀なディレクターで、最近この人物のインタビューも撮影したところ」

ReactionRomaは、「そこに住む人々の目が捉えた写真、映像を通して、メトロポリスとしての都市、ローマを語るソーシャルムービー」をコンセプトにした、現代美術館 MACRO がサポートするオーディオ・ヴィジュアル・プロジェクトです。全てのローマの住人に開かれたプロジェクトで、集められたマルチメディアの断片は、 MACRO Factoryでビデオインスタレーションされたのち、2016年の秋にはビデオアートとして編集され公開される予定で、ネット上に直接アップロードできるシステムの最終締め切りは2016年 5月31日。「300万の人口のローマ市民それぞれに、ローマの街の風景は違うように見えるはずだ。その視線を一堂に集めて、改めてローマを一望しよう」という実験的なこのプロジェクトは、オーディオ・ヴィジュアル・アートをもっと身近に、開かれたものにしようと、スマートフォンからの映像も簡単にアップロードできるようになっています。

*世界の主要紙でレポートするカメラマンのインタビュー。 USSRのカブールでの核実験を写真で語る。

「そういうわけで、たくさんのコラボレーションの要請があるし、実際に動きはじめているわけだけれど、今、特に考えているのは、User Genelated Contents (ユーザーを巻き込むコンテンツ)を増やしていきたいということかな。たとえば日本の誰かが、「静岡の駅を撮影したよ」と映像を送ってくれたなら、それをアップしていく、とかね。世界に駅は数限りなくあるし、汽車を地の果てまで追いかけるマニアはたくさん存在するけれど、いまのところ、駅の映像を誰もコレクションしていないわけだし」

日本のことは、とても興味深いと思っているんだよ。まず鉄道という意味では、世界で一番有名な汽車ー新幹線が走っている場所だしね。僕らが持っているビデオのなかに面白いインタビューがあってね。70年代、テルミニの切符売り場にひとりだけ、日本語を話せる駅員がいたんだそうだ。日本のことが大好きで日本人の女性と結婚した人物、当時、日本語を話せるイタリア人として日本人の間では有名で、テルミニ駅に来た日本人は、彼と話すために切符売り場に立ち寄ったらしいよ。40年以上前の、誰も知らないこんなエピソードは貴重だし、楽しいよね」

「そして、ローマ・テルミニは今再び、大きな変化を遂げようとしているところだよ。一般には、まだあまり知られていないけれど、今後、この駅は大きく変わるはずだ。現在の駅は、ホームから空が見渡せるオープンで、明るい構造になっているが、そのホーム全体に天井を作って閉ざし、1400台の車が駐車できる巨大な駐車場を作ろうと計画されているんだ。つまりここは、将来的にはまったく太陽光のない駅になってしまうというわけ。工事はすでに着手されているよ。だから僕はその工事が終わるまで、この場所からスタジオを移動せず、太陽が消えてしまう前の明るいローマ・テルミニの記録を残したいとも思っているところなんだ」

コンテが何気なく言った、そのテルミニ増築工事の話に、わたしはえ?と驚くことになりました。そういえばこのところ、通るたびにあちらこちらで工事のために囲われているテルミニ駅ですが、ホームが閉ざされて、駐車場になる計画が進んでいたとは・・・。私がローマに住みはじめた頃に比べると、大幅に改装され、明るくモダンになったテルミニですが、どこか違う場所から到着し、陽光が差し込むホームを降りた途端に、「やっぱりローマの風は温かい」と街の空気を体感することで、のびのびとした気持ちになります。永遠の都市、ローマの風景も、こうして少しづつ変わっていくのです。どの駅に到着しても、同じブランドの物を売るショッピングセンターが並び、同じ味のサンドイッチを売るモダンなカフェが並ぶのは「駅」という、その土地の玄関の個性が剥ぎ取られていくようで、少し寂しくもあります。

すでに着手されたこのテルミニ駅の大改装は、1億2千5百万ユーロを投じ、6500平方メートルのスペースを増設、そのうちの4550平方メートルはレストランやバール、さらなるショッピングセンターに当てられる予定だそうです。2016年ちゅうにはその60%がオープンし、2020年には1337台の自動車、85台の大型バイクの駐車場が完成します。しかしながら体裁がどんなにモダンに、グローバルスタンダードへと変わったところで、われわれ人間はそうは簡単に変化しないわけですから、閉ざされゆくテルミニでも、まだまだ個性的な物語が語られ続けるに違いありません。

テルメー温泉から枢機卿のヴィッラ、そしてローマ・テルミニへ。気が遠くなる時間の流れが紡ぐ幻のような記憶を持つテルミニ駅を訪れるわたしたちも、それぞれの物語を秘めながら、汽車の軋む音、発着のアナウンスに、「まさか!いまごろホームが変更になるとは」と掲示板を見て慌ててダッシュする、という具合ですから、ローマ・テルミニには、その多少ハタ迷惑、しかし完璧であるはずのないヒューマンな「個性を失って欲しくない、とひそかに願っているところです。

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『レイシズムを閉じてしまえば世界が開く』テルミニ・アンダーグラウンド

*現在TerminiTVは、24番ホーム地下からは立ち去らなければならない状況となりましたが、活動は継続され、今でも多くの人々の共感を得るvideoを絶え間なく発信しています(2023年追記)

 

 

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