イタリアの春、Covid-19と共存する未知の世界へ : Build Back Better

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ポメツィアの片隅のラボで進むワクチンの開発

ワクチンに関しては、まだ確固とした見通しがついておらず、「ぬか喜び」に終わる可能性もあるとはいえ、イタリアでも野心的な開発が進んでいることを強調しておきたいと思います。

また、その「ワクチン開発」はオックスフォード大学との共同研究のため、主人公としてニュースになるのはオックスフォード大学ばかりですが、実はローマから30分ほどしか離れていないポメツィアのワクチン研究所が、その開発に携わっていることは明記しておかねばなりますまい。

現在、世界中のラボでCovid-19のワクチン開発が進められ、件のビル・ゲイツは時間を短縮するために7つのワクチン開発チームに資金を支援するという大盤振る舞いで、ドイツ、米国、中国などの研究所や、各製薬会社のワクチン開発合戦となっています。最近では、そのビル・ゲイツが、このオックスフォードーローマの研究に効果を見出せるなら出資したい、と言っているそうです。

一般的には、臨床実験や各国の薬事法の兼ね合いで、今年中に完成することはありえないとされ、1年から1年半、長ければ7年、いや10年(えー!)かかるかもしれない、という説まで飛び交っている。ところが復活祭の翌日(パスクエッタ)の4月14日、イタリアの主要各紙は「もうすぐワクチンができる!それもポメツィアで」という、楽観的で確信に満ちた記事を掲載しました。

というのも、ラツィオ州のポメツィア市にある研究所Irbmが、オックスフォード大学のJenner インスティチュートと共同で「Covid-19ワクチン」を開発し、4月後半に英国で臨床実験の実施をはじめたからです。日本の新聞やネットメディアでも報道されていましたが、すでに24日から、18~55歳までの510人に実験を開始しているそうです。以下、イル・ファット・クオティディアーノ紙、ANSAの記事を参考にしました。

Irbmによると、うまくいけば9月の後半に効果が実証され、今年中には「医療関係者や警察、軍隊など感染リスクのある人々に使用するために」充分な用意(100万件)ができるはずだと言います。「現在の局面でこのタイプのワクチンが、すでに80%完成しているということは、非常に勇気づけられることだ」と言及し、このワクチンがかなりの確率で効果があるだろう、とJennerインスティチュートのワクチン研究者、サラ・ギルバート(タイムス紙)も予測しているそうです。

*オックスフォード大学 ワクチン学者サラ・ギルバート。日本語はBBC日本語版サイトへ。

ただ、完成したのちに、世界の製薬工場で製造したとしても、1年に製造可能な数は2億件ほどしかないため、ただちに一般の市民が接種できるわけではなく、世界76億人に行き渡るためには何年もかかる、ということになります。

しかし感染が拡大しそうな地域の、最もリスクのある医療従事者や高齢者の方、持病がある方を中心に接種できるよう、うまくプログラムできれば、無症状の罹患者が野放図な状態にあったとしても、しばらくの期間は感染拡大を食い止めることができるかもしれません。

なによりこのワクチンの開発が、オックスフォード大のサラ・ギルバート、ポメツィアのステファニア・ディ・マルコというふたりの女性研究者によって進められていることは特筆すべきことです。さらに、オックスフォード大サイドを含め、ジャコモ・ゴリーニ、アリアンナ・マリーニ、フェデリカ・カプッチーニという3人のイタリア人研究者がチームを加わっています。

「ワクチンが開発されるのは、2021年のはじめ頃ではないか、と他のエキスパートたちは言っているのに、どうしてそんなにドラスティックに時間を短縮できるのか」と4月13日のラ・レプッブリカ紙が、Irbmの責任者にインタビューしています。

その問いに、「英国では、6月から7月が感染のピークと見られているので、その後実験することで、感染が拡大した時期と比較するために、できるだけ早くワクチンを開発してほしいと管理機関から通達を受けたのです。というのもアデノウイルスを基盤とした僕らのワクチンのプラットフォームはすでに認定されていて、エボラMersにも使われた経緯があるからです」と、マネージャーは答えていました。

現在、アメリカのMederna e Inovio、中国のCanSinoでも臨床実験が開始され、イスラエル、ピッツバーグ大学ではイタリア人のアンドレア・ガムボットが安価な、貼るタイプのワクチンを研究しているそうです。

ひょっとするとワクチンの開発に10年、などという不穏な情報が飛び交うなか、過度の期待は失望の母ですが、膨らむ期待を自己抑制しながら、そこそこに希望を寄せたいと思っているところです。

難民の人々のこと

Covid-19が世界中を席巻する現在、ロックダウン時代を生きるわれわれには、世の中の機能がすべて停止されたように感じます。しかし紛争が続いている国々、たとえばシリア、リビア、イエメンが紛争を停止しているわけではなく、新型コロナに影響されることなく、変わらず熾烈な争いが繰り広げられています。

今年に入ってからというもの、世界がCovid-19一色になり、各国が封鎖されたこともあってなかなか情報が入ってこなくなり、ことによると紛争国の状況は悪化しているのかもしれない。 

そんな状況が続く4月12日。粗末なゴムボートに無理やり詰め込まれ、Covid-19で病んだ欧州に向かって、リビアの港を出発させられた難民の人々が遭難。多くの方が亡くなった、というニュースが、難民支援NGO『シー・ウォッチ』から報告されました。前日から4隻のゴムボートに乗せられた約250人の人々がトリポリとマルタの海上を漂流するうちに1隻が転覆し、連絡が取れなくなったそうです。

これらのボートはリビアの沿岸警備隊と結託した人身売買マフィアがオーガナイズするボートで、難民の人々はこの船に乗せられるまで、想像を絶する過酷な日々を強いられています。リビアの劣悪な環境の強制収容所で人質にされ、故郷の家族からお金を巻き上げるために酷い拷問を受け続け、それでもお金が得られないとなると、無慈悲に殺害される人々もいます。

そしてようやく解放された難民の人々は、いつ転覆してもおかしくない粗末なゴムボートに乗せられ、地中海へと放り出されるのです。リビアの強制収容所は、現代のアウシュビッツとも形容される深刻な犯罪であり、その状況に世界が沈黙していることは異常なことです。

今回、遭難した彼らを救助した「シー・ウォッチ」は、「Covid-19で頭がいっぱいで、この状況に連帯感を失っている欧州に、いますぐ難民の人々の救済に取り組むようアラームを送り続けている。地中海で遭難にあった人々は、即刻救助される権利(SAR条約)があることを明確にすべきだ」と欧州を糾弾しています。

*マテオ・サルヴィーニが内務大臣時代、地中海で遭難しそうな難民の人々を救助し、イタリアに着港した途端に逮捕(!)され、結局勝訴した「シー・ウオッチ」の船長、カロラ・ラケーテも「沈みそうなボートを今すぐ救助すべき。恥を知れ、ヨーロッパ」と欧州を糾弾しました。

イタリア政府は「シー・ウオッチ」の糾弾に「早急の欧州の介入を求める」と即刻賛同。また、パレルモの市長、さらにはマテオ・レンツィも賛意を示しました。かくして「シー・ウオッチ」が救助した101人の難民の人々は、シチリアのラグーサに無事着港。地元のホットスポットで身元の調査や健康チェックが行われています。

また、今後イタリアの港にたどり着いた難民の人々は、沿岸警備隊の指導で別の船に14日間、隔離した状態で過ごしてもらうことで、ウイルス対策とするそうです。長く苦しい時間を生き抜いて、やっとたどり着いた欧州にも関わらず、いまだ終わることがないウイルス禍の最中です。右も左もわからないまま訪れた難民の人々を、欧州はしっかり守ってほしいと願います。

なお現在、マテオ・サルヴィーニが内務大臣時代に制定したサルヴィーニ法と呼ばれる『国家安全保障』で、難民の人々の『人道的ヴィザ』を含める滞在許可証の申請の可能性を根こそぎ剥奪したせいもあり、合法的にイタリアに滞在できない人々が61万人存在します。現在、政府はそのうち20万人を、緊急に合法化する法案の作成を進めているそうです。

その理由としては、まずウイルス感染から難民の人々を保護し、衛生上の管理を徹底するために、さらには季節労働者がイタリアの封鎖で訪れることができなくなり人手不足となった農業で、合法的に働いてもらえるようにするためだそうです。

欧州各国で、長期のロックダウンによる季節労働者の不足による食料流通の危機が叫ばれるなか、イタリア政府が難民の人々に人手不足の分野の仕事を手伝ってもらおうと、彼らの合法化に踏み切ろうとしていることは朗報でした。

ただ前述したように、現在イタリアには61万人、不法滞在とみなされる外国人が生活しているので、難民の人々の合法化問題が解決するわけではありませんが、第一弾としては、まずまずの対応です。

合法化された外国人は、身分証明書、滞在許可証、医療カードが配布され(税金ナンバーもですが)、万が一病気になった場合にも、何の問題もなく公共医療機関で治療が受けられるようになります。

なお、現在収入を得られず、困窮した状況にある人々に、政府の拠出金が分配され、イタリア各市が食糧の配布をクーポンで行っていますが、ローマ市は住民票がない人には給付資格を認めていなかったため、路上生活をする人々や難民の人々、滞在許可証が無効となった人には、行き届いていませんでした。

それを不服とし、司法に訴えた外国人家族に、裁判官は「人間が生きる上での最小限の権利」を認め、今後、すべての希望者に食糧の配布を義務づけられることになったことも朗報でした。

Covid-19の急襲のせいで、こうしてイタリアの社会は、少しづつではあってもBuild Back Betterへ向かおうとしているように思えます。

再びの自由を得るまでは、まだしばらくの辛抱が必要ですが、たまにはImagineを口ずさみながら希望を胸に、イタリア第2フェーズを乗り越えていきたい所存です。

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