アートと人が躍動し、増殖する”マイエウティカ” ローマ市営美術館:MACRO ASILO

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MACRO ASILO GUIDE (マクロ・アジーロ・体験ガイド)

MACRO ASILOのそれぞれに役割のあるスペースにはフロンティアがなく、自由自在に動き回ることができる。また、イベントが行われていないスペースでは、読書をしたり、勉強したり、友人となごやかに談笑する人々も多い。

では、実際、美術館スペースがどのようになっているのか、というと、美術館には、エントランスであるVia Nizzaと裏口であるVia Reggio Emilia と入り口がふたつあり、また、建物そのものが複雑な造りなので、最初はどの方向に行くべきか迷うかもしれません。しかも壁だと思っていたところに扉があったりして、入ってもいいのかな? と中を覗き込むと、大勢の人が討論、あるいは講義が開かれていたりします。

結論から言うと、どの入り口から入っても、館内すべてのスペースに通じていて、例えばイベントの準備中であるなどの注意書きがない限り、どの扉からどの部屋へ移動しても問題はありません。たとえば議論している人々に、何の議論をしているのかを小声で尋ねると、椅子を勧められたりもする。そのスペースで少し議論を覗かせていただいたところで、他の部屋へ移動すると、アーティストたちが作品を前に討論している、という具合です。エントランスのマキシプロジェクターでは、毎日日替わりでビデオアートがループで放映され、椅子に座って鑑賞することもできます。また、エントランスは日によって、パフォーマンスやコンサート、インスタレーションの会場ともなる多目的スペース。土曜には多彩な音楽のライブが開かれ、毎週大変な熱気です。

ALEX BRAGAとコラボレーションしたのは、SNSでよく見かける、ちょっと不気味なCGを創る、Instagramで61万人のフォロワーを持つEXREAWEG 。1週間の実験的インプロビゼーションがBlack Roomで行われたあと、締めくくられた土曜のライブは大変な人気で、人、人、人をかき分けて観る/聴く、という具合だった。

Sala della quadreria (収集絵画の大広間)

エントランスから入ってすぐの大広間には、MACROが美術館としてそもそも持っていた、今まで大切に収納されたままになっていたコレクションを、巨大な壁面に一堂に常設。市民の公共財産でもある美術館のコレクションを、訪れる人々がいつでも観ることができるようになっています。この項のタイトル写真に使ったのは、その大広間の写真。コレクションを注意深く観ているうちに、このサイトで以前インタビューさせていただいたサルヴァトーレ・プルヴィレンティの絵も見つけました。その絵画群の前には巨匠ミケランジェロ・ピストレッティがこの広間のために創作した、鏡をはめ込んだ『テーブルの中のテーブル』が置かれ、イベントが行われる際は、その幾重にも円が重なったテーブルの周りをぐるりと椅子が囲んでいることもある。このサロンでフォーラムや会議、ミーティングなども開催されるそうです。そういえば、オートクチュールのショーが開催されたこともありました。

タイトルの写真はこの大広間の写真ですが、そこに置かれているミケランジェロ・ピストレットの作品、『テーブルの中のテーブル』には一堂に並ぶコレクションが映り込み多元的。

Ambiente アンビエント#1~#2

アンビエントと名付けられた広いスペースでは、招かれたアーティストが1ヶ月をかけて、そのスペースで作品を創作しながら、同時に作品のコンセプトに関するカンファレンスやパフォーマンスをほぼ毎日繰り広げます。わたしが何回か参加したのは、パオラ・ロモリ・ヴェントゥーリの「Rovesciare(ひっくり返す)」という哲学的でもあるプロジェクトでしたが、これは戦後、イタリアに物資が乏しかった時代、「着古した男性のスーツを解き裏返して、痛んでいない裏側の生地を使って女性の洋服として縫い直した」というエピソードを基に、表地から裏地、男性から女性、と現実をひっくり返していくというプロジェクトでした。世界地図のフロンティアをも、生地を縫い込みながら「ひっくり返し」、「裸の王様」の寓話を「ひっくり返す」ことで再生。「ひっくり返す」ことは、そもそもクリエイティブで、新しい視点で物事を再生させる、ダイナミックなアクションだ、というコンセプトでラボが構成されています。

スペースでは、プロのテーラーである女性が時間をかけて、男性の軍服を解き、パターンを変えて女性のスーツに仕立てる中、ファッション批評家の講義やミーティング、ジャズのインプロヴィゼーション、ワークショップなど数々のイベントが開かれ、子供たちも参加しました。

行くたびに新しいRovesciare(ひっくり返す)に出会う、ロモリ・ヴァントゥーリのアンビエント#2。

Atelier アトリエ #1~#4

MACRO ASILOで、最もエネルギッシュで、ダイナミックな動きがあるスペースが、まったく同じ広さ、同じ造りになった4つのガラス張りのアトリエ。ここでは毎週4組のアーティストが、火曜から日曜までの6日間、実際に作品を創作するライブに立ち会うことができます。もちろん、アーティストにもよりますが、たいていはアトリエの中に招き入れてくれ、作品の創作プロセスやコンセプトの詳細を話してくれる。創作というのは集中を要する仕事なので、観客がいるとやりにくいのではないのか、とも考えましたが、意外と外界の干渉に邪魔されることなく、アーティストたちは淡々と作業に集中し、手が開いた時に、やはり淡々と話してくれるという感じです。

また、アーティストと実際に会って、言葉を交わしながら作品を鑑賞することで、観ている作品の別の側面も浮き上がり、理解が深まると同時に違う疑問も湧いてくる。単純に作品を観るだけで、その世界観が広がることもありますが、その背景を知ることでアーティストにも作品にも親しみが湧き、アートそのものがもっと身近に感じられるかもしれません。いずれにしても、創作の現場というのは道具が散らばったり、布が丸めてあったりと、とにかく面白い。前々から実際の作品を観てみたいと思ったアーティストと話すこともでき、創作期間が1週間と、比較的循環が早いアトリエを何度も訪ねるうちに、多くの作品とアーティストとの出会いから、「これは面白い!」と感動する瞬間があります。

※1月のアトリエを、わたしもいくつか訪ねましたが、MAAMにも作品があるヴェロニカ・モンタニーノの作品の細部の緻密さと、遠くから見たときと近くで見たときの印象が大きく異なるのに興奮しました。また、本物の兎の毛皮(イタリアでは兎を食肉にするので、そのあとに残った耳や尻尾)と植物をアレンジするキアラ・レッカの作品は、自然に隠れたじわっとした恐ろしさを垣間見たような奇妙な感覚で、それが体感として強く印象に残っています。

Auditorium (ホール)

この美術館の中で、最も目立つデザインの真っ赤なホールでは、映画の放映やカンファレンス、会議、あるいはアーティストたちのAutoritratto( 自画像)と名付けられたプレゼンテーションが開催されています。席は区切りがなくゆったりしていますが、人気のあるプログラムだと早めに行かないと立ち見になるか、中にも入れない、という状況にもなる。2月のプログラムでは、Reaction Romaが主催した刑務所での受刑者が、写真とともに想いを語る、サイコドラマのようなドキュメンタリーを観ましたが、その時も満員でズラッと立ち見が並ぶという盛況でした。このホールの天井の上は周りに座る場所がある真っ赤な広場になっていて、普段は子供たちが走り回って遊んでいるのに遭遇したりします。

Auditoriumの内部はエナメルのように輝く赤で統一され、会場に熱気が溢れるとともに、エネルギーが倍増される。

oyer(美術館広場)

天井がガラス張りのシャープなデザインの広場では、インスタレーションやダンス、パフォーマンスのプログラムが行われます。広場でプログラムがない天気のいい日は、人々が行き交い、椅子に座って談笑したり、本を読んだり、となごやかな風景。この広場があるせいで、美術館全体が明るく開放的で、風通しのよい印象です。さらに階段を上がっていくと、広々としたテラスがあり、ガラス張りの天井から館内が一望できます。

美術館広場のガラスのインスタレーションは、その場で制作され壮観な風景となった。

Area Incontri(ミーティングスペース

ここでは毎朝、ヨガ、太極拳、気功などのレッスンが行われますが、アーティストも観客も誰でも参加でき、ここから美術館の1日がはじまる、というスペースです。

そのほか、Laboratorio(ラボ:学生や観客のためのワークショップスペース)、Sala Lettura( 朗読ルーム:新刊のプレゼンテーションや本の朗読が開催されるスペース)、Progect room(1週間から2週間、パフォーマンスなどがプロジェクトされる部屋)、Stanza delle Parole(言葉の部屋:『現代』という言葉の定義に捧げられたスペースでは、セミナー、討論会が開かれる)Sala Rome (ローマの部屋:ローマの地図が巨大なテーブルとなったスペースでは、ローマの街に関する討論が開催される。ローマのさまざまな側面が討論されるため、通常はRomaと単数で表現されますが、ここではRomeと複数となっています)、Media Room(Webラジオセットが置かれている)など、多種多様なスペースでMACRO ASILOは構成されている。また、隅々まで充実したアートブックショップでは、MACRO ASILOのノートや鉛筆などのグッズ、MAAM関連の本など、ここでしか手に入らない本も置かれています。もちろん、かなりお洒落なカフェやレストランも完備。

ローマにいらっしゃる際は、ぜひ覗いていただきたい、他に類を見ないコンセプトを持つ、『公共』スペースです。


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