瞬く間にイタリア中に押し寄せた、アンチサルヴィーニの魚たち『6000サルディーネ』

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レイシズムをプロパガンダツールとする極右勢力

米国でも、ドイツでも、どこの国でも同じ傾向が見られますが、極右グループが得意とする異人種攻撃は、ここイタリアでも大きな社会問題となっています。特にここ数年は、難民の人々への攻撃に留まらず、アンチセミティズム=反ユダヤ主義が表面化している。

たとえば、かつてアウシュビッツに連行されたユダヤの人々の家の前の石畳に埋め込まれたPietre d’inciampo (名前を彫り込んだメモリアル金属プレート)が掘り起こされ、持ち去られるという事件がたびたび起こるようになっています。

そのなかでも最近、特に重大な人権問題に発展したのは、アウシュビッツの強制収容所から生還を果たした社会活動家、リリアーナ・セグレ上院終身議員のSNSのアカウントに、毎日200以上の差別的誹謗中傷、脅迫のコメントが集中的に送り続けられる、という脅迫事件でした。もちろん、送り主はすべてアノニマスという卑劣さです。

今年89歳になられたセグレ上院議員は、われわれが決して忘れてはいけない、想像を絶する困難な時代を生き抜き、その記憶を次の世代に語り継ぐ重要な歴史の証人です。その彼女が突然、生命の危険を感じるほどの反ユダヤ主義攻撃に晒され、各種メディアが「ゆゆしき事態」として、一斉に大問題として報道したのちも、収まるどころかエスカレートの一途をたどったため、ただちに国がセグレ上院議員に護衛をつけるという事態に発展した。

その直後には上院で、セグレ終身議員ご本人の発議による『不寛容、人種差別、反ユダヤ主義、憎悪と暴力を扇動するという現象と闘う特別委員会』の設置を可決しましたが、極右勢力である『同盟』イタリアの同朋はともかく、中道右派であるはずの『フォルツァ・イタリア』までが投票を放棄し、「人種法を忘れたのか」と大きな非難が湧き起こりました。現在、支持率では過半数を維持したままの野党、『右派連合』がまるごと、反ユダヤ主義に同調するという禍々しい事実が、こうして明らかになったわけです。

さらに、セグレ終身議員を名誉市民に迎えようとした北イタリアのビエラ市では、『同盟』と『イタリアの同朋』が強硬に反対し、実現不可能となった経緯もありました。そのビエラ市が、今度は強制収容所から生還した父親を持つテレビ司会者エツィオ・グレッジョに名誉市民に迎えようと打診したところ、「セグレ終身議員へのリスペクト」として、名誉市民の申し出をグレッジョからきっぱりと拒絶されてしまう、という結果に終わっています。

ちなみにちょうど50年前、その後の15年(20年説もあります)のイタリアをテロの恐怖に突き落とし、『鉛の時代』の幕を開いた『フォンターナ広場爆破事件』の犯人のひとりと目される(確実に『犯人』であるにも関わらず、長期の裁判で証拠不十分で無罪となっているため)、ナチスと毛沢東に傾倒するマオ(ネオ)ファシストのフランコ・フレーダも、優生思想を振り回す徹底した反ユダヤ主義者でした。

なお、最近急に支持を伸ばしている『イタリアの同朋』は、『鉛の時代』のネオ・ファシストのスピリットを正当に汲む政党だと言われています。そして、それはわたしが勝手に想像して言っているわけではなく、『イタリアの同朋』を無報酬でサポートしているらしい、件のスティーブ・バノンが「『イタリアの同朋』は伝統的なファシスト政党のひとつだよ。そう、ネオファシスト」と断言している音声ファイルを、前出のイタリア国営放送Raiの報道番組『レポート』が紹介しているのです。

「イタリアの憲法では、どのような形態であってもファシスト思想を持つ政党の結党を禁じていることをバノンは知っておくべき」というのが、『レポート』主幹ジャーナリスト、シグフリード・ラヌッチの、そのときのコメントでした。

放送後、党首のジョルジャ・メローニが「バノンとは会ったことがあるが、深い関係にはない」と否定したにも関わらず、バノン自ら「選挙に勝つために、これからビッグデータや世論調査を徹底的にリサーチして『イタリアの同朋』を全力でサポートする」、と『イタリアの同朋』の政治集会で陽気に話しているシーンが放映され、メローニの発言とは矛盾しながら、われわれ視聴者の脳裏にバノンの演説シーンが刻み込まれた次第です。

また『レポート』は、ストゥディオ・ディ・パヴィア大学教授の、非常に興味深い分析をも紹介。『同盟』のサルヴィーニと『イタリアの同朋』のメローニのSNSアカウントのフォロワーが、50万件もの(特に難民の人々に関する)フェイクニュースを、ただひたすら拡散していることが明らかになりました。それはたとえば、ひとりのフォロワーが4つのアカウントからBot機能を使って自動的にフェイクを拡散する、というシステムで、しかもプロの分析によると、メローニはフォロワーを購入しているという疑いもあるそうです。

何か仕掛けがあるんだろう、とは思っていましたが、やはりサルヴィーニとメローニのSNSアカウントの膨大なフォロワーの背後には、がっつりマーケティングしてターゲットを絞り、ネット上での人々の感情の動きをつぶさに分析して集中的に攻める、ヴァイラル・ストラテジーがあるのです。そしてヴァイラルとなったフェイクニュースこそが政治プロパガンダとして機能しているというわけです。

いずれにしても、パヴィア大学の教授が、「嘘も大量に拡散し、人々の間で共有されると、非現実的な内容なこともリアルに感じられるようになる」と言ったナチスのプロパガンダ大臣ゲッペルスの言葉を引用していたことが何より印象に残りました。

一方、『イタリアの同朋』党首メローニは、「わたしたちを、バノンが手助けする国際国粋主義のオカルト集団、まるで怪物のように扱い、そもそも存在しないヴァーチャルシステムを、あたかも存在するように構築してみせる『レポート』は信用できない番組。ゴミ・ジャーナリズムにしかすぎない」と反論しましたが、『レポート』は彼女の反論を、映像、音声、プロの分析による証拠でひとつひとつ捻りつぶし、異論があるならば裁判所へ届ければいい、と呼びかけました。その後メローニは、シーンと静まり返っています。

 

手段を選ばぬ工作で、支持率をじわじわ伸ばし続ける『同盟』『イタリアの同朋』にNOをつけつけるために、ジェノバで開かれた『6000サルディーネ』には12000人が集まりました。

 

そういうわけで、ジャーナリズムからあれこれと不都合な真実を暴かれながらも、『同盟』、『イタリアの同朋』は、2020年の1月26日に予定されているエミリア・ロマーニャ州カラブリア州から、ぞくぞくと続くイタリア各地方選挙のために、地方をくまなく巡る遊説と、フェイクニュースを含める攻撃的、暴力的な選挙キャンペーンを、何事もなかったかのように繰り広げています。それに伴って、ようやく落ち着きを取り戻しそうだった社会も、なんとなく物騒な空気が流れはじめたということです。

そのせいかどうかは定かではありませんが、ローマにおいては、かつて何者かに放火され全焼した、イースト・ゾーンにあるARCI(アンチファシズムを基盤にした文化・社会活動をするクラブ)のブックカフェが、ようやく新装開店にこぎつけた前日、再び放火されて騒然となるという事件が起こっています。ただちにSNSで召集がかかり、その地区に入れなくなるほどたくさんの人々が集まっての大きな抗議集会が開かれましたが、ブックカフェの青年たちに団結を示した、その地区のオステリア、そしてピッツェリアが次々と放火され、いまだに犯人は捕まっていません。

そんな、うす暗い空気が流れはじめた時に、突如として『6000サルディーニ』が現れたのです。そして、あれよあれよという間に、そのピチピチ跳ねる大勢のいわしたちが、イタリア中の広場を席巻しはじめたわけです。

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