夜明けを待ちわびるイタリアの暗く、長い新型コロナの夜:We Shall Overcome

Deep Roma Eccetera Società

EUは、欧州各国の市民と経済を守れるのか

市民の不安とストレスを最小限に抑えるため、イタリアでは今まで少しづつ段階を経て厳格になったロックダウンの前には、必ずと言っていいほど、市民の生活支援、そして中小の企業、商店、自営業への具体的な補償政策が、首相及び経済金融大臣から発表されています。

つい最近では3月25、26日に、議員の数を大幅に絞って久しぶりに開かれた下院、上院議会で、すでに拠出が決定していた250億ユーロに、さらに250億ユーロを上乗せ。500億ユーロを緊急拠出することがコンテ首相から発表され、市民の生活、生産活動が停止している中小企業、商店で働く人々を、政府が全力で支援することを明らかにしました。

*追記:4月6日夜には、すでに大・中・小企業への支援として提示されていた3500億ユーロに、4000億ユーロが追加されることになりました。

*今日の行政規定で、#CuraItalia(イタリアケア)として、すでに準備していた大・中・小企業への支援のための3500億ユーロに4000億ユーロを追加しました。これはGDPのほぼ半分にあたる7500億ユーロです。国は存在します。そしてそのパワーで経済動力に火を投じる。イタリアは立ち上がった時、すぐに走り出します。

 

イタリアでは封鎖中、市民の生活を守るためにCassa integrazione(休業中の生活保障としてサラリーの70%~80%を支給)を2人以上の企業すべての社員に適用。600ユーロを一時金とする自営業、フリーランス、アーティストたちへの支援は4月1日からはじまっています(1日にはINPSの受付サイトに30万アクセスあってサーバーダウンしてしまいましたが)。さらに政府はイタリア人、外国人を問わず、失業者、正式契約がないアルバイトの人々に30億ユーロを分配する『エマージェンシー・インカム』をも提案しています。

また、企業、個人の税金、住宅ローンをはじめとする各種ローンの支払いの延期、光熱費の免除など、市民のさまざまな負担への援助はすでに決定されていました。米国のように1200ドルが一律配られるということはありませんが、イタリアは医療費が無料ですし、ドイツ、英国に比べて多少見劣りはしても、補償にはかなり力を入れている、という印象です。

そもそもイタリアは、欧州各国の中でも赤字国債を多く抱えた、永遠の問題児として扱われ、医療・福祉のみならず、教育、研究、文化部門の公共予算を大幅削減することを欧州連合から無理強いされてきた経緯があります。しかし欧州連合委員会は、この歴史的な緊急事態に迅速に対応するため、それぞれの国の国債スプレッド(ドイツを基準とした)の状況に見合ったバランスの緊縮財政を要求するPatto di stabilitàを事実上解除している。

したがって、欧州全域がロックダウンに陥って、もはや国債スプレッドが上がっても下がっても、イタリア経済にはほとんど影響しなくなったため、イタリアが打って出た、というところでしょうか。

しかしながら、このイタリアの500億拠出を支えることになるであろう、欧州各国首脳会議で調整中の「ユーロボンド/コロナボンド」を巡っては、すでに欧州中央銀行が7500億ユーロの流動性を維持しながら各国の国債を買い支える旨を明言しているにも関わらず、各国間で反発が起こり決裂しています。

先頃開かれた欧州各国間会議では、あのコンテ首相が「欧州各国が支援してくれないなら、われわれだけでやるから、上等だ!」と啖呵まで切ったそうです。いつも論理的で柔らかな物腰。どちらかといえばソフトイメージが強かった首相が、「まさか啖呵を切るとは」と驚きましたが、それほど事態は差し迫っているということです。

 

*欧州連合は歴史との約束がある。そして歴史は待ってくれないのだ。高いレベルに達しなければならない。コロナウイルス緊急時における行動は強く、活気に満ち、結集力がなければならない。わたしはイタリア市民のために、最後の一滴の汗を振り絞るまで闘う。

ユーロボンド」については、欧州各国政府とさらに協議を重ね、4月上旬を期限に決定するそうですが、欧州各国としても欧州連合で経済規模第3位のイタリアが、よもや離脱をほのめかす、ということにでもなれば、ウイルス被害と経済崩壊、ダブルパンチの天変地異となるため、結果的には各国がイタリアの意向を受け入れざるをえないのではないか、と予測したいところです。さもなくば、常に揉めてばかりいた欧州は、ついに分裂してしまうことになりかねません。

*追記:欧州コロナ危機の救済策のため、4月9日に開かれた欧州首脳会談では、域内各国への5400億ユーロの支援、さらにフランス、イタリア、スペインがリクエストしていた医療支援、及び経済刺激策として5000億ユーロの支援(MES)が確認されました。MESーmeccanismo europeo di stabilità は2012年の欧州金融危機の際に創設されたシステムで、必要とする国々にクレジットとして融通、あるいは国債を購入。トロイカと呼ばれる財政監視委員会が借金を背負った国の財政を厳しく監視した、という経緯がありました。たとえば借金を返却するためにトロイカに極端な緊縮財政を強いられたギリシャで起こった暴動は記憶に新しいことと思います。今回は事情が事情であるし、ECBも事実上のノーリミットの国債購入を約束しているため条件は異なるのかもしれませんが、あくまでもMESは1国での借金となり、将来的に返済していかなければならないので、欧州各国共同責任となる「ユーロボンド/コロナボンド」とは大きく異なります。現在の時点で「ユーロボンド/コロナボンド」の決定は見送られましたが、イタリアは、今回の会議を第1ラウンドと見なし、MESは受け入れずに、あくまでもユーロボンドを意欲的に提案し続けるそうです。

さらに、この、なかなか気合の入ったイタリア発の欧州経済路線変更ストラテジーの伏線として考えられるのが、マリオ・ドラギ前欧州中央銀行総裁が3月26日、フィナンシャルタイムス紙に寄稿した記事でした。(以下、意訳、抜粋、参考:il Post 及びラ・レプッブリカ紙)

聖書的とも言える甚大な悲劇に直面しているわれわれの課題は、これから訪れる経済不況が長期にわたって泥沼になるのを防ぐために必要なことを、十分な力素早く行動することだ。また民間企業が被る損失、債務を、政府完全に、または部分的に吸収することでもある」と、前ドラギ総裁は主張。ドラギ前総裁は、恐れることなく国債をほぼ無制限に、勇気を持って迅速に発行せよ、と言っています。

「現在よりはるかに高いレベルの公的債務が、私たちの経済の恒久的な特徴となるべきで、それによって民間の債務を吸い上げていくというリアリティを受け入れなければならない」「現状は周期的なショック状態などという(生易しい)ものではない。今回のユーロの流動性の欠如と購買力の著しい低下は、人々の過失によるものではないのだ」

欧州各国が封鎖せねばならない状況が長引けば長引くほど、ウイルスによる経済損失が想像を遥かに絶する規模になることが予想されます。「今、国家がしなければならないことは、この衝撃には何ひとつ責任なく、乗り越えることができない民間部門と個人の生活を守るために、あらゆるリソースを活用するということ」「われわれ欧州各国すべてが同様に衝撃を受けることになるのだから、互いが互いを助け合う必要があることは明白だ」

「まず、欧州の市民職を失うようなことになることは阻止しなければならないし、(このままであれば)民間部門が生計を立てることは難しくなるだろう。それを防ぐためには、税金を延期するだけでは不十分だ。迅速に経済システムにおける流動性を確保し、銀行は無利子、担保なしで企業に融資。人々の仕事を保護する必要がある」

「ある意味で、欧州はこの異常なショックに直面する準備が整っている。それを必要とする経済のあらゆる部分に資金を供給することができる、きめ細かい財務構造を持ち、迅速な対応を調整できる強力な公共部門もある」とドラギ前総裁は断言しています。

実際、現在の欧州中央銀行総裁、クリスチャン・ラガルド総裁は、潜在的には無制限と言える国債購入計画を開始する準備をしています。

これがユーロ圏すべての国で共通の「ユーロボンド」という債務証券の発行につながるはずですが、前述したように、「イタリアはまず赤字、公的債務削減することが、他のユーロ圏加盟国の支援を受けるためには必要だ」と主張し、ドイツ、オランダ、フィンランドなどの北ヨーローパ諸国が反対。これらのお金持ちの国々が、世界に何が起こっているかをいまだ理解せず、悠長に杓子定規な主張を繰り返すのは困ったことです。

27日の夕刻、フランチェスコ教皇空っぽのサン・ピエトロ広場で犠牲者の方々、医療の現場にいる方々、今この時も市民のために働く人々に祈りを捧げ、ローマと世界を祝福しました。その直後、セルジォ・マッタレッラ大統領も同様に、医療の現場の方々や、市民社会が最小限機能するために、警察官、軍隊を含んで、非常事態下も働き続けていらっしゃるマーケットや運送業の人々に感謝を捧げるとともに、次のようなスピーチを発表しています。

「欧州中央銀行と欧州委員会は、最近、欧州議会の支援を受け、重要かつ前向きな経済決定を下しましたが、各国政府首脳会議はまだその決定を承認していません。近いうちにその首脳会議が開催されると思いますが、欧州が置かれている悲劇的な現実にはもはやそぐわない古い枠組みを離れ協力しあってイニシアティブをとることが不可欠であると考えます。手遅れになる前に、ヨーロッパにおける脅威の深刻さを誰もが十分に理解してくれることを願っています。団結は、ただ欧州連合から要求されるものではなく、共通の利益でもあるはずです」

誰ひとり、置き去りにしないために、わたしたちは全力で成し遂げなければなりません。そしてそのことがすべての共同体:与野党すべての政治の論題であり、社会の論題であり、域内政府すべての論題であることを熱望し続けています。そうあるためには社会の連帯と結束が必要不可欠です」

「最新の考慮事項として、経済困難に対して、迅速かつ効果的な方法で対処している間、わたしたちは緊急事態の後に訪れる状況を想定し、強い決意を持って、段階的にわたしたちの社会、経済を立て直す方法を、考えはじめる必要があります」

このスピーチは明らかに、イタリアの方向性とともにマリオ・ドラギBCE前総裁の提案を支持し、欧州各国に協力を呼びかける意図がありました。大統領スピーチを受け、フランスのマクロン大統領は即座にイタリアに寄り添う意志を明確にしています。

また、イタリア政府と欧州各国首脳の亀裂に「ユーロボンドは連帯をシンボライズするスローガンにすぎない」と言い放ったフォン・デア・ライエン欧州委員長(メルケル首相の片腕と言われる人物なので、ドイツに肩を持つのは自然です)とコンテ首相の間に、一時は葛藤がおきましたが、のちに委員長は「あらゆるオプションがある」ことを表明。「イタリアに謝りたい」と方向転換し、欧州連合によるマーシャル・プラン「Sure」を発表し、失業から人々を救う1000億ユーロの拠出を明らかにしたところです。

 

さらに、この状況に前後して『5つ星運動』の創設者であるベッペ・グリッロが自身のブログに「今こそ、ユニバーサル・インカムを実現すべきときだ」と投稿し、イタリア国内で大きな反響がありました。

ウイルスの災禍がいつまで続くのか、まったく先が見えず、経済活動がいつ再開されるかも定かではありませんが、そろそろイタリア、そして欧州では、この山を超えたあと待っている、企業の倒産、人々の失業など避けられないかもしれないポストコロナ経済にどう立ち向かっていくかが議論されはじめました。

加えて、ロックダウン後に市民が利用することになるであろう移動アプリについても議論され、すでにロンバルディア州の一部では利用されているようですが、この話題は後日。

買い物に行く途中のたくさんの窓からは「Andrà tutto beneーすべてうまく行くさ」という虹とハートが描かれた垂れ幕がかけられています。

今はまだ、完全には楽観的にはなれない状況でも、むしろこの絶体絶命のピンチが、世界の状況を良き方向へとシフトさせるための大チャンスになる可能性もゼロではないかも、と考えたいと思います。

 

▶︎以下、ISS、国家市民保護局によるプレスで発表されるデータを追記していきます。

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