ロシアより愛を込めて:イタリアン『ロシアゲート』の勃発で、いよいよホットな2019年夏

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BuzzFeedで公開された密談音声の内容とは

さて、本題のロシアゲート。米BuzzFeedで公開された密談が行われたのは去年の10月18日に遡ります。

2018年、10月16日からの数日間、マテオ・サルヴィーニ副首相及び内務大臣を核としたイタリア使節団が、ロシア経団連の招きでモスクワを訪れていますが、その一団のコーディネイトをしていたのが、カルチャー・アソシエーション『ロンバルディアーロシア』の局長である今回の主人公、ジャンルーカ・サヴォイーニという人物でした。

彼がどのような人物であるかは、分かる範囲で後述するとして、以下、BuzzFeed及びラ・レプッブリカ紙を参考に、公開された密談内容をざっくりまとめてみます。前述のようにホテル・メトロポールの密談にはイタリア人3人、ロシア人3人が参加していたそうです。

モスクワのホテル・メトロポール。革命以前に建造された、まさにロシア帝政時代を彷彿とするアール・ヌーボー様式のこのホテルは、ボルシェビキの要塞だった時代もあるそうです。レーニンからJFKまで、時代を象徴する人物たちが通りすぎた歴史的な5つ星ホテル。現在は一泊2000ユーロぐらいらしいですよ。

「現在、欧州の地政学が大きく変わろうとする重要な時期に差しかかっています。そして5月には欧州議会選挙も控えている。われわれは欧州を変えたいと思っているんです。ブリュッセルや米国のエリートたちの決定にゆだれられることなく、われわれが主権を取り戻し、昔のようにロシアに寄り添う新しい欧州であるべきだと思っています。われわれが主権を握って子供たちのこと、未来のことを決定したい。サルヴィーニは、われわれと連帯する政党、仲間たちとともにヨーロッパを変えたいと考える最初の男です。オーストリアのFPOe、ドイツのための選択肢、フランスのル・ペン、ハンガリーのオルバン、スウェーデン民主党。連帯している仲間がいる。われわれは親ロシアの大連帯を形成したいんです」

サヴォイーニは会談の冒頭で、「欧州を変える男」マテオ・サルヴィーニを核とする『同盟』の野心を、英語で熱弁しています。そもそも『同盟』は以前から、クリミア半島への侵攻に伴って決定された米国、欧州によるロシアへの制裁を解くことを盛んに主張していました。

しかしながら5月の欧州戦結果はといえば、『同盟』がイタリア国内で大勝したとはいえ、従来通りの欧州主義を背景に持つ欧州議会が誕生。サヴォイーニが主張した、『同盟』と連帯する欧州各国の国粋主義政党の思惑通りの結果にはなっていません。だいたいイタリア・ファーストという国粋主義、愛国主義を謳い、欧州、米国には従属したくないと言いつつ、ロシアならOK、というのは大きな矛盾ではあります。

さて、具体的にこの密談で語られたのは、ロシアのエネルギー会社Rosneftからイタリアのエネルギー会社ENIへ、半年から1年をかけて、ディーゼル300万トンを売却する商談でした。

このビジネスで、ロシア側は取引額の4%となる6500万ドルを値引き。その値引きされた金額が『同盟』へと献金されるというからくりで、そのオペレーションのために欧州の銀行、ロシアの会社が介入するなど、テクニカルで複雑な構造にも言及されています。

※BuzzFeed NewsはYoutubeに密談ファイルのごく一部を公開しています。

そして、その6500万ドルが『同盟』の5月の欧州議会選挙キャンペーンの資金となった、と推測されるわけですが、「ロシアはやっぱりしっかりしている!」と思ったのは、最大値引き額は厳格に6%に固定、イタリアの取り分4%を超えた値引きが行われた場合は、必ずロシア側に返却することを、イタリア側に約束させていることでした。ロシアはイタリアが陥る可能性のある「なあなあ勘定」に、はじめからきっちり釘を刺しているわけです

実際、このところの『同盟』がお金に困っている様子を見せないのは、不思議ではありました。というのも去年、いったい何に使ったのか、4900万ユーロもの使途不明金が発覚し(その額がここにきて、1800万ユーロまで減額されていますが)、返却を命じられ、80年ローン(利子なし!)で返すという約束を取り付けています。したがって、『同盟』の資金繰りはかなり厳しいはずでした。

にも関わらず、今回『同盟』が繰り広げた欧州議会選挙戦の、見事に計算され尽くされたプロフェッショナルなSNSプロパガンダを含む、イタリア全国を股にかけた大がかりなキャンペーンには誰もが首を傾げていて、お金の出どころについて「やっぱりレスプレッソ誌が報道した通りの事実が背景にあるんだろうか」などという会話が周辺で交わされていたことも事実です。それが今頃になってお金の出どころを裏づける音声が出現し、ホッとする反面、イタリア最古参政党『同盟』の古色蒼然とした「いかにも」な体質が明らかになり、うんざりもしています。

いずれにしても、巨額のお金の交渉であるホテル・メトロポールの密談はー少なくともイタリア側の参加者たちはー近所のバールでおじさんたちが話しているがごとき軽いトーンで進んでいます。ロシア側の弁護士を特使としてイタリアに呼ぶ計画に関して「彼なら、インターポール・リストに載っていないから、問題ありませんよ」「それに(イタリアでは)誰も彼のパスポートの名前など確認しないってこともありますからね。OK」と、ちょっとした冗談まで交える余裕と仲間意識を垣間見せている。

「欧州の現状において、われわれの存在(同盟)は大きく変わっているんです。そしてそれを誰も止めることはできない。歴史は動いている。真のニューディール、そして新しい未来へのプロセスの核にわれわれ(同盟)がいるのです。しかしながら、多くの敵がいることは事実で、危険も多く存在する。イタリア政府はブリュッセル、(トランプではなく)オバマ政権のエスタブリッシュメントたち、グローバリストたちから攻撃され、そのうえ国内での攻撃にも晒されています」

さらに「もし、いまだにロシアにグラグ(旧ソ連矯正労働収容所)があるなら、イタリアから送り込みたいですよ。冗談ですけどね。でも本当にグラグがあるなら、大勢のイタリア人を送り込みます」と言うイタリア人に、ロシア人が「リハビリで?」と聞くと、「そう、精神のね」と、近代民主主義国家にあるまじき発言までしている。

密談の最後にロシア人のひとりは「サルヴィーニはさしずめ『欧州のトランプ』だね。ルペン、AfD、フィン人党、と欧州のすべての極右をまとめる頂点にいる」と改めて欧州におけるサルヴィーニの存在を強調、共感を示していました。

▶︎マテオ・サルヴィーニ副首相及び内務大臣の反応

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