テアトロ・ヴァッレ 役者Mario Migliucci

Cultura Deep Roma Occupazione Teatro

占拠ちゅうのヴァッレでも、アーティストとしてプロジェクトに参加していたんですよね。

もちろん。ヴァッレのプロジェクトのひとつに『RABBIA(怒り)』という実験作品のシリーズがあるのだけれど、僕はそこで脚本家のひとりとして参加していたんだ。このプロジェクトは俳優と脚本家が集まって、脚本家が書いたテキストを俳優たちがその場で演じていくというものでね。役者による実際の演技を見ながら、脚本家はテキストを書き進めていく。つまりテキストを書きながら、そのテキストがどのようにリアライズされるのかを、その場で観て、それを基盤にして次の展開を決めていくことができるんだ。俳優たちは即興でそのテキストに対応、テキストも演技からインスパイアされ、相互に確認し合いながら作品が形成されていくというわけ。複数のチャプターから成立しているんだけれど、僕はそのなかで『renitente (非従属)』という部分を担当したんだ。

※テアトロ・ヴァッレ、実験作品のひとつ『RABBIA』の一場面から。

観客として、ヴァッレの試みをとても面白く思っていたので、強制退去を大変残念に思っています。

知っての通り、今僕たちは、なかなか難しいチャプターに差し掛かっているから。実際僕たちの作品を上演する機会を見つけるのも難しい状況でね。劇場の強制退去のあと、約束されていたローマ市との交渉ブロックされたままだし。ローマ市、ローマ劇場協会、そして僕たちのテアトロ・ヴァッレ財団がなんらかの形で協力することになっていたんだけれど、ローマ市ローマ劇場協会が僕らに示した提案は、すっかり失望してしまうような内容だった。

彼らは他のすべてのアソシエーションと同等な立場でコンペに参加してはどうか、と打診してきたんだが、僕らが築いてきた実績を無視して「ゼロ」からはじめてはどうか、などという提案は考えられないだろう? 彼らは僕らがヴァッレで培ってきた実績というものを、まったく認識していない。というか、したくないんだと思う。3年間、「公共財産を有志の自主管理によって、質の高い形で、市民に解放するという文化モデル」を、三者が協力して、さらに発展させることもできたはずなのにね。公共財産に関する議論は、僕らの「占拠」をきっかけに、さかんに行われてはいるが、まだ混乱した状態だと思うよ。

市民がボランティアのレベルで文化スペース構築営したいと考えても、結局のところその実権は行政握られているから、テリトリーの文化も、本来は市民のものであるはずの「公共財産」も、議論を経て市民が自由にマネージすることはできないのが現状だ。テアトロ・ヴァッレ財団の理想というのは、文化ーそれが演劇であっても、ほかの表現であっても、また、さらに言えばソーシャルな問題の解決の分野においても、市民が決定権を持つべきだ、というものなんだ。そしてそれこそが本来の民主主義ではないのかな。

僕はそもそも政治というものに、常に大きな興味を抱いて注意を払ってきたけれど、ヴァッレの経験から、というか常にヴァッレの近くで動いていた経験から、政治的な主張は「アクション」を通じて行なわなければならない、ということを思い知ったよ。議論したり、他人の議論をただ聞いたりするだけではだめ。自らなんらかの「アクション」を起こさなければ何も変わらない

いいかい? 君も僕らの占拠が終わったあとのテアトロ・ヴァッレがどうなっているか知っているだろう? ヴァッレのような大きな劇場を運営していくことは、大変な労力、経済力を必要とするのは理解するが、実際にヴァッレは修復されることもなく、閉鎖されたままじゃないか。僕らにはいったい何が起こっているのか、さっぱりわからない状況だ。ロビーでイベントが開催されたこともあるが、そのときも中に入るために予約しなくちゃならないような厳重な警戒で、僕らが占拠して、誰もが自由に出入りできていたときからはまったく考えられない閉鎖的な雰囲気なんだよ。こんな風にすべてがブロックされてしまったわけだけれど、今こそ新たなアクションが必要だと思うんだ。なんとかしないといけない。僕はそう考えている。

2014年の8月に「占拠」を退去させられたあと、メンバーからもさまざまな意見、反省もあって困難な時期を過ごしてきたけれど、それでも僕らは「占拠」が終わった今も、さまざまなプロジェクトを抱えながらここまで来たんだ。何よりテアトロ・ヴァッレ財団は健在で、今も次のアクションについてさまざまな議論が続けられている。Facebook、Twitterのフォロワーはいまだに増え続けていて、僕らの賛同者が多くいることは何より心強いことだね。このヴァーチャル・フォロワーと同じように、実際のアクションにも多くの賛同者を得ることができるといいと思っているところだよ。実際、「劇場」という物理的なスペースがないということは、僕らにはかなり堪えるけれどね。

僕らはこれほど実績を積んで、市民の賛同を得たにも関わらず、「違法」という理由で、劇場を追われたわけだけど、ローマ・カピターレからこっち、ローマ市が汚職にまみれていたことが暴露され、責任者や市の職員が続々と逮捕されているじゃないか。それも僕らを「違法だ」「違法だ」と糾弾していた輩が続々と逮捕されているんだよ。いずれにしてもローマ・カピターレのエピソードで、ローマ市の行政が病に侵されていたことは、市民に明らかにもなったよね。

公共財産、美術、建築、その他すべての文化のあり方に関して、ローマ市と、僕らの考え方は大きく違う。ローマの文化の豊かさは皆で分かち合うべきものだろう? 文化はビジネスの道具でもないし、マス・トゥーリズムのためのプロモーションツールでもない。歴史も文化も『売る』ための素材でしかない、という価値観を、僕らは受け入れられない。ローマは僕らすべての街なんだ。

Teatro valle occupatoに参加しようと思ったきっかけは何だったんですか?

はじめは単純な好奇心かな。「占拠」の初日からヴァッレに参加したんだけれど、劇場で寝起きをする、文字通りの「占拠者」ではなく、通いながら僕はヴァッレに関わっていた。占拠者グループーそれはローマの演劇、文化の分野で働く者たちで形成されたグループだがーその何人かのメンバーは、以前からよく知っていたから、「占拠」の情報も瞬く間に届いたからね。その他のほとんどのメンバーとは、「占拠」を通じて知り合いになり、その出会いによってひとつのコミュニティが形成されていったんだ。

それぞれがそれぞれの環境で違う経験を積んだ人々だったから、出会いはとても刺激的だったし、誰でも受け入れる、開かれたコミュニティのあり方が魅力的でもあった。なにより皆が同じ目的を持っていたからね。また、自由な「占拠」だったから、僕たちはそれぞれ、ヴァッレ以外の舞台にも関わっていた。だから皆、出たり入ったり、ヴァッレだけに拘束されることはなかった。

はじめのうち、僕らの目的は、市民に開かれた劇場として常になんらかの演目、イベントを企画していこうというものだったが、その目的も月日が経つうちに少しづつ変わっていくことになる。『どんなプログラムを組むか』というプラクティカルな目標から、だんだん野心的になって、財団を創立して、文化的政治の分野に一種の「革命」を起こそうという機運生まれたんだ。そしてそれは結局成功して、多くの支持者を得たわけだけど。僕らの理想は、常にアーティスティックな成長という面と、政治的な面、この両面を分離させるのではなく、同等に、同時に携えていこうというものだからね。

すべての市民に平等に文化を開くという考え方はローマの70年代の文化の理想に似ているのでは?

「もちろんそうなんだけれど、今の行政は、市民の手に何らかの決定権を与えることを、非常に怖がっていて、それが70年代とは大きく違うところだよね。ローマに起こるあらゆるすべてのことを、行政の手で管理したいと思っているんじゃないかな。自然発生的自由な文化を認めることは、「権力」としては沽券に関わる、と考えているんだと思う。

ローマ市が管理する文化スペースは美術館にしても映画館にしても、管理が厳しくて閉鎖的、市民が自由に出入りしたり、企画を持ち込んだりできるような空気じゃないだろう? だからどんなに大きな実績と市民の支持を得て、自然発生的に文化の流れを作り出そうとした僕たちの手に、劇場を渡すことはなかったんだと思うよ。でもテアトロ・ヴァッレ財団はいまだにアクティブで、次なるアクションに向かって議論を続けているし、ローマ市ではなく、海外とのコラボレーションも考えられると思う。まあ、いずれにしても、僕らにとって何が最善の道なのか、まだまだ議論は続いていくはずだよ。

既存の政治にはどのような意見を持っているのですか?

そもそも常に左派を支持してきたけれど、結局のところ、どの政党も権力の座につけば、その権力を誇示せずにはいられなくなるからね。「選挙」に行って投票はするけれど、ある意味、自分たちが中心になって政治そのものに介入していく、いや、僕らが僕らの自主的な政治を作っていく。ヴァッレのモデルという、右でもなく、左でもない自己完結型の政治のあり方を、これから考えていかなくちゃいけないんじゃないかと僕たちは思っているんだ。

テアトロ・ヴァッレ財団2022年に解散しましたが、それぞれの役者、舞台関係者たちは、各分野で活動し続けています。たとえば、オスカーの最優秀外国映画賞にノミネートされたマテオ・ガッローネ監督の映画『Dogman(ドッグマン)』に主演したマルチェッロ・フォンテは、テアトロ・ヴァッレの占拠者のひとりでした。

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