たまにはイタリアのWebカルチャーの、メジャーな動きにさらっと迫ってみようと思います。Youtubeに膨大にアップされたWebビデオシリーズで、押しも押されぬ絶対的な人気を誇るのが、ナポリのインディ・フィルムメーカー The Jackal。『インディ』とはいっても、S.r.l (会社組織)としてきっちりマネージされ、Youtuberを含めた他のフィルムメーカーたちとは比較できない、プロフェッショナルなビデオシリーズでWebを席捲しています。わたしも、ナポリマフィア『カモッラ』を描いた『ゴモッラ』のパロディシリーズあたりから注目しはじめたのですが、そのThe Jackalがここ数年、あれよあれよという間にいよいよメジャーになって、遂に劇場映画『AFMV』を制作、現在絶賛上映中です。
『ナポリ』という天然のシアター
もちろん、その国のメンタリティや街の文化、風俗、個人の趣味によって「笑い」のツボ、というのはかなり異なっていて、イタリア人に人気があるコメディでも、わたしには大げさすぎて全然面白くない、ジョークもギャグもまったく退屈、ということが多々あるのは、いたしかたないことかもしれません。さらに、たいてい10代から20代のYoutuberが作ったビデオは、ジェネレーション・ギャップもあるのか、いかにも「とってつけた」ような浮いた笑いで、ツボには全くはまらず、がっかりすることもあります。
ところがThe Jackalのショートビデオのシリーズをあれこれ観はじめて、おそらく彼らのターゲットは10代後半から20代、30代前半、と推測されるにも関わらず、不覚にも深みにハマってしまいました。わたしにとっては難解な、濃厚なナポリ弁が多用され、よくわからない部分もあるのに、なんだかジワッと面白いのです。何でもないナポリの日常からSF世界まで、縦横無尽に駆け巡っては笑いとばす、その表現の「間」が心地よく、役者も揃っている、という感じです。
まず、ナポリという街の文化の層はきわめて厚く、現在、映画界、文学界、演劇界、歌謡界におけるナポリ出身のアーティストたちの活躍は、残念ながらローマのそれを遥かに凌駕している、と言わざるをえないでしょう。イタリアで最も面白く、ポピュラーな人材を多く輩出する街、といえばナポリを置いて他にはないかもしれません。事実、イタリア現代演劇の巨匠エドアルド・デ・フィリッポや、イタリア・コメディの源泉Totò (トト)、イタリアのヒューマニティを世界に知らしめたデ・シーカを生んだ、あのナポリという街の文化の個性は、Web時代になっても他に追随を許さないほど厚いのだ、ということを、The Jackalの登場で再確認した次第です。
「あれ? どこからか銃声が響いてくる」という街角もある、殺伐と「怖い」イメージが先行するナポリですが、いまだに建物と建物の谷間に平気で洗濯物が吊り下げられる街角で、いたって人間的、隠し事なく気取りなく、出来心もズル賢さも鷹揚に抱擁するのが、ナポリに繰り広げられる喜怒哀楽のドラマ。スマートさには欠けても、ある意味ユニバーサルに共感できる稀有な個性とナポリ名物のPizza(うるささ・煩わしさ)が充満している。
個人的なナポリの思い出は、といえば、かつてイタリアを訪れた叔父とともに出かけたサンタ・ルチアの近くでのことです。バイクに乗った2人組に、闇に紛れてバッグをひったくられ、慌てて駆け込んだ警察で、「いくら入ってた?」と聞かれたので「日本円で10万円ぐらい(なにしろわたしが叔父のお金を預かっていたので)」と答えると、感じのいい2人の警官が「へえ、そんなに入ってたとはね。奴らは今夜『フェスタ』だな。はっはっは」と余裕綽々に笑ったのにはびっくりしました。「心配しなくて大丈夫。ナポリでは『ひったくり』なんて普通のことだから。起こらない日はないんだから」と変な慰められかたをされて、とぼとぼとホテルに戻ったという経緯です。
※The Jackal制作のナポリ4Kフィルム。最後のスタンダールの言葉に、彼らのナポリへの愛が集約されている(1817)。「出発する。トレード通りのことも他のナポリの街角のことも決して忘れることはないだろう。わたしの眼には、紛うことなく宇宙で一番美しい街だ」
イタリアン・コメディの新しいスタイルとしてのThe Jackal
さて、ナポリの新しいスターとして、ヴァーチャル世界を駆け巡るThe JackalのThe Jackal、The Jackalshit とYoutubeにふたつあるアカウントにアップされているビデオの数は膨大で、観ても観ても観尽くせず、Youtubeを徘徊するたびに「はじめて観た」というビデオに遭遇します。その人気は留まることを知らず、それぞれのビデオの視聴回数が90万から100万というのはザラ、300万~600万を優に超えるものもあります。もちろん視聴回数だけでは、100万単位の数をはじき出すYoutuberはイタリアにも結構いますが、アイデアの面白さと演技が群を抜いています。近年には、国営放送Raiとのコラボや、大手企業がスポンサーについたショートビデオも数多くリリースされ、The Jackalはもはや、Web上で活躍するYoutuberであるとか、インディのフィルムメーカーという枠をとっくに超えていました。
はじめはあまりにも役者が揃っているし、クオリティも高いので、バイラル狙いの『プロフェッショナル』グループが、スクラムを組んで活動しているのではないか、とも疑っていましたし、実際、現在 のThe Jackalは会社組織でもあり、やはりナポリを基盤とする、Fanpage.it(Fbでは700万を超えるいいね!)という、既成のマスメディアとは一線を画して、かなり突っ込んで面白い話題を提供するWebニュースを運営するCiaopeopleというWebネットワーク会社(ミラノにもオフィスを開設)の傘下でもあります。したがって、バイラル・マーケティングを基本に動いていることを否めないには違いありません。しかしながらさらにリサーチしてみると、そもそも『プロフェッショナル』なグループなのでは、という当初の思惑はすっかり外れていました。
というのも、The Jackalを構成する監督、映像特殊効果、俳優も編集も、もともとは中学校の同級生で、昔から一緒に遊んでいた幼馴染みなのだそうです。子供の頃から映画が大好きだった同級生の友達4人が集まって、ちいさいビデオカメラを回して遊んでいたのが嵩じて、2005年にナポリの街角の一角に、フィルムメーカーとして零細プロダクションを開いたのが事のはじまり。当初、細々とYoutubeに動画をアップしていたのが (昔のビデオにも、ええ!?と、かなり非常識で意表をつくビデオがあります)、いくつかのショートビデオシリーズで爆発的人気を博し、2010年代に入るとCiaopeopleの傘下となり、いよいよ本格的にファンを増やしました。と同時に、イタリアの若者たちだけではなく、テレビ界の著名人や映画人たちの心をも、がっつり掴んだというのが経緯です。
何より、YoutubeやFacebookで、ユーザーとダイレクトに長い期間に渡ってコミュケーションをとっているため、「結構昔からよく知っている、近所の面白いナポリのお兄さんたち」とでもいう雰囲気で、いかにもナポリらしい、ラフで温度のある空気感が醸し出され、その親密な距離感もなかなか魅力的です。
まずは、Webから飛び出した彼らの新しい挑戦、ナポリの街角とエイリアンが入り乱れるという本格SFコメディ『 AFMD – Addio Fottuti Musi Verdi (あばよ、呪われた宇宙人たち)』 のトレイラーをシェアしたいと思います。なおローマでは、この映画を観に、クラスごと大挙して出かけた高校生たちもいるそうです。
あらすじは、といえば、優秀なグラフィックデザイナーでも、ろくな仕事がないチロ (チロ・プリエッロ)と、かなり強烈なキャラクターの、SFマニアのチロの友達ファビオ(ファビオ・バルサモ)、チロの恋人ベアトリーチェ(ベアトリーチェ・アルネラ)の、ナポリの何でもない日常から話がはじまります。どんなに有能な人材であってもなかなか仕事が見つからない、35歳以下の若者の失業率が39.4%(2017 :それでも、数年前に比べると数%改善)のイタリアの、これは、いわばティピカルな日常。ベアトリーチェは仕事を探しにナポリを捨ててイギリスに行こう、とチロを誘いますが、その誘いに迷うチロは、といえば、ひょんなことから履歴書を「宇宙」に送ってしまうことになる。
その晩、グッスリ眠っていたチロは、知らない間に宇宙船に連れ去られ、そこでグラフィック・デザイナーとしての面接を受ける羽目になりました。しかもその面接にめでたく合格。予想外にラブリーなエイリアンたちからも歓迎され、しっかり給料を支払われて幸福に働きはじめます。ところがそのうち、喫緊に差し迫る地球の危機を知ることになります。と、そのあとは本格的にダイナミックなコメディSFアクションへと突き進んでいきます。
あらすじそのものは、それほどインパクトがある、というわけでもないのですが、「ナポリの日常」と「宇宙」という破天荒なギャップにも関わらず、不思議と自然で荒唐無稽という感じでもなく、何といっても細部のギャグに雑なところがない。もちろん、グランド・シネマの圧倒的感動はなくとも、エンターテインメントとしては充分楽しめる映画でした。最近ナポリといえば、「カモッラ(ナポリ・マフィア)」たちの出口の見えない、重く残酷な「犯罪」的な側面ばかりがクローズ・アップされてきましたが、まったく違うナポリの日常の次元で、新しいジェネレーションの「笑い」のセンスとアイロニーが表現されてもいた。また、ちょっとだけ顔を出す役者としても味のあるThe Jackalメンバー、アルフレード・フェルコの視覚効果も秀逸です。
また、カンヌ・グランプリ受賞作『ゴモッラ』のTVシリーズ版で『カモッラ』のボスとその息子を演じた、フォルトゥナート・チェルリーノとサルヴァトーレ・エスポージトがカメオ出演、ナポリ出身の超ポピュラー歌手ジジ・ダレッシオが本人として、「まさか」な役で登場してもいます。”Du fritur”『揚げ物』レストランの中国人主人役は、イタリアで有名な日本人俳優、Hal Yamanouchi氏です。
※いまやイタリアで最もポピュラーなオピニオン・リーダーとなった、「ゴモッラ」の原作者、ナポリ出身の社会派ジャーナリストで作家のロベルト・サヴィアーノも『AFMV』をビデオで評論しています。「主人公のチロをどう表現するか、と言うと『経済難民』ってところだよね。こんなに面白い映画を観たあとに『移民』の話? と言われるかもしれないけれど、まったくその通り。仕事の可能性のないイタリアは『経済難民』の国なんだ。統計によると、毎年、28万人のイタリア人が仕事を求めて外国に移民するんだよ。3年で、なんと100万人という数字になる。そう、『AFMV』は、だから宇宙に出かけたイタリアの経済難民の話なんだ(抄訳)』と、あくまでも社会派のサヴィアーノ。
監督のフランチェスコ・エッバスタは、子供の頃、現在のThe Jackalのメンバーたちと映画館ではじめて観た『インディペンデンス・デイ』が、この映画の基盤にある、と語っています。『インディペンデンス・デイ』を観て衝撃を受けた少年たちが見よう見まねでビデオを撮りはじめたことが、のちにThe Jackalというフィルムメーカーのチームを作るきっかけとなりました。そして20年後にして、皆が揃って少年の頃に夢見た銀幕へ躍り出たというわけです。ムービーを撮る際に影響を受けたのは『イル・ポスティーノ』のマリオを演じ早逝した、ナポリの名優、マッシモ・トロイージ。彼の映画の全てを注意深く観察したそうです。その他もちろん、スターウォーズ、ジャッジ・ドレッド、ウォーキング・デッド、ロボコップをはじめ、ドクター・フー、モンティ・パイソン、そしてエドガー・ライトのコメディなどにも影響を受けているそうです( GQ Italiaより)。
11月9日に初日を迎えたこの映画について、プロの映画評論家からは、「Webで優れたビデオを制作していたとしても、映画のスクリーンとWebはまったく違う世界だということを、彼らは知るべき」という風な手厳しく、野暮な批判もありましたが、映画サイトでの一般観客の評価は星が4つと、評判は上々です。実際のところはプロの評価より、観客の評価の方が、はるかにリアルで正直でもある。舞台挨拶があるというので、大雨の初日にわざわざ観に行ったわたしとしては、The Jackalのメンバーの醸すフレンドリーな空気や、手練れていない舞台挨拶に好感を持って、新しいタイプのコメディを堪能しました。もちろん上演後、劇場は拍手喝采でした。
The JackalをWebワールドのスターにしたLost in Google
さて、The Jackalのメンバーがナポリでプロダクションをはじめた頃のYoutubeは、といえば、イタリアの若いフィルムメーカーのグループが、こぞって動画をアップして、玉石混淆でもあった時期です。時とともにそのフィルムメーカーたちの淘汰が起こり、その中で存在感を放ち続けることができたグループは今となっては数少ないのが現状でもある。やがて本格的にYoutuberたちが現れて、Webシーンが大きく変化したわけですが、The Jackalはその中でも異彩を放ち続け、ファンを増やし続けています。
たとえば2010年にアップされた『The Washer (ガラス磨き)』は視聴回数60万回。これは大きな交差点には必ず数人待ち構えている、車のフロントグラス磨きで小銭を稼ぐ移民の人々との葛藤を描いた動画で、どんなにガラスがピカピカに磨かれていようと、ひたすら執拗に、何とかしてガラスを磨いて小銭を貰おうとする (それで生計を立てているわけですから)彼らからの本格逃亡アクションものです。
このように、Webにおいてはそもそも異彩を放っていた、そのThe Jackalの名を不動にしたのが、2011年にアップされたLost in Google。このシリーズは、#0から#5まで続くロングバーションで、はじめは、3分弱の動画が、だんだんに7分、20分と発展し、回を追うごとに本格アクションストーリーに変わっていきます。何より面白い、と思ったのは、動画に寄せられたコメントを元にストーリーがどんどん発展していく、というアイデアでした (これは何年か前にアメリカのWebシリーズI.Channelが使った手法だそうです。Wikipediaより)。
たとえば主人公の女の子、プロキシ(いい名前!)に「彼女にバナナを食べてもらいたい」というコメントが来ると、そのリクエスト通り、ストーリーの途中でプロキシが脈絡なくバナナを食べたり、「シモーネは死ぬべき」というと、主人公が本当に死んでしまったり、「いや、実は死んでいたなかった」とコメントが書かれると、次のリリースで生き返ったり、かなりSFで奇想天外なストーリーです。最後までどうなるのか結構ハラハラしながら観る、という感じでしょうか。
あらすじは、といえば、実際のThe Jackalのメンバー、シモーネが素のまま主人公、オフィスで自分たちをエゴサーチしているうちに、プロキシに「Googleで Googleを検索してみたら?」と何気なく言われて、試しているうちにWebの世界に吸い込まれてしまう、というもの。そこでリアルYoutuberに遭ったり、ポップアップに吸い込まれてGoogle mapの中を彷徨ったり、Wikipediaに突撃したり、言葉でこう書くと平坦になってしまいますが、ヴァーチャル世界をなかなかリアルなイメージで表現しています。#3ではWikipediaに潜入したシモーネが、今日死亡する、と書かれた自分のページを観て驚愕、そのページを盗んで逃亡 、降り注ぐコメントの圧力で、あわや死んでしまうのか、というシーンで終わる。そういえば、実際にWikipediaでThe Jackalを探しても、削除されていて書きかけの項もありません。
#4では、シモーネがWebに入り込んでしまったため、リアル世界ではインターネットを含む地球上のあらゆる通信が遮断され、『アポカリプス』を迎えようとしている。一方、ヴァーチャル世界のシモーネが目覚めるのは病院のベッドの上、ここからFBIも絡む、地球崩壊危機SFアクションになっていくのですが、現実とWeb世界が渾然一体となり、Facebookは出てくるわ、FBIと闘うAnonymousは出てくるわ、となかなか手強い複雑なストーリーが展開されます。
ストーリーでは、インターネットは人間が発明したものではなく、冷戦時代、山の中にある孤立した小屋で、極秘で実験されて生まれた自律した存在、と仮定され、さらにインターネット上の危険生物であるミームが跋扈(なんと、主人公のひとり、プロキシもミームかも、という設定)、そのボス、Elgoogという謎の存在が示唆されるなど、単純でありながら、インターネットにおける現実の集合的不安を暗示する内容でもあります。で、もちろん随所に練られたギャグが盛り込まれ、さらには、随時流される、無作為でとぼけたユーザーのコメントと、鬼気迫るシーンとのギャップが効いている。
このシリーズは#0がリリースされた2011年の1月から2012年の7月の#5まで、バックステージも含めリリースされていますが、このシリーズがリリースされはじめて瞬く間に、「次はいつリリースされるのか?」と、イタリアWeb界のカルト的存在になり、Webだけでなく新聞やテレビが大きく注目しました。2011年にThe Jackalは、前述したナポリのマーケティング&アドヴァタイジングのソーシャルネットワーク会社のCiaopeopleの傘下となっていますから、多分このシリーズをリリースしはじめてから、Ciaopeopleとの提携が決定されたのではないか、と推測されます。実際、#2からは随所にfanpage.itの名が見られ、ゲストとしてプロの役者が登場し、仕掛けも大きくなっていく。Lost in Googleは2013年のロサンジェルス、Webシリーズのオフィシャル・セレクションとなっています。
この、大好評を博したLost in Googleののち、The JackalはWebビデオシリーズのみならず、ミュージッククリップ、TVスポット、と留まることなく爆進。映画『ゴモッラ』のパロディシリーズ『Gli effetti di Gomorra sulla gente -人々へのゴモッラ効果#1』は、427万回、#2は680万回、原作者のロベルト・サヴィアーノも出演する#3は569万回、最も最近の#4も230万回の視聴回数と、リリースする動画は全て大ヒットです。
2014年のローリングストーン誌のインタビューによると、そもそもこのパロディは、「ゴモッラ」の大ファンであるチロのリクエストで作ったショートビデオをYoutubeに載せたところ、あまりにも反響が大きかったため、続編を撮影することにしたのだそうです。『ゴモッラ』でジェンナーロ・サヴァスターノ役を演じたサルヴァトーレ・エスポージトは、ここでも特別出演しています。
2014年の時点で、Web上にアップされたThe Jackal のビデオの視聴回数の総計は、3千万回を軽く超えていましたから、スターとなった現在はその3、4倍、あるいは10倍の視聴回数になっているのではないかと予想されます。もちろんイタリア語、あるいはナポリ弁でのショートビデオなので、言葉が壁となり、インターナショナルなバイラルになることは難しいので、そのほとんどがイタリアの視聴者ということ。
繰り広げられる日常そのものがまるで芝居、というイタリアにおけるナポリ『アーキタイプ』を、Web世代の彼らが、SFやホラーでマッシュアップしながら、きっちり踏襲していることは注目すべきことです。実際ナポリの出身者たちは、誰もが自分の生まれた街と深く結びつき、たとえ街を離れても絆を断ち切ることはない、という暗黙の『ナポリルール』という定説があります。
13話までアップされた『Vrenzora』(ちょっと行儀が悪く行動が雑、下品ギリギリのキッチュな女性を指すナポリ弁)は、まさにナポリそのものをパロディにしたシリーズ。話題は現代風でも、サブタイトルもつけられない早口のナポリ弁での、窓を挟んだナポリのシニョーラふたりのベタな会話をシンプルに繰り返し、あまりよく意味が分からないまま、笑いながら結局最後まで見てしまうという感じでしょうか。
ところで最近、イタリアのYoutubeを見ていると、Youtuberによるドラマ仕立て、もはやスポットとは言えない長編広告がかなりあるのですが、The Jackalに関して言えば、企業がスポンサーについた数え切れないほどの広告シリーズが打たれています。それも、たとえばVodafonやSmart、Fordなど、グローバルな大手企業、あるいは間もなく封切られる劇場映画の広告スポットをも多くて手がけている。
2016年にはイタリア映画界の権威、Davide di Donatello賞のオープニングビデオも制作、『グレート・ビューティー 追憶のローマ』でオスカーを獲得した、いまや現代イタリア映画の顔である、パオロ・ソレンティーノ監督( 彼もナポリ出身です)にコメディを演じてもらう、という大それたフィルムで話題をさらった。いずれにしても、イタリアの各界の大物スターたちはThe Jackalのフィルムなら喜んで参加する、という雰囲気でもあります。
Webを駆け巡るThe Jackalのショート・ビデオ
さて、ここでいくつかWebに上がっているThe Jackalのショートビデオを順不同に並べてみたいと思います。Youtubeを彷徨っていると、埋蔵金のように次から次に発掘されるので、ここではほんの触りだけ。
※女の子を迎えに行って、必ず長時間待たされる男の子の悲哀をアイロニーたっぷりにスポットにしたSmartの広告。イタリアの女の子は、車で迎えたに来た男の子をかなり悠長に待たせるのが伝統です。
※真夏の結婚式。わかる、わかる。イタリアの結婚式って、ほとんど拷問なんです。Vodafonがスポンサー。
※真夏の結婚式。わかる、わかる。イタリアの結婚式って、ほとんど拷問なんです。Vodafonがスポンサー。
※もちろん、The Jackalオリジナルのスポットも続々アップされています。かなり複雑なWifiパスワード。
*これは今年の夏、Facebookで次から次にシェアされていた『人々へのデスパシート効果』。The Jackalの3人が、いかにも音楽通のインテリのごとく「また、この曲? ラテン音楽ってみんなメロディ、リズムが同じでつまらない」「今年の1月からずっとかかっているよな」「今までの音楽の歴史上、一番最低の曲。ひどすぎる」などと散々文句つけて、『デスパシート』をけなしたおしているにも関わらず、サビでは全員で乗りまくるという、いい加減なお調子者ぶりに喝采でした。オリジナルを歌うルイス・フォンシが直々に登場、という豪華バージョンもあります。最近、イタリアの若い世代が作るコメディ映画が、結構面白い!と思っているのですが 、The Jackalの『AFMV』も、わたし的な今年のコメディ、ベスト3には入れようと思っています。
ただ、わたしはそもそもWebで彼らのことを知っていて、彼らの笑いに馴染んでいたので、その延長で面白い!と思ったのかも知れない、とも考えて、The Jackalを知らないで映画を観た人に感想を聞いたところ、「ナポリっぽくて面白かった。登場人物のキャラクターがすごくいい。演技がリアルだったよね」ということだったので、この項にまとめてみることにした次第です。
『AFMV』、日本での上映も、おおいに希望したいと思っているところです。