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PARIS

Deep Roma Eccetera

今朝、エレベーターで一緒になった階下に住むイタリア人紳士は「悲しい、恐ろしいことだ。しかしこれは欧米がやってきたことへの報いかもしれないじゃないか。われわれはこの状況、何が起こっても今まで通り普通に生きるしかない。いや、普通に生きる努力をしなくちゃいけない。じゃあ、また。今日もいい一日を」と達観した表情で早口で言うと、足早に仕事へと出かけて行きました。(写真 アンリ・カルティエ・ブレッソン)

この隣人との会話を、しばらくの間反芻したわたしは、やがて彼の言う『普通に生きる努力をする』ことが、今の状況では最も正しいのではないか、という結論に達した。何度か出かけて知人もいる、いつも親しみを感じていたパリという街に起こった出来事は、ローマに住むわたしたちにも衝撃と深い悲しみ、そして恐怖を生みました。大げさに感じられるかもしれませんが、ここ数年、たびたび脅迫を受けていた(そして今回も『これは嵐の前触れにしか過ぎない』と告知され)欧州に突きつけられたリアリティの重さは、呆然とするほど『現実離れ』していた。そしてパリの、フランスの人々の想いを想像するとやりきれません。何をするにしても、どんよりとした不穏を覚えながら5日間を過ごし、しかしその感情こそが、多分『罠』だとも考える。衝撃と恐怖は確実に人の思考を停止させ、行動の自由を奪います。こうして人々の自由を奪うことが、『油断を巧みに狙う』あらゆるテロ、戦争を含める暴力行為の目的のひとつでもあるわけで、人は恐怖、そして憎悪に、いとも簡単に服従して、いつのまにかコントロールされる。

いずれにしても、フランチェスコ教皇がかねてから発言しているように、第三次世界大戦は、今までの戦争と大きく違う形ではあっても、すでにはじまっているのだと思います(というのも、今まではそのアイデアを頭では理解できても、やはり実感は薄い、というのが正直なところでした)。確かに地中海を渡って、日々、硝煙の匂いが近づいてくるのを、誰もがうすうす感じていた。しかしこんなに早い時期に、パリで『非常事態宣言』が発布される状況になるとは、予想していませんでした。パリの大惨事を機に、12月8日にジュビレオ、『Misericordia (神の慈悲)の聖年』の門が開くローマにも、軍が投入され厳戒体勢に入り、イタリア政府はとりあえず「70年代、『鉛の時代』を席巻したテロとマフィアの摘発の経験から、イタリアは優秀な防御体制、諜報能力を持つ。市民が安心して日常生活が送れることを保障する」と発表しています。今年の夏が過ぎてから、のびのびと自由に歩き回れた広々としたテルミニ駅は、アクリルの塀でぐるりと取り巻かれ、警備のチェックなしにはホームへは行けません。

実はこのサイトをはじめる際、タイムリーな世界情勢に関することはなるべく扱わない、話題はローカルに絞る、と決めていたので『掟』破りにもなるのですが、やはり今回はパリで起こった事件について、気になった新聞の記事を、少しだけ訳しておきたいと思います。

11月16日、コリエレ・デッラ・セーラ紙は『彼らの目的は全面対決、そして欧州のクセノフォビア(異人種排斥)だ』という記事を掲載しています。この記事は80年代のはじめから中東、欧州におけるイスラム急進派の研究を続けるGilles Kepal教授を、Lorenzo Cremonesiがインタビューしたものです。パリ政治インスティチュートで教鞭をとる Kepal教授と彼の生徒たちは、中東、あるいはアルジェリア、元植民地からフランスに移民してきた家族の第二世代の若者たちが、イスラム急進派に心酔するフランスの現状を『rétroーcoloniale(懐古的植民地人)』と定義している。

犯行者のひとりは、フランスで生まれた若者だということですが。

彼は軽犯罪を繰り返した後、急進派のモスクに出入りするようになっています。非常に懸念するのは、彼がフランスーアルジェリの二世代、三世代の典型的な青年であることです。失業していて、学校教育も十分には受けておらず、末端でやりくりすることにすっかり慣れてしまっている。彼のような青年が、近年の暴力的事件、テロリズムに巻き込まれるケースが多くなっています。列車に爆弾を仕掛けたり、働いている会社の責任者を攻撃したり、またユダヤ地区でテロリストたちのカリフをマニフェストしたり。『シャルリー・エブト』事件の犯人も、アルジェリア人のコミュティに近い人物でした。

今回の事件を予測することはできなかったのですか?

もちろん、警察もエキスパートも国も、テロを避けることはできない、と予測していましたよ。しかし彼らの警備は今月末、パリで開かれる国連サミットに焦点を合わせていた。

「シャルリー・エブド」の事件と共通項はありますか?

非常に近い場所で犯行が行われているということは明らかです。フランスの中流の家族が住み、オフィス、カフェ、レストランが集まった、アラブ人も多く住む地区です。惨劇が起こったバタクラン劇場はシャルリ・エブドから500メートルしか離れていなかった。つまり、彼らは同じ場所を二度襲撃することを怖れはしない。テロリストは怖れることなく、自由に動いているのです。大きな相違点は、彼らは『明らかに敵対している』特定の場所を狙わなかったこと。シャルリー・エブドの場合は、彼らを侮辱したジャーナリストたちを狙い、反ユダヤを明確にした。実際、イスラム教徒たちが構成するフランス、また海外のソーシャル・ネットワーク上では、犯行の際、賞賛の声が挙がり、多くの賛同を集めました。しかしまったく油断している一般市民(しかも未来を担う若い年代の人々)に向かって、公共の場で無差別テロを行うという有り様は、1月のテロとはまったく違う。いずれにしてもフランスで目的のない無差別テロが起こったのは初めてのことです。わたしには犠牲者のなかに5%から10%のイスラム教徒が含まれているという確信があります。

どういう意味ですか?

多分、テロ集団も自分らが行った過ちに気づいたのではないかと思うのです。イスラム教徒のSNSをリサーチしているわたしの生徒たちは、今回の犯行に関して賞賛ではなく、ひややかでネガティブな反応を多く認めています。それは冒涜者を殺戮した際の1月の反応とはまったく異なるものでした。テロリストたちは『キリスト教徒たちの堕落した場所』を襲撃したと表現しましたが、よく読むと、あとからとってつけたような、洗練されない言い訳のようにも思えました。

彼らの武装能力というものは、どれぐらいのものでしょう。

彼らはいろいろなグループの寄せ集まりです。爆弾ベルトもアマトリアルな、シンプルな構造のものです。彼らはもっと多くの犠牲者を出したいに違いありませんが、いくつかのケースでは、本人だけがそのベルトの犠牲になったという例もあります。一方銃撃に加わった者は、よく訓練され、落ち着いた行動をとっています。証言者は、まるでビデオゲームを見ているようだったとも言っている。

今後の政治的な動きは?

ヨーロッパが、移民反対者たちへ水を注ぐ水車になりえると考えています。フランスでは Fronte Nazionale (フランス最右翼)が躍進し、12月の地方選、2017年の大統領選では最高の結果を出すでしょう。しかし、そうなることこそがテロリストたちの思う壺なんです。ヨーロッパがクセノフォビアー異人種排斥に動けば動くほど、今まで穏健であったイスラム教徒たちをカリフの元に走らせる。テロリストたちは、イスラム教徒と、それ以外の人々の連帯をぶち壊そうと思っている。彼らの目的は全面対決なんですから。話し合いなどということは通用しないのです。

 

この記事は、衝撃的な集合的ダメージを受けた際、社会が国家、民族という枠を『一致団結』という名目で聖域化して極度に右傾化することは、さらなる敵対を生む危険な道だ、と警告を発している。実際、事件のすぐあと、右翼系のイタリアlibero紙が、「Bastardi Islamici =堕落したイスラムたち」と一面トップに載せ、すべてのイスラム教の信者を冒涜するようなそのタイトルに、イタリアじゅうで非難が巻き起こった。

「やつらは本物のイスラム教徒じゃない。いったい何の宗教を信仰しているんだ」「やつらがどこの誰か、われわれにはさっぱりわからない。誰がやつらに資金を供給しているんだ。やつらの油田からオイルを買っているのは誰なんだ」と欧州に住むイスラム教の人々が怒りを露わにインタビューに答えるニュースも放映され、脅威がすり替えられることのないよう、イタリアのメディアも用心深く報道しています。もはやこのような戦時中を彷彿とする、単純なプロパガンダは通用しない社会、市民はデリケートに、そして慎重になっている。

この大惨事のあと、すぐにフランスは『lo stato di guerraー戦争状態』を宣言(イタリア中枢部は『戦争』と呼べるのか、と疑問を呈しています)。あれよあれよという間に米国のアシストでシリアを爆撃、また17日には欧州連合の27国がその攻撃をアシストすると表明しています。以下は、17日のコリエレ紙、ヘンリー・キッシンジャーの伝記を書いたというハーバードの教授、Niall Fergusonへのインタビューです。

「フランスは spietato(無慈悲)にテロリストを攻撃する、と演説を行ったオーランド大統領を、私は賞賛するつもりはない。わたしはそれを信じないからだ。オーランド大統領が爆撃を行ったのは、そう単純な理由(フランスにふりかかった惨劇の恐怖から威信を取り戻すため)からではないと思っている。このようなレトリックは、アメリカと有志連合が9.11 のあとに繰り広げた戦争で、われわれはすでに知っている」「アフガニスタン、イラクに軍を送り、一年の間に状況は間違った方向へ進んでいった」「私は今の状況も同じことになると思っている。 NATOがシリアとイラクで大規模攻撃を行うこともありうるだろう、しかしそうすることで一体どうなるというんだ」

「実際のところ、テロリストたちに強大な軍事能力があるとは思えない。もしアメリカが徹底的に航空技術を動員して、特殊部隊を投入すれば、数週間のうちにテロリストを壊滅することができるはずだとも思う。しかしそうすれば、多くの被害が出るのは間違いない。なぜならテロリストたちは、あちらこちらの街、村に散在しているからだ。もしそんなことをすれば。オバマ大統領運営チームは、シリアの未来、という絡まった糸を解くために、多くの政治問題に突き当たらなければならないだろう」「しかし、現状における欧米の政治方針とは何なのか。どんなストラテジーなのか、まったく不明だ。バシャール・エル・アサドに最高権力を与えたいのか。シリアを分離させたいのか。権力者たちは、アイデアを持っていない。多分、プーチンを除いてはね」

 

Fergusonは、このインタビューで、「シリア難民に紛れてテロリストが欧州に来ていることは明白で、たとえそのパーセンテージが、欧州全体の人口に比べて僅かではあっても、 8人のテロリストで(少なくとも)129人の犠牲者を出すことが可能であったわけだから、欧州は国境を閉ざし、シェンゲン協定を反故にすべきだ。シェンゲンの時代は去った」と語っています。また、Fergusonも今回の事件と難民問題から、「フランスの最右翼の躍進が予想される」とも語っている。コリエレ紙はこの人物に、「ということは、英国がそうするように、ヨーロッパはバラバラになったほうがいいということですか?」「巨大投資家のなかには、ユーロの生き残りをかけた戦いは、そのうち他の国、たとえばイタリアにも及ぶんじゃないかという人もいるんです」「イタリアにはあなたに賛成しない人もいるんですが」とかなり突っ込んだ質問もしていました。ちなみに混乱が予想された月曜の欧州市場は、バフェットの「売らない」という一声で、関係者が驚くほど落ち着いています(il sole 24 ore)。

わたしはこの教授の意見とはまったく反対に、紛争地からの難民を、それができる状況である限り、欧米、そしてその友好国は受け入れ続けるべきだと考えているので、正直、Fergusonのインタビューを読みながら、少し憂鬱にもなった。現状の発端を熟考するなら、あらゆるリスクを抱えても、欧米、友好国はそうすることが義務だとわたしは思うのですが、いつかこの教授がいうように、本当にシェンゲンが解消されるような事態になるかもしれません。しかし欧州域内をパスポートコントロールなしに自由に動けるシェンゲンは、欧州の理想を体現する協定でもあり、国境を閉じることでさらなる葛藤を生む可能性があるのでないか。いまのところ、イタリアの首相は他の欧米諸国と足並みは揃えても『武器だけが問題を解決するとは思わない。もうひとつのリビアを作ることは避けなければならない。イタリアはわれわれの典型的な方法、ハードパワーではなく、ソフトパワーを使っていくことを目指す」と述べてはいます。

欧州、ローマに住む限りは、トリコロールの国旗が謳う「自由、平等、友愛」からいよいよ大きく離れ、世界が危うい方向へと勢いづいているような気がします。ルネサンス紀のヨーロッパからはじまり、アングロアメリカンへと手渡され侵略と搾取を重ね、構築され複雑化した、わたしたちの生活の基盤となっている『世界近代システム』の破綻が、ここ10年の間に、明確に顕在化した、とも感じる。カオスはすぐ近くまで迫っているのかもしれない。いや、そのカオスは、われわれの節穴の目が見抜けぬまま、常にそこにあり続けたのかもしれない。

いずれにしても、世界がどう変化しようとも、わたしたちは死ぬまで、この『現実離れ』したリアリティを生き続けるほかはありません。ここ数日間、目の前に広がるリアリティというものが、醒めることのない夢のようにも感じています。しかし砂漠の国々、戦禍に生きる人々は、われわれとは比べものにならないほどの非常事態、終わらない悪夢という現実に生きているのだということを、忘れてはならないとも思っています。

Stiamo sempre con voi.

 

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Jean jullien


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