イタリア二大ポピュリズム、『五つ星運動』と『同盟』が連帯、ついに組閣?

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朝と夜ではコロッと報道が変わり、昨日の出来事が昔話のように懐かしく語られる、という未知の時間が流れるウルトラカオスなイタリアに、ついに欧州連合初の『ポピュリズム政権』が樹立する可能性が高くなってきました。5月7日、イタリア共和国大統領セルジォ・マッタレッラは、どうにも収拾がつかない、この政治パニックに終止符を打つべく、「大統領の人選による組閣で、政治的中立『暫定政権』を樹立するか、その政府が信任されない場合は早期に『再選挙』を実施するか」各政党に迫った。そのギリギリの土壇場で、急遽『5つ星運動』と『同盟ーレーガ』が組閣交渉を開始、怒涛のように政局が動くことになりました。なお、この項を投稿した途端に事態が急変する可能性もあることを、予めお断りしておきたい、と思います。

たとえマッタレッラ大統領による『暫定政権』が樹立されようとも、2党でほぼ過半数を占める『5つ星運動』と『同盟ーレーガ』が、「民意を反映していない政府を認めるわけにはいかない」、と即座に不信任を表明していたので、夏、あるいは秋の『再選挙』が確実視されていた矢先のことでした。『5つ星運動』と『同盟』が組閣を試しているというニュースが怒涛のごとく飛び込んできた(この項は、雪と選挙と『5つ星運動』『5つ星運動』は他勢力との組閣に成功するのか、の続きです。アイキャッチの写真は、大統領府のオベリスク)。

前日の夜、TVの政治トークショーに出演し、「再選挙は少しも怖くない。それにベルルスコーニの『フォルツァ・イタリア』が一角をなす『右派連合』に属す『同盟ーレーガ』との契約連帯はありえないことだ」と力強く語っていた『5つ星』のルイジ・ディ・マイオが、次の日の朝には『同盟』のマテオ・サルヴィーニと組閣?!しかも件のベルルスコーニが『5つ星』と『レーガ』の連帯を認め、「好意的」に退いたという、にわかには信じがたい展開でした。ニュースを知った途端、「ええ! どういうこと?」と膝から崩れ落ちる、という感じでしょうか。

あらゆるすべての組閣の試みが破綻し、3度目の短いコンサルテーションの後にマッタレッラ大統領が会見をした頃は、確かに各政党が組閣を巡り脅しあい、罵り合い、足を引っ張り合う決裂の日々でした。普通の神経ではついていけない、壮絶なスピード感で繰り広げられるアヴァンギャルドな状況に、市民はただただ呆れ果て、「シーン」と静まり返る、と言う趣でもあった。

実際、75日間ノンストップ、言いたい放題、やりたい放題のスキゾフレニックな政治家たちの挑発行為に振り回され、一喜一憂くたびれ果て、「組閣されるまで、もう2度と政治ニュース、政治討論番組は観ない、読まない」と決めた数時間後、8時のニュースの時間になると、やっぱりそわそわ気になってTVのリモコンを探す、という毎日でもありました。どんなに過酷で理不尽でも、政治は一種、イタリア国民のカタルシス。スリルとサスペンスに満ちた禁断の『麻薬』と言えるかもしれません。そしてその、ダイナミックな劇場政治の裏側で、あらゆる危ない密約が分野を超えてひっそりと交わされる、そんな気配もそこはかと漂います。

いずれにしろ、現在のこの状況を『イタリア国内のシステム危機』とあらゆるメディアは表現しています。なにより、この政局ジャングルにたむろする、老獪な猛獣たちの予想もつかない闇討ちの数々を、涼しげな顔で淡々と報道し続ける、イタリアのジャーナリストたちの強靭なエネルギーとプロフェッショナリティには、心から敬意を評したい所存です。間もなく組閣が実現するのかしないのか、現在のような「てんでばらばらで、いつまでも組閣できない」状況に陥ったのは、いくらイタリアといえども、共和国はじまって以来のことなのだそうです。

※ところでこの項は、今の気分にぴったりの、たまにはクラシックを文中に挟んでいきたいと思います。

 

大統領が提案した、政治的中立の『暫定政府』

「時間をかけ、上院、下院の議長の助けも借りて何度も話し合い、組閣の可能性を模索したが、過半数を有する連帯を見いだすことができなかった。そこでわたしはふたつの方法を提案したいと思う。ひとつは政治的に完全中立な『暫定政府』を今年の12月末を期限に発足するということ。もうひとつは『暫定政府』が発足できなかった場合、早期(夏か秋)の『再選挙』に踏み切るということ。しかし『再選挙』に突入した場合、年内に消費税増税を含む2019年予算案の決議をする時間があるのかを疑問に思う。さらにこの消費税増税が景気後退の要因になるかもしれないと懸念している」

「いくつかの政党から、連帯を形成するためにさらなる時間が欲しいという要請を受けている。もちろん、(選挙による)政府を構成するための過半数を得るために、時間をかけて連帯を模索することは有益だとは思うが、その間(政治の空白からイタリアを守るため)政治的に中立な『暫定政府』を誕生させることに、合意して欲しい。もちろん、この数ヶ月間に政党間の連帯で過半数が形成されたなら、『暫定政府』はただちに解散することを前提にしている。また政治的中立を保つために、この『暫定政府』の閣僚が、次の選挙に立候補することはない

マッタレッラ大統領の『暫定政府』に関する発言の要旨は以上のようなものでした。大統領はこの『暫定政府』を、「中立的な、保証としての、奉仕で構成された」といくつかの言葉で表現しましたが、要は2011年の南欧経済危機時に緊急に組閣された『マリオ・モンティ暫定政府』と同様の、大統領が閣僚を指名するテクニカル・ガーバメントを提案した、ということです。

前述した通り、この時『5つ星』と『レーガ』は「暫定政府はありえない。われわれは信任しない。夏に再選挙を希望する」とただちに表明しましたから、『暫定政府』が組閣されたと同時に解散する『幻の政府』となることは、その時点では決定的でした。しかし、もしこの『暫定政府』が実現したなら、首相女性に託されるだろうと予想され、何人かの候補の名も挙がっていた。発表時には「イタリア女性初の首相が誕生するのなら、いっそこのまま『暫定政府』でもいいんじゃないのだろうか。どうせ12月末には解散するんだから」とも思いました。また「バカンス真っ盛りの時期に、わざわざ投票に出かける人がいるのか」ということも、『再選挙』を実施するか否か、の大きなポイントとなりました。

市民そっちのけで繰り広げられる『組閣劇』の仲入り、というか、大統領のアドバイス通りにここで少し『停戦』して、空気を入れ替えたほうがいいのだ。もちろん国民が選んだわけではない政府が、しばらくの間とはいえ樹立することは本意ではないが、現在のイタリアにとっては、政治的に中立な女性の首相福音となるかもしれない、とも思いました。ところがホッと胸を撫で下ろして安眠した翌日に、事態はガラガラと音をたてて急変したわけです。そんなのんびりしたことは言ってられないのが、アドレナリン漬けのイタリア政治だということをすっかり忘れていた。

息つく暇もなく、強引な連帯に走る『5つ星』と『レーガ』

「彼らはヒットラーより質が悪い、ただの失業者の集団」と『5つ星運動』を罵倒し続けていたベルルスコーニと、「談合、収賄まみれの、所有メディア(メディアセッテ)で大衆を操る犯罪者」とベルルスコーニを定義する『5つ星』の激しいいがみあいで、一旦流れた『5つ星』と『同盟』の交渉です。しかし、実のところは水面下で、連帯のためのあらゆる可能性が研究され、模索されていたのかもしれない。しかも、昨日まで『連合右派』の分裂はありえないと強調していたベルルスコーニが突然、Astensione benevola/critica benevolenza(アステンショーネ・ベネーヴォラ/クリティカ・ベネヴォレンツァ)という、聞いたこともないポジションに退いた。

このアステンショーネ・ベネーヴォラを直訳すると「親切で優しい棄権 (法案の決議の際に議場から退出することで、過半数の数合わせをしやすくする)」とでもいうものです。かねてから『フォルツァ・イタリア』周辺で囁かれていた「アポッジョ・エステルノ(組閣に加わらずに外部から信任する)」とも異なり、『右派連合』という連携は解消しないまま、『同盟』のみ組閣に加わり、『フォルツァ・イタリア』は与党ではなく野党寄り、という曖昧な立場から、法案のテーマによってひとつひとつ信任する、あるいはしないかを決議のたびに決定するというポジションをとりました。『5つ星』と『同盟』による過半数が、50%そこそこ、という微妙に不安定な組閣(特に上院に関して)においては、場合によっては非常に危険な存在になりうる立ち位置とも考えられます。

それでも『5つ星』が熱望し続けた、ベルルスコーニの一線からの後退が一応は実現し、『レーガ』との交渉に障害はなくなったわけです。『駆け落ち』まで考え、思いつめていたマテオとルイジが、ようやく父シルヴィオに、家族と同居するという条件付きで認められ婚約できた、という感じでしょうか。

『5つ星』、『レーガ』の2政党は、マッタレッラ大統領に連帯交渉のためのさらなる時間を願い出て、それぞれの公約、すなわち『右派連合』の肝「フラットタックス」、さらに『5つ星』の肝「ベーシックインカム」、「移民関係の違法ビジネスの厳しい処罰と管理」、「年金支給の前倒し(マリオ・モンティ政権の緊縮財政で、年金受給年齢の引き上げが起こったため)」など、20項目に渡るひとつひとつの公約を突き合わせ、ドイツ政府をモデルにした契約を結ぶことができるかどうかの交渉をはじめました。5月14日の時点では、それらの公約の移民関係、欧州連合関係、防衛、インフラ関係には両党の一致を見られても、まだまだ不一致の項目もあり、調整にはさらに時間がかかることが、大統領府での記者会見で明らかにされています(追記:5月18日に合意された契約書が作成されました)。

また、公約の突き合わせ以上に、両党の連帯の障害になると見られる首相 (『5つ星』でもなく『レーガ』でもない第三者を擁立する予定だそうです)、並び閣僚20人の選定も行われていますが、具体的な名前が現れては消え、また現れるという具合で、進展は見られません。両党ともに誰が首相になるかより、国民のための公約ひとつひとつの確実な同意が重要だと答えています。

さらに一旦、両党の契約が成立、組閣メンバーが決定したならば、『5つ星』の基盤となったダイレクトデモクラシー・システム「 ルッソー」により、オンラインで全国のサポーターたちの決をとることが、『5つ星』のダヴィデ・カサレッジョから同時に発表されました。ということは、ディ・マイオを含む『5つ星』の幹部交渉だけでは組閣を決定することができず、オンライン投票結果如何では、組閣できないという状況に陥る可能性もある( 追記:5月19日のオンライン投票の結果、94%と、ほぼ満場一致となりました)。当然のことながら、これには『レーガ』が難色を示しています(追記:一方『レーガ』はイタリア各地の広場で決をとりました)。

 

ベルルスコーニは本当に『親切』で物分かりのいい老人に変身したのか

ところで、ベルルスコーニが突然アステンショーネ・ベネーヴォラに退いた際は、ラ・レプッブリカ紙、コリエレ・デッラ・セーラ紙などの主要紙が一斉に疑惑の目を向けました。特にアンチ・ベルルスコニズムをルーツとする新聞、イル・ファット・コーティディアーノ紙の主幹、マルコ・トラヴァイオの記事は痛烈でした。以下が記事の要旨です。

「ベルルスコーニという人物は、見返りなく自ら退くような人物ではない。あんなに『5つ星』への憎悪を剥き出しにしていたのに、今になって突然『親切』になるなんてことはあり得ない。異様な変わり身だ。もちろん『再選挙』で、『フォルツァ・イタリア』が『レーガ』に票を喰われることを阻止したかった (5月8日の世論調査では、『フォルツァ・イタリア』の支持票14%から、5%以上の票が『レーガ』に移動するという結果が出ています)からかもしれないが、両者の間になんらかの取引が交わされたのかもしれない。契約された公約のひとつひとつ、閣僚の顔ぶれが明らかになったときに、それが何であったかがわかるはずだ。特に法務相、経済発展相、財務相に誰が指名されるかも重要な要素だ」

なにしろベルルスコーニは、現在5つほどの裁判を抱え、メディアセッテ (所有メディア)脱税事件の有罪判決から、議員資格を剥奪されている人物です (後述しますが、後日驚く展開となります)。自分に関わる法案、例えば「政治家はメディア会社を所有する権利を有しない」というような、まさしくベルルスコーニを意識したような『5つ星』の公約を削除することを条件に、自らが連帯から退いたのではないか、あるいは自らの権益に有利となる閣僚を選ぶことをも条件にしているのでは?と推測されている。そもそも『5つ星』の姿勢に賛意を示していたトラヴァイオは、『5つ星』が、ベルルスコーニからどういう形であっても離れられない『同盟』と連帯して政権を握ること、つまりベルルスコーニを政府の背景に持つことは、彼らにとって将来的なリスクが大きすぎるのではないか、と心配しているのです。

しかも『同盟』と『5つ星』の連帯交渉がはじまったタイミングで、あと1年は剥奪される予定だったはずの議員資格を、ベルルスコーニに再び許可する、というミラノ地方裁判所の電撃決定のニュースが駆け巡り、「なぜ、いま?」と、尽きぬイタリアの謎に驚くことになりました。これでベルルスコーニは、『フォルツァ・イタリア』の比例リストで上がった議員の席を、即刻譲り受けることが可能となり、さらに、どんな選挙にも立候補することができるようになりました。ベルルスコーニという人物は、何度も有罪判決を受け収監の危機を迎えながら、議員特権や恩赦のおかげで、きわどいところで実刑を切り抜ける。これもまた、イタリア司法の不思議のひとつであります。

こうして、突如としてベルルスコーニが政治的に自由の身となったことで、『フォルツァ・イタリア』界隈は歓喜に湧き、ベルルスコーニの今後の動向次第では、現状になんらかの波乱が巻き起こる公算がかなり高い見込みとなりました。政権を目前にして浮かれ気味の『5つ星』も、この老人の一撃にある程度の覚悟を持って、立ち向かう準備をしておいたほうがいいのかもしれません。

早速ベルルスコーニが「政権の信任に、我々(フォルツァ・イタリア)はNOをつきつけよう。しかし政府そのものは発足させる。それから奴らが壁にぶち当たるように仕向けるのだ」と高笑いしている、と言われています。もし、悪事に長けたこの老人が、それを実現させることに成功すれば、『5つ星』だけでなく『同盟』の支持率も急激に下がるかもしれない。また『フォルツァ・イタリア』の幹部は「国際社会からも懸念される、こんなグロテスクな連帯はしないほうがいい。一旦『暫定政府』を信任して、来春に『選挙』に持ち込めばいい」と発言。『右派連合』のもうひとつの一角である『イタリアの同胞』も「再選挙をしたならば『右派連合』だけで組閣できる数字が取れる」と、『5つ星』と『同盟』の連帯には否定的です。

余談ですが、オスカー受賞監督パオロ・ソレンティーノがベルルスコーニをモデルに描いた『Loro(彼ら)1』『Loro(彼ら)2』という上下で構成された長編の映画が、現在公開されています。安っぽく隠微、享楽的で退廃に満ちたベルルスコーニを巡る露悪趣味を、内容は現実に忠実に、ソレンティーノらしく大胆でゴージャスな美意識とスタイルで表現して、好評を博しています。

わたしはまだ『Loro1』しか観ていないのですが、『Loro2』を続けて観るには、しばらく時間が必要な、なかなかディープなデカダンスでした。この主要メディアの所有者である、金満権力者の倫理感が「イタリアの大衆文化」を下品にぶち壊した、と言われていますが、「なるほど」と納得する濃密な内容でもあります。

 

戦後のイタリアで、はじめての2大ポピュリズム政権誕生となるのか

ところで、イタリアにいつまでも政府が樹立しないのは心配ではありますが、『同盟ーレーガ』だけは嫌だな、と思っていた矢先の『5つ星』と『レーガ』の連帯交渉がはじまった、というニュースが、これからまた選挙キャンペーンに突入、『再選挙』という気だるい未来を軽く吹っ飛ばしたことは前述の通りです。世論調査によれば、イタリア国民の多くが望んでいる(イタリア人の10人に6人が両者の組閣に賛成)連帯とはいえ、正直、わたしにとっては由々しき事態となりました。

『5つ星運動』に関して、『脱ユーロ!』を煽った極端な扇動者、ベッペ・グリッロが退いてからは、若者たちの意外と柔軟で真摯な姿勢が顕著となり、「後ろ盾(例えば『民主党』などの)があるなら、彼らが政権に関わってもいいのではないか」という気持ちにもなった。確かにリーダーである、ルイジ・ディ・マイオの若さゆえの辛抱のなさ、楽天的すぎる展望とボキャブラリーの乏しさには、多少の懸念を抱きますが、優秀でテクニカルな裏方も数多く存在し、今後、政治的な経験を積んで成熟していけば、単なるポピュリズムから脱する可能性もあるように思います。

しかしながら、このネットを由来とする市民運動の、アイロニーやユーモアを許さない、『遊び』がない部分には不安を感じるのも事実です。異論を述べようものなら、窒息しそうな数の反論が飛び交い、容赦なくオンラインで決を取られる。『5つ星運動』特有の、このネット閉塞感を打開することも、彼らの今後の課題かもしれません。

一方、『レーガ』のマテオ・サルヴィーニの、マッチョでシンプルな強引さには、残念ながらどうしても好感が持てない。そもそも『5つ星運動』と『レーガ』という政党は、ともにアンチシステム、アンタゴニズムをルーツとする『ポピュリズム』以外には共通する思想もなく、党の由来、歴史も党員の構成もまるきり違います。それでも今回の選挙では、この両者が相違点を超えて組閣しなければならない状況に陥るほど旧勢力が弱体化してしまった。

戦後、特に最近のイタリアの25年間を形成した、中道右派、中道左派という政治ダイナミズムは瞬く間に背景に押しやられ、極右政党『レーガ』とオンライン直接民主主義をベースにする市民運動『5つ星』による、前人未到の政治がはじまるかもしれないことに、欧州連合だけでなく、ワシントン・ポスト、ブルームバーグ、ロイター、FTなど、多くの国際メディアが戦々恐々としている。『5つ星』のポピュリズム、さらに『レーガ』のポピュリズム+イタリア至上主義+反欧州主義による国政の実現が、膨大な赤字国債を抱えるイタリア経済に、どのような影響を及ぼすのか、国際市場がどうみなすか、投機の標的にはならないのか、今のところはまったく不明です。

いずれにしても、右、左の政治思想を持たない『5つ星』が『レーガ』と連帯して組閣に成功すれば、右派ポピュリズム政府と見なされることになるわけですが、政界に蘇ったベルルスコーニの影響力が、今後の国政にどれほどの影響を及ぼすかも不安要素のひとつです。

『民主党-PD』はいったいどうするつもりなのか

この連帯の可能性が突如として表面化するまで、「そもそも左派」の人々は、できれば『民主党ーPD』と『5つ星運動』の、なんらかの形での連帯で構成された政府を熱望していました。政治経験に乏しく、倫理、善悪の判断基準がオンライン上のダイレクトデモクラシーという『5つ星』の危うさを補強するには、その経験と国際常識、政治のノウハウ、つまりシステムの有り様を知り尽くしたPDが連帯を組むしかない、と考えたからです。また、『5つ星』の閉塞感にPDの開放感をうまく噛み合せることは、移民問題を考える上でも重要であり、欧州連合にとっても好ましい組み合わせだったのではないかと思います。

しかし、下院議長ロベルト・フィーコの仲介で、ディ・マイオが、時間をかけてPDに歩み寄りを見せはじめた矢先、選挙の大敗を受け、「これからの2年間、自分はシンプルな上院議員として、党員に影響を及ぼさないように静かに過ごす」と断言し、書記長を辞任したはずの元首相マテオ・レンツィがTVトークショーに出演。「選挙に勝った政党が連帯して組閣すればいい。PDはあくまで少数派を貫く。『5つ星』との連帯はありえない」と発言し、スタジオから『民主党』の指揮を執るという暴挙に出ました。PD内でも『5つ星』との前向きな話し合いの機運が高まっていたにも関わらず、いまだに党内に大きな影響力(PDの60%がレンツィ派)を持つレンツィのスタンド・プレイで、両者の連帯はあっけなく地中海の藻屑と消え去ったわけです。

しかし今から思うなら、レンツィの電撃的書記長辞任とともに、『5つ星』を含めたあらゆる連帯に扉を閉ざす、という方針は、やはり当初から指摘されていたように、政治混乱を生み出すための一種の策略だったのだと思います。そして次にレンツィが待つのはベルルスコーニ同様、『5つ星運動』と『同盟』の連帯が、国政を混乱させ、失敗に終わることなのでしょう。それに『5つ星』が極右ポピュリズム+ナショナリズム、反欧州主義の『同盟』と組むことは、「そもそも左派」で『5つ星』に投票した人々の猜疑心を引き起こし、票がPDに戻ると読んでいる。さらには、欧州から怯えられているポピュリズムの2政党による政権が失敗すれば、PDの今までの政治能力を顕示、再び支持を集めるはず、というところでしょうか。

実際、今回の突然の2政党による連帯交渉にレンツィは喜んでいるようで、「非現実的な公約を実現してみるといい。ポップコーンを用意して高みの見物といこう」とコメントを出し、さすがにこの発言は不適切、とPD内部からも批判が巻き起こりました。今PDがやるべき最も重要なことは策を弄することではなく、大敗を反省し、敗因の分析に真摯な態度で取り組むことなのではないか。

ところで、PDと『5つ星運動』はどうして連帯できなかったのか、という理由を、先日PDの別の幹部が説明していましたが、PDとしては、どうしても「ベーシック・インカム」という政策を受け入れられないからだということでした。なぜなら「何もしない人間に魚は与えられないからだ。魚を得るためには釣りをしなければならない。イタリアの憲法では、イタリアは人民の労働に支えられた国だ、とはっきり書かれているではないか。つまり各自が働かなくてはならない。PDは労働、釣りをしない者に魚は与えられないという方針だ」

党幹部はそう説明していましたが、それを聞きながら「生産性のみを重視する、まるで強制収容所だ」と感じるとともに、この人たちは市民の現状を全く理解していないのだ、とも思いました。

南イタリアの50.4%の家族が定収入を得られない、つまりどうしても仕事が見つからない。釣りに出かけても魚が一匹もいない、ただ美しいだけの海原が拡がっているだけ、というのが南イタリアのリアリティです。PDが「イタリアの左派は自分たちだ。『5つ星』を新しい左派という人々がいるが、我々はそうは思わない」と、あくまで左派を自認するのであれば、市民の視線で現実を捉え直す必要があるのでは、と感じたというのが正直なところです。PDがこんな風だから南イタリアの人々は『5つ星』を支持したのだということを、まず認識すべきであり、さらにPDが『5つ星』との連帯を拒絶したことは、南イタリアの市民を拒絶したことと同じで、「寄る辺ない人々に手を差し伸べることなく敵に回した」と言わざるをえないでしょう。

 

 

さて、そういうわけで、イタリアではムッソリーニを最後に消えてなくなったはずのポピュリズム2大勢力、『5つ星』と『同盟ーレーガ』が台頭。絶対にありえない、と考えられていた2政党が、今や政権を握るかどうかの瀬戸際です。

『レーガ』のデマゴーグ、マテオ・サルヴィーニは、確かに国民の生活を改善するための多くの公約を提示しましたが、ひたすらヘイトスピーチを繰り返してきた、ホモフォビア、クセノフォビアのレイシスト。『レーガ』のそもそもの母体、イタリア北部の独立分離主義政党『北部同盟ーレーガ・ノルド』のカラーを一気に塗り替えた書記長です。暴力的な移民弾圧発言を繰り返し、フェイクニュースで人々を扇動し、反欧州主義、親ロシア、親マリーヌ・ルペンを強調して、比較的裕福な北部の中小企業から『カーサ・パウンド(ローマの極右グループ)』まで、いまや幅広い支持層を抱えている。Facebookでは、ディ・マイオの160万人をはるかに超え、220万人に「いいね」がマークされる人気です。

人口が70億人を突破し、いよいよ貧富の格差が著しくなり、各国の軍事費は増え続け、その分社会福祉予算は年々減少、文化、思想、倫理より自分の生活を守ることで精一杯、という傾向が世界中に蔓延しています。普通に暮らす市民の生活はどんどん苦しくなり、難民の人々は路頭に迷い、社会に積み重なった不満と憎悪と息苦しさで、人々は世界を顧みることを忘れ、自分の生活の周辺にだけしか興味を持たなくなりました。無数に溢れかえる情報の渦に巻き込まれ、立ち止まって考える時間もなく、SNSに流れては消え去る、嘘か本当かわからないニュースに感情を振り回される。不平不満と羨望と倦怠の現実にうんざりして、刺激的な希望と未来を求めるわれわれは、一見強そうに、正しそうに見えるデマゴーグに簡単に惑わされます。

わたしにとってもまったくはじめての経験なので、イタリアに万が一、純粋なポピュリズム政権が樹立した暁には何が起こるのか、予想もつきません。心配は単なる杞憂で、意外とピースフルで市民が暮らしやすい社会が生まれるかもしれない。反対に、手のつけられない混乱状況に陥るリスクも孕んでいるかもしれません。ディ・マイオとサルヴィーニの交渉がおこなわれたミラノの『5つ星』支局には、すでに数多くの抗議者が詰めかけています。

眼前には、神のみぞ知る未来が待ち受けていますが、イタリアの市民が「こんな生活はもうたくさん。いますぐ政治を変えたい」と選んだ結果でもあるので、できるだけ冷静に気前よく受け入れ、経緯を淡々と観察したいと思います。しかし欧州において、このような純粋なポピュリズムの政府が誕生するならば、それが機能するのか、しないのか、かなり無責任に国民を巻き込んだ大いなる実験になるはずです。

さて、まだ組閣されないままですが、この項は、よほど大きな出来事が起こらない限り、とりあえず終わりにしたいと思います。『5つ星』と『レーガ』が、例えば『フォルツァ・イタリア』に妨害される、合意に時間がかかりすぎる、あるいは合意に至らないなど、組閣に失敗すれば、政治的中立の『暫定政府』が組閣され、その政府が信任されなければ『再選挙』へと突入することになります。

いずれにしてもイタリアは、混乱とともに大きな変化を迎えているようです。

5月23日追記

さて、公約の突き合わせの結果、合意が成立。『5つ星運動』が推挙した、政治経験がまったくない民法学者(フィレンツェ大学、ルイスーグイド・カルリ経済大学)で弁護士のジュゼッペ・コンテに『同盟』も賛同しました。両党から首相候補として正式に発表された後、しかしコンテの学歴詐称の疑いがNYタイムス紙(イタリア主要メディアではなく)に指摘され、一時は大騒ぎになりましたが、一日置いて大統領から正式に首相に任命されることになった。「イタリア国民すべての弁護士でありたい」というのが首相任命後初の大統領府会見での言葉でした。これからいよいよ組閣です。

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