『同盟』『五つ星運動』イタリア第3共和国、忍び寄るファシズムの悪夢

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こうなるかもしれない、とおぼろげには予想していましたが、イタリアは政治的にも、経済的にも、倫理的にもダイナミックな動乱期にあります。3月の総選挙以来『5つ星』、『同盟』各党首の衝撃的な発言に振り回され、向こう3年の『国家予算案』を巡って激化する対立のなか、予想もしなかった逮捕劇が起こり、メディアは名指しで糾弾され、ホッとする暇がありません。政界は敵意と強情と緊張にすっぽり包まれて、欧州から孤立しながら、見切り発車の気配も漂う。毎日がアドレナリン漬けの『挑発』の連続で、「呑気で陽気でいい加減」という、イタリアのステレオタイプはすっかり影を潜めてしまいました(タイトルの写真は、ファシズムからの解放に歓喜する、パルチザンとして闘った女性たち。Patriaindipendente.itより引用)。

しかし、よくよく考えてみると両政党、とりわけ『同盟』党首マテオ・サルヴィーニの攻撃的なゴリ押しプロパガンダは、2019年5月19日に開催される欧州議会選挙を見据えての選挙キャンペーンを兼ねて、ということなのでしょう。『5つ星運動』のルイジ・ディ・マイオ党首もまた、来年の5月の選挙後には「欧州連合のメンバーはガラリと変わるから、心配しなくていい」と予言のような発言をしています。激情といがみ合いの99日を経て、ようやく新しい政府が樹立したところで、すっかり枯れ果てた有権者たちは、無条件に政府を応援する、または日々上昇する国債スプレッドの数字を見ては嘆息する、あるいは団結して奮い立ち抗議集会の準備をはじめる、というところでしょうか。

ドラスティックに変わりつつあるイタリアの空気

就任早々、うむも言わせず難民の人々のイタリア入国を拒絶した『同盟』党首マテオ・サルヴィーニ副首相は、内務大臣というポストをフルに生かし、長きに渡って培われたイタリアのヒューマンな精神性、倫理観を木っ端微塵に打ち砕きながら猛進しているように思えます。そして『同盟』のメンバーたちは、そのサルヴィーニに追随するがごとく、ちょっと前のイタリアでは決して考えられなかった、滑稽なほど分かりやすい差別的な振る舞いを、外国人、女性、LGBTの人々に向けて行うようになりました。

たとえばイタリアに、移民である外国人の子供達が、食堂で給食が食べられず、地下の教室に寄せ集められて持参のサンドイッチを食べることを強いられたうえ、スクールバスにも乗せてもらえない、という差別的な小学校が現れることなど、いったい誰が想像したでしょう。これは、「食費も交通費もわずかしか払わない(イタリアでは両親の収入によって、学校の経費が設定される)彼らが、母国に財産がないことを証明する書類をも提出しないから」と、ミラノからほど近いローディという街の『同盟』市長が下した決定です。幼い子供たちに、教育の場で差別を擦り込むとは言語道断としか言えませんが、サルヴィーニはFacebookでローディ市長を「正しい」と擁護しました。

ここ数週間のうちに、次々にこのような人種差別的なニュースが駆け巡り、『極右化』というよりは、古典的なイタリアン・ファシズムはこのようにはじまったのか、とタイムスリップをしているような気分にも襲われます。まるで、かつてユダヤの人々に向けられた謂れなき憎悪と同様の感情が、巧みな誘導プロパガンダを経て、移民、難民である外国人、特にアフリカ、そしてイスラム圏の人々に向けられようとしているかのようです。しかしながら、現代のパルチザンたちも強固なレジスタンスを開始。ローディ市の決定が報道されるや否や非難が殺到し、SNSの呼びかけがはじまって数日の間に、外国人の子供たちの給食代、バス代をフォローする60000ユーロの基金が集まった。また、政府として解決に尽力することを『5つ星』の下院議長、ロベルト・フィーコが約束しています。

さらには家族省大臣、『同盟』のロレンツォフォンターナと右派無所属のヴェローナ市長フェデリコ・スボアリーナは、「MI6の協力者」と幾度も英紙に書かれた人物が指揮を執る、極右グループ『フォルツァ・ヌオヴァ』と連帯。78年に成立した『中絶』の権利を認める民法194条の消去を巡って国民投票を計画していると言われています(ヴェローナ市議会では、すでに『中絶禁止』条例を可決)。さらに彼らは法律の消去だけではなく、『中絶』した女性とそれを幇助した医師を処罰、特に女性には、12年の刑(!)を課す提案をしているのです。この動きには「まるで中世に逆戻り。フォンターナはきわめて危険」と、フェミニストたちを先頭に、左派、極左グループが激怒して、みるみるうちに女性中心の連帯が全国に広がりつつあります。早速14日の日曜、ヴェローナでは女性たちが中心となって大がかりな抗議集会が開かれました。

このように、「まさかこんなことを言い出す政治家が現れるなんて」と、今までのイタリアの常識を見事に覆す、人権や人間性を無視した決定、発言が連発されるのは、市民の分断を狙っての意図的な『挑発』ではないか、と思えるほどです。「敵は難民であり、欧州連合であり、世界を形成するシステムである。イタリアの男たちは断固として敵と戦い、市民を敵から守り、豊かな社会を取り戻す。女性は女性らしく家庭に入り母として家族を守るべきであり、当然ホモセクシャルの結婚は認めない」という既視感のある主張で、古典的なファッショ・ムードを創出。日々の生活で欲求不満に陥り、怒りのぶつけどころを探し求めるアンチエスタブリッシュ層をみるみる扇動し、一時『同盟』の支持率は、北イタリアで48%、全国では34%を記録している。

この、マテオ・サルヴィーニという人物は『北部同盟』時代から現在に至るまで、たとえば難民の人々への憎悪を煽るようなフェイクニュースや特定の人物(特に左派)に向けた個人攻撃(悪態)、欧州連合を拒絶するのみならず、まるで陰謀グループ扱いする発言を繰り返すことで、多くのファンを獲得しています。そしてその有り様は、善悪を凌駕する「インパクト」と「ショック」で、反知性的に人々の感情を引き寄せる、米国式ストラテジーと酷似している。実際、サルヴィーニの背後には「欧州の分裂」を狙う、件のスティーブ・バノンの影が常にちらついていることは、多くのメディアが報道している事実です。サルヴィーニのオリジナル、と言えるのは、ここぞ、というときに『黒シャツ』風の海兵隊ユニフォームで現れるイタリアン・ファッショな演出ぐらいでしょうか。

クルドの人々を含める外国人も多く参加した、占拠グループのデモには10000人の参加があったそうです。久々に大がかりな「アンチ・サルヴィーニデモ」となりました。

欧州連合、市場を敵に回し孤立。紛糾しながら承認された国家予算案

イタリア政府は現在、Def=今後3年間の『国家予算案』を巡り、欧州連合、欧州中央銀行、イタリア中央銀行、IMFを敵に回し、国債売買の信用指標となるスプレッドが 、ギリシャ(402)ほどではなくとも300前後を彷徨 (スペイン:131 ポルトガル:162 :10月18日)していましたが、18日には327まで駆け上がり、市場が戦々恐々としています。草案は15日に内閣に承認され、今のところは『5つ星運動』も『同盟』も、どんな衝撃が訪れようとも、現案を貫く姿勢を崩してません。イタリア中央銀行や年金機構から「ありえない!」と非難されても、『同盟』『5つ星』ともに、「言いたいことがあるなら選挙に出て当選してから非難しろ」と恫喝。あらゆるアドバイスを拒絶するという展開でした。

3週間に渡って続くスプレッドの高騰に伴って、国債利子が大きく跳ね上がり、今後、融資を受け続けるであろう企業群がどれほどのダメージを受けるのか、18日には欧州連合から「過去に例のない、逸脱した予算案は受け入れられない」と早速手紙が届き、これからさらにスプレッドは跳ね上がるのか、それに伴い草案が変更を余儀なくされるのか、それともまたぞろユーロ離脱の議論が巻き起こるのか、今はとりあえず、この緊張を静観する他ありません。

さて、総額340億ユーロのその草案の主な柱は、といえば、●ベーシックインカム ●フラットタックス ● 年金の前倒しと見直し (38年間年金を払えば62歳から受給可能となる) ●未払い税金の、金額、及び年数に合わせた段階的な減額長期ローンへの組み直し、あるいは免除(内閣承認後、この草案について『5つ星』と『同盟』に齟齬が生じて大きく対立しています) ●地方自治体への投資 ●官公庁及び難民保護関連の大幅な予算削除 ●消費税増税の中止(現行22%の維持)、などを含む12項目となっています。実際、このまま草案が実現されたなら、市民の生活はぐんと楽になり、未払い税金で苦しんでいた人々も取り立てから解放される。イタリアから貧困が消滅、消費が上昇するかのようにも思えます。しかし詳細を見ていくと、意外な落とし穴も空いているのです。

欧州各国の最低賃金(青)とベーシックインカム(オレンジ)。ルクセンブルグ、デンマーク、スイスの最低賃金はやはり飛びぬけている。コリエレ・デッラ・セーラ紙より引用

たとえば、基本的にわたしも賛成しているベーシックインカムに関しては、今回の草案には疑問を持たざるをえない、というのが正直なところです。というのも780ユーロを限度とするベーシックインカム(フランス:530ユーロ、ドイツ:約400ユーロ、英国:400ユーロ以下)は、両親と同居していたり、持ち家がある場合は減額となり、さらには現金あるいは銀行振込みで支給されるのではなく、プリペイドカード方式(貯金できないように、繰り越しなしで月末にはゼロとなる)が導入されそうです。しかもそのカードは指定されたイタリア国内の店でしか使えません。また、受給者は週に8時間の社会奉仕の義務が課せられます。

さらに倫理的(?)な理由から、家電量販店や煙草屋では使えないとされます。つまり、ベーシックインカムを受給する人は、家電を安く買う権利も、煙草を吸う権利も、ロト(通常、煙草屋で販売される)を試す権利も認められない、ということです。外国人に関しては、滞在許可証を取得して5年以上が経つ長期滞在者のみが権利を有します。また、個々の受給者の消費を逐一モニタリング、万が一、不正受給が発覚した場合は6年の刑に処されるという厳しさです。

現在イタリアには、650万人あまりの人々がベーシックインカムを必要としているとされますが、果たしてその膨大な数の人々の消費を、国家、地方自治体が管理するキャパシティを持っているかが、まず疑問ですし、なにより「国家が貧困者の消費を管理する」という姿勢そのものに、市民の尊厳に関わる重大な問題が含まれているのではないか。ジュゼッペ・コンテ首相はこの条件を、ドイツのケースを研究した結果として、過保護主義に陥らないための工夫と発言していますが、不法受給は6年刑務所、という処罰以外にも不正を取り締まる方法があったのではないかとも考えます。とはいえ、モニタリングされようが、社会奉仕があろうが、多くの人々がベーシック・インカムを望んでいるのは確かです。

さらに、このベーシックインカムは『イタリア人のための政策』と強調され、滞在許可が下りないまま、住む家も見つからない難民の人々が、まったくカバーされないことは大きな気がかりです。「働かないでソファでゴロゴロしながらベーシックインカムを受給する輩を取り締まるため」、さまざまな厳しい条件が課せられているベーシック・インカムですが、イタリアにおいては、ソファどころか、路上でしか生きていけない外国人たちの過酷な貧困があることは、無視できない現実でもあります。

一方、フラットタックスは、個人ではなくPartito IVA( VAT registration number)を所有する自営業に限られ、専門職の人は年収3万ユーロ、そのほかのカテゴリーは5万ユーロを上限とし、税金が一律15%となります。さらにグループ経営などの小企業に対しては、収益6万5千ユーロを限度として、このフラットタックスを拡張する予定です。収益が6万5千ユーロから10万ユーロの企業に対しては、5%が増加され20%となる。また、若い世代のスタートアップを優遇するとして、35歳以下の事業主は税金を-5%とします。したがって15%のフラットタックスを考えた場合、当然上限に近い収益を上げる事業主にメリットが高くなり、額が減少するにつれ、今までとそれほど変わらない税金を収めなければならないことになります。

いずれにしても今のところは、2019年の国内総生産に対するdeficitが -2.4%となる(その試算は明らかに楽天的すぎる、と欧州連合、欧州中央銀行、IMF、イタリア中央銀行などから総攻撃を受けました)莫大な赤字国債を抱えるイタリアの『国家予算案』で、市場が荒れても、スプレッドが急騰しても、マテオ・サルヴィーニ は「すべてジョージ・ソロスとその一党の陰謀」と言い張っており、一万歩譲って彼の言う通り、市場に何らかの謀略の力が働いているかもしれませんが「イタリアほどの国の国債になると、ソロス・グループぐらいの投資家たちが、どうこうできる規模じゃない」とエコノミストたちは一笑に伏しています。市場は単純に、「予算案が信用できない。イタリアが怖い」という意思表示をしているにすぎないと考えるのが、妥当ではないかと思います。

さらには、今回の国債スプレッド高騰に関して「この状況を、きっとイタリア人たちが助けてくれる」とサルヴィーニ、及びユーロ懐疑派と言われるサヴォーナ欧州大臣が続けて発言。これはイタリアよりも遥かに莫大な赤字国債を国民が支えるジャパン・モデルを模倣すべく、イタリア国債を国民が買い支えるよう提案したわけですが、どうやら国民も二の足を踏んでいるようで、今のところ国債買いの動きは見られません。

欧州連合は、10月22日までに予算案の変更を要請していましたが、イタリア政府がそれを頑として拒絶。月末にかけて、スタンダード&プアーズなど格付け会社の国債格付けが発表される予定です(※ムーディーズは19日に、イタリア国債をジャンク一歩手前のBaa<安定的>に格下げしています)。

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